1937年7月7日、中国の北京*1郊外の盧溝橋付近で日中両軍が衝突しました。盧溝橋事件です。
夜間演習を繰り返していた日本軍に対して中国側(国民政府系の第29軍)の兵士が発砲した偶発的な事件というのが通説です。偶発発砲説については秦郁彦氏の研究がよく知られていますが、別段秦氏の独創的な研究というわけではなく、「近代戦史の謎」には既に有力な説として偶発発砲説が取り上げられています。秦氏の功績はそれを裏付ける資料収集にあると言えるでしょうか。
これに対して、共産党陰謀説を熱心に推しているのが、産経新聞をはじめとする日本の歴史修正主義陣営です。共産党陰謀説も「近代戦史の謎」で一説として記載されていますが、この時既に有力な説とは見られておらず、現在学術上は共産党陰謀説は相手にされないトンデモと言っていいでしょう。
中国側は第一発を発射したのが誰かについて重視していません。実際、最初の発砲の時点では日本側には一人の死者も負傷者も出ていません。にもかかわらず、日本側は大規模な武力攻撃で報復し、この結果、“誰も傷つけなかった第一発”が日中両軍の武力衝突へとつながりました。
7月末には、日本軍は北京、天津をはじめとする河北省北部を武力占領するに至っています。誰がどう見ても日本軍による中国侵略であり、仮に7月7日の発砲が中国側や共産党による発砲だったからと言って正当化されるものではありません。
真珠湾の報復として原爆が正当化されないように、誰も傷つかなかった一発の銃声*2の報復として北京、天津に対する侵略は正当化されません。
侵略した日本にとって7月7日はただの七夕ですが、七夕の由来である牽牛・織女の伝説の国である中国にとって8年にわたる日本の侵略と圧制の発端となった事件の日です。侵略された痛みを侵略した側が知るには想像力が必要ですが、日本人は想像力に欠けています。
中国での式典を「反日」としか理解しないメディアは責任を放棄している
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140707-00000020-rcdc-cn習近平主席、盧溝橋事件77周年の記念式典に出席=最高指導者の出席は初めて―中国
Record China 7月7日(月)12時45分配信
2014年7月7日午前10時、盧溝橋事件77周年を記念する式典が中国人民抗日戦争記念館で開かれ、中国の最高指導者である習近平(シー・ジンピン)国家主席が出席し、演説を行った。最高指導者が盧溝橋事件の式典に出席するのは初めて。中国新聞社が伝えた。
式典には習主席のほか、兪正声(ユー・ジョンション)中央政治局常務委員ら党幹部や1000人余りの各界の代表者が参加している。中国政府が77年という節目ではない年に大きな記念式典を開くのは異例のこと。(翻訳・編集/北田)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140707-00000016-rcdc-cn盧溝橋事件77周年、中国は「異例の規模」で記念式典=日中関係の悪化が背景に―海外メディア
Record China 7月7日(月)11時38分配信
2014年7月7日、環球網によると、「盧溝橋事件」(中国名:七七事変)から77周年を迎えるこの日、中国共産党指導部は中国人民抗日戦争記念館で開かれる記念式典への参加を予定している。
記念式典の様子は中央人民ラジオ局、中国中央テレビ(CCTV)、中国国際ラジオ局や、新華網、人民網、中国ネットワークテレビ局(CNTV)などで生中継される予定。77年目という「節目ではない年」に異例の規模で行われる式典に、世界のメディアが注目している。
日本メディアは、記念式典は最大規模で行われ、習近平(シー・ジンピン)国家主席が出席する可能性が高いとし、「中国政府は国家レベルで反日活動を盛り上げるようだ」と伝えている。
一方、韓国・聯合ニュースは、中国は抗日戦争記念を契機に、引き続き国内外に日本帝国主義の野蛮な行いを知らしめる狙いがあると分析。「5年や10年という節目の年ではないにもかかわらず、ここまで大きな規模の式典を行うのはまれである」とし、その背景に歴史問題や尖閣諸島(中国名:釣魚島)問題で日中関係が極度に悪化していることを挙げている。
また、台湾・中国時報は、「今年は“七七事変”から77周年に当たり、77が2つ並ぶために特別な意味を持つ。人々に戦争の残酷さを記憶にとどめさせ、平和への願いを強くさせるものだ」と指摘している。(翻訳・編集/北田)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140707-00000019-asahi-int中国・習主席、盧溝橋事件式典に出席 強める対日圧力
朝日新聞デジタル 7月7日(月)11時55分配信
日中全面戦争のきっかけとなった盧溝橋事件から77年を迎えた7日、北京市郊外の盧溝橋にある中国人民抗日戦争記念館で開かれた式典で習近平(シーチンピン)国家主席が演説した。最高指導者の参加は極めて異例。歴史問題を巡り、安倍晋三政権に対する圧力を本格的に高めていく姿勢だ。
習氏は演説で「日本の侵略者の野蛮な侵略に対し、全国の人々が命を省みず、偉大な闘争に身を投じた。今も少数の者が歴史の事実を無視しようしているが、歴史をねじ曲げようとする者を中国と各国の人民は決して認めない」などと強調。中国の抗日戦争を「世界反ファシズム戦争の東の主戦場」と位置づけた。
中国の最高指導者が50周年などの節目の年の終戦記念日前後に同記念館を訪れた例はあるが、7月7日に同記念館を訪れるのは初めて。昨年末の安倍首相による靖国神社参拝を受け、習指導部は旧日本軍による侵略の歴史を改めて内外に強調し、日本側に圧力をかけていく狙いとみられる。
朝日新聞社
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20140707-00000031-bloom_st-nb中国国家主席、盧溝橋事件の式典に出席−日本の侵略を批判
Bloomberg 2014/7/7 16:34
7月7日(ブルームバーグ):中国の習近平国家主席は7日、日中戦争の発端となった盧溝橋事件から77年目の式典で、戦時中の日本軍の侵略行為を批判した。国営の新華社通信によれば、盧溝橋事件の記念式典に中国の最高指導者が出席するのは初めてで、日中関係がさらに悪化する恐れもある。
習主席は盧溝橋での午前中の式典で、退役軍人らを含む聴衆を前に演説し、中国と世界は歴史と事実をゆがめようとする「少数派」を受け入れることはないと語った。演説は中国全土にテレビ放送された。
日中両国は東シナ海の尖閣諸島をめぐり対立しており、習主席は盧溝橋事件の式典の重要性を強調することで対日圧力を強めた。新華社通信は、習主席が「誰も歴史と事実を変えることはできない。歴史を否定し、ゆがめ、もしくは美化しようとする何人たりとも、中国人民と全世界の人々の同意は得られない」と述べたと報じた。
原題:China President Xi Targets Japan on Anniversary of 1937Invasion(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:香港 Ting Shi ,tshi31@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rosalind Mathieson Western ,rmathieson3@bloomberg.netNeil
以上の報道を見て、むしろ国家主席が今まで盧溝橋事件の式典に参加しなかったことに驚きました。
慰安婦問題でもそうですが、南京事件や戦後補償問題について、これまで中国政府はかなり抑制的だったと言えます。“中国は反日”と言ったこれまでの論調がいかに欺瞞的なプロパガンダだったかと思わされます。同時に中国側からすれば、安倍政権の露骨な挑発行動と軍事化・右傾化に対して抑制する必要性を感じなくなったということでしょう。
これで安倍政権を支持した人の希望通り、日中は東アジアでの冷戦構造構築へと突き進んでいくでしょうね。
1972年のようにアメリカからはしごを外されることになるかどうかは今のところわかりませんし、冷戦が冷たいままである保証もありません。ひとつだけ言えるのは冷戦は軍拡を促しますので、アメリカが日中対立から距離を取ったり、中国と接近したりすると、日本国内では独自の核抑止を求める声が強まるでしょう。最初はアメリカの離反を抑止する手段として、最後は自ら煽った世論の反発を回避する手段として核配備へと突き進んでいくでしょうね。
まあ、それもアベを選んだ間抜けな日本人の愚かな選択です。