「なぜ徴兵制が現実的ではないのか?」といって挙げている内容が現実的でない件

日本で徴兵制をやるとすれば、高校3年時の健康診断と学力テスト*1防衛省が収集し、健康状態・学力が徴兵に耐えうる基準に達しているものを原簿に登録し、防衛計画に必要な兵員のうち志願者で不足する分を原簿登録者から選抜するという選抜徴兵制になるでしょう*2
選抜徴兵制は戦前日本で行われていた制度で、実施するにあたって制度的には大した困難はないと言えます。
さて、このような選抜徴兵制を考慮すると・・・

•なぜ徴兵制が現実的ではないのか?
1、自衛隊/政治的な問題
1−1、自衛隊の練度を維持できるか?…実勢経験はともかく、練度についてはかなり高いと言われ、出動の度に成果を上げてきた自衛隊。しかし、それは徴兵制ではなく、むしろ少数精鋭の組織だからこそ高い練度を維持できたのでは?
1−2、そんな予算があるのか?…年々防衛予算が削られているご時世で、徴兵制という新たな出費や場所・人手・武器を必要とする訓練がそもそも可能か?むしろ、そんなことをやる前に自衛隊の目的に見合ったお金の使い道があるのでは?

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別に徴兵制であっても少数精鋭の組織にすることはできますので、練度に影響はありません。予算についても同様に防衛計画上認められた予算さえあれば、その予算の範囲内で選抜すればよいだけで何の問題もありません。

1−3、「自衛」隊なのに総力戦?…建前上、自衛隊は「自衛のための戦力」という言い方をしているが、それなら徴兵制をする必要はあるか?いや、よしんば戦力増強が必要な緊張状態が日本周辺の情勢に起こったとして、戦闘が高度に機械化・自動化された現在、多くの人が訓練しても設備が追いつかなければ、徴兵制の意味が無いのでは?

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1950年代・60年代に日本政府が日米安保を正当化した理由として、日本を防衛するには30万人の兵力が必要であり、30万人の兵力を整備するには徴兵制にするしかない、徴兵制にしないのならば日米安保は必要だ、というロジックを使っていました。リベラルに対して「徴兵制か日米安保か」という悪意と詭弁に満ちた二者択一を迫ったわけですが、そのロジックに沿うならば、少なくとも当時において「自衛のための戦力」を日本が自前で整備するには徴兵制が必要だったわけです。で、仮に30万人が必要となった場合、5万人が徴兵された兵士となりますが、徴兵期間2年とすれば、新兵は2.5万人です。現在自衛隊が教育している新兵は年間約5000人程度ですが、総員25万人に比べて年間5000人という現状が少なすぎるだけで、2.5万人になったとしても全体の1割程度にしかならず教育自体に支障が生じるとは思えません。
設備については予算に見合った設備は問題なく準備できます。なので何の問題もありません。

2、徴兵制をした際の経済・社会の問題。
2−1、移民の手の借りたい人手不足なのに徴兵するの?…人手不足過ぎてオリンピックに向けた建設ラッシュに対応できない、飲食店が営業できないなんて言われているご時世にだ!その現場の労働力である若者達を集めると、もっと酷いことにならないか?

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これは選抜する人数による問題で、例えば19歳の原簿登録者から2.5万人を徴兵するだけなら、労働力に直接影響するようなことはほとんどないでしょうね。そもそも大学進学者も選抜対象者に含めておけば、正規の労働力不足にはならないでしょう。徴兵された若者は2年間の徴兵期間中に、大型特殊などの免許を取ることもできるでしょうし、大学合格者の場合は通信関係の資格なども取れるわけで、除隊後の就職に役立つでしょうし、社会としても有用な資格を持った労働力を自衛隊で育てて輩出するわけですから有意義であると言えます。少なくとも自衛隊は現在でも志願者を集める際に、そういった資格や除隊後の就職に関する有利さを宣伝してるはずですね。大学合格者で徴兵された者には、徴兵に応じた単位を取得できる制度を作ればよく、その場合社会労働力の損失はほとんどありません。

2−2、そもそも役に立つの?徴兵制?…創造性や資格が必要な技能がないと高給取りに取れないご時世で、低所得者にしか求められないような「規律正しく、体力がある人材」ばっかりバカみたいに育てて何になる?

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今でも自衛隊には志願で2年間の任期についている自衛官がいるわけですけど、そういう人たちをひどく侮辱した発言ですよね、これって。任期自衛官は2年ないし3年で除隊するのが基本で、除隊後は普通の仕事に就くわけですけどね。ついでに言えば、資格ととる上で自衛隊はそれなりに有利な職種のはずです。

2−3、若い才能を潰す危険性さえあるのでは?…日本人が一番連想しやすい「徴兵制をやってる国」はおとなり「韓国」だ。その韓国では兵役を逃れるために国籍を放棄したり、お金やコネなどが絡まったりしている。徴兵制を原因とした人材流出・汚職の可能性は否定できないのでは?(それでも、韓国が徴兵制を行うのは陸続きに北朝鮮がいることが大きな要因。日本とは根本的に想定が違う)

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「若い才能を潰す危険性」ってのは曖昧すぎる上に徴兵制と関係ないんじゃないですかね。それに「日本人が一番連想しやすい「徴兵制をやってる国」」ってまず戦前日本では?「日本とは根本的に想定が違う」ってんなら、韓国じゃなくて戦前日本の選抜徴兵制を考慮すべきでしょうに。

2−4、いじめ問題…これもおとなり「韓国」の徴兵制で起こってることだが、いじめが原因で軍内部で射殺事件が起こったり、自殺者が出たりすることが徴兵制逃れをする原因になるそうだ。軍隊に限らず、体育会系が絡めば大なり小なりいじめやパワハラが正当化されたり、上下関係を間違った方向に運用されることはある。そういったシコリの中で若者を育てることが果たして現在社会の中では「教育的」と言えるだろうか?

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いじめ問題って、現在の志願制の自衛隊でも起こってる話なんですけどね。でもそういう自衛隊でも「練度が高い」んでしょう?

3、結局のところ他人事問題…徴兵制をしなくてもいい年代の人や立場の人ばかりが「自衛隊さんに鍛えなおしてもらおう」と言ってるばかりで、自分が体験をしたり、体育会系の中に身をおいて「これは素晴らしいからやるべき」という主張で述べている人は殆どいない。

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徴兵制で対象になる人って高校生とかそれ以下で発信力が弱いですからね。

4、右翼のアイデンティティ問題…よく左翼が災害救助に活躍する自衛隊を見る度に「自衛官はレスキュー隊のように運用されるべき」と言う。これを国防に関心のある人がが批判する光景をよく見かけるが、自衛隊の効率性を落としかねない徴兵制を推進することは「自衛隊を学校扱いし、防衛のための組織として扱ってない」と批判を浴びるのでは?

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これは何言ってんだかよくわからない。
自衛隊の効率性を落としかねない徴兵制」ってのは何の根拠も示されていないので何ともいえません。
「「自衛隊を学校扱いし、防衛のための組織として扱ってない」と批判」ってのはよく聞く徴兵制否定論ですけど、これも自衛隊の支持者を増やす上では徴兵制って効果的なんですよね。身内が自衛隊に行ってたり、自衛隊経験者だったりすると、自衛隊に対して批判的になりにくいわけで。これと同様の発想が田母神氏が、国会議員になるには自衛隊を経験させろ、とか言ってるもので、要するに自衛隊の息のかかった人間を要所に配置させて自衛隊の意を通しやすくしたいという発想です。
こういうのは、戦前の陸海軍大臣現役武官制とか在郷軍人会とか、そういった知識を踏まえる必要があるでしょう。

*1:高校に進学していない場合は自治体から通知して居住地近くの地連で受験させる。

*2:あるいは、士については特殊な職種以外は志願制を無くするかもしれません。平等性の担保のため。