基本的な話として、日本の売春防止法*1は、売春強要や売春相手を勧誘する行為に対して罰則を定めているものの、売春行為そのものについては処罰の対象とはしていません。この理由の一つとして売春防止法制定に至るまでの戦後から1958年の議論で、貧困のため売春しなければ生活できないような現状を踏まえて、やむにやまれず売春を行った女性を処罰するべきではない、という主張がなされた点があります*2 *3。
韓国では2004年に淪落行為等防止法に代わる法律として「性売買斡旋等の行為の処罰に関する法律」(性売買処罰法)と「性売買防止及び被害者保護等に関する法律」(性売買防止法)が定められました。この性売買処罰法では、売春を強要された被害者には罰則を科さないことになっていますが、自発的に売春を行った者に対しては処罰規定があり(性売買処罰法21条)、この点、日本と大きく異なります。そして、自発的売春者に対する処罰規定に対して「女性団体は、人身取引議定書では「本人の同意如何を問わず性を売る者を被害者とし保護し支援する内容を強調」しており、よって「性売買の対象となった全ての者は被害者である」と主張して」*4いました。
このあたりを踏まえておかないと以下の記事の意味がわかりにくいと思います。
記事入力 : 2015/03/16 10:34
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/03/16/2015031601111.html「売春も職業」 元売春婦が違憲審判を申し立て
韓国の「性売買(売買春)特別法」が憲法に違反しているかどうかの違憲法律審判を申し立てたのは、元売春婦のAさん(44)だ。Aさんは清凉里の風俗街で働いていた2012年7月、大学生から13万ウォン(現在のレートで約1万4000円)を受け取り性行為をしたとして、売春の罪で略式起訴されたが、後に正式裁判を申し立てた。
Aさんは裁判中、性を売る女性を処罰することは基本権を制限するものだとして違憲法律審判を申し立て、裁判所はこれを受け入れ憲法裁判所に審判を請求した。
1男3女の末っ子として生まれ、幼いころに両親を亡くしたAさんは、家計が苦しく高校2年生のときに学校を中退したという。美容院や飲食店、カフェなどで働いたが貧しい暮らしから抜け出せず、28歳のときに自ら風俗あっせん業者を訪ね、04年に清凉里で働き始めたとされる。
Aさんは違憲法律審判を申し立てた後、さまざまなメディアのインタビューに応じ「何回捕まっても、何回罰金を払わされても、食べていくためにこの仕事をしなければいけない。最も底辺の仕事だが、労働力を売ってカネをもらう厳然たる職業だ」などと語った。生計を立てるため自発的に売春する女性までも国が処罰することは不当だとの主張だ。Aさんは「多くの売春女性が突然仕事を失えば、ホームレスになったり自殺したりするかもしれない」とも語った。また、売買春を一部合法化すれば、児童や女性に対する性的暴行も減ると訴えた。
Aさんは、違憲法律審判を申し立てる上で売春女性と風俗店でつくる団体「ハント全国連合会」の支援を受けたとされる。同連合会は12年7月「売買春は被害者のいない犯罪であり、処罰の必要性は高くない。害悪の程度に比して処罰に多額の費用がかかるという副作用もある」とし「性の搾取や売春の強制のみを処罰し、自発的な売買春は犯罪から外すか、一部合法化すべきだ」と訴えた。
全洙竜(チョン・スヨン)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
この記事のAさんの場合、ただ売春を厳罰で禁止するだけでは当人を貧困に追い込むだけで解決にならないわけです。かといって、売春を容認しても将来的に何らかの支援を受けざるを得なくなるでしょう。本来なら生活支援とキャリアプランを提供して、一般的な仕事で生計を立てられるようにするのが正道でしょうね。そういった視点も含めて裁判所がどのように判断するのか注目されるところです。
Aさんの主張そのものは、「生計を立てるため自発的に売春する女性までも国が処罰することは不当」というのは同意できますが、「売買春を一部合法化すれば、児童や女性に対する性的暴行も減る」というのは同意しかねるところです。
貧困ゆえに売春せざるを得ない女性を罰すること自体は誤りと言えますし、現代では売春以外で生計を立てられるような公的支援がなされるべきと言え、その意味で韓国は法改正や支援策を検討すべきでしょうね。
一方で「児童や女性に対する性的暴行も減る」などという目的での売春合法化は論外ですが、全ての売春が禁止されるべきか、他に選択肢がないという消極的な理由での自発的売春者ばかりなのか、これもまた例外はあるわけで難しいところです。
例えば、こういう話があったりします。
THE SESSIONS
セッションズ(2012)
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=346812
障害者の性を真正面から取り上げ、数々の映画賞に絡んだ感動のコメディ・ドラマ。実話を基に、重度の障害を持つ男性と、彼の童貞喪失の相手をプロフェッショナルとして引き受けるセックス・セラピストの女性との心の交流を赤裸々にしてユーモラスな筆致で綴る。主演は「ウィンターズ・ボーン」のジョン・ホークス、共演に「恋愛小説家」のヘレン・ハント、「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシー。監督は「美女と時計とアブナイお願い」のベン・リューイン。
1988年、米カリフォルニア州バークレー。少年時代に罹ったポリオが原因で首から下が麻痺してしまったマーク。以来、ベッドに寝たきりの人生ながら、みごと大学も卒業し、38歳の今は詩人・ジャーナリストとして活躍していた。そんなある日、彼は新しく雇った若くて美しい介護士アマンダに心奪われる。しかし彼の恋は実ることなく、アマンダは去っていく。やがて失意のマークのもとに、障害者のセックスというテーマで原稿依頼が舞い込む。取材の過程でセックス・サロゲート(代理人)の存在を知り、自らもセックス・セラピーを受けてみたいと願うマーク。敬虔なマークの正直すぎる相談に、最初は戸惑いを抱いたブレンダン神父も、彼の純粋な思いを受け止め、真摯にサポートしていく。こうして期待と不安の中、ついにセックス・サロゲート、シェリルと対面し、彼女と初めての“セッション”に臨むマークだったが…。
セックス・サロゲートは売春者と言えるのか、というのは結構考えさせられるところです。
もっとも、あくまで例外的なことであり、こういう複雑な事情がある場合に、その事情を考慮して初めて容認すべきなのか考える価値があるのは言うまでもないですけどね。
ネットでは例外を一般論に無理やり拡大する人は少なくないので、こういう話題は慎重を要せざるを得ません。