基地村慰安婦問題訴訟についての雑感

2014年6月に米軍慰安婦、基地村慰安婦であった女性たち約120人が韓国政府を相手取って訴訟を起こしました。
この時、日本軍慰安婦問題を否認したいと望んでいる日本の歴史修正主義者らは大喜びで、韓国に対するヘイトスピーチをばら撒き、日本軍慰安婦問題を否認するような論調を展開しました*1

日本軍慰安婦問題を訴えている元慰安婦や支援団体は、上記のような基地村慰安婦(米軍慰安婦)も支援して連帯しています*2

この日の出会いは‘基地村女性たちと共にする女性連帯’(以下 女性連帯)が主軸になり準備された。女性連帯には韓国挺身隊問題対策協議会,日差し社会福祉会,結い部屋などの女性団体と研究者などが参加している。ウ・スンドク日差し社会福祉会代表は「慰安婦ハルモニたちの力をもらって、平沢基地村ハルモニたちも堂々と頑張って生きてゆかれればうれしい」と話した。イ・ナヨン中央大教授(社会学)は「慰安婦女性はこの間日帝収奪の象徴として照明を受けた反面、基地村女性は非難ばかりを受けてきた」として「今回の出会いは当事者たちが社会的偏見を破って自ら立ち上がった歴史の一場面」と話した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/1629.html

基地村慰安婦らによる韓国政府相手の提訴は、元日本軍慰安婦や挺対協にとって基本的に賛同できる内容でしょう。
それを知らない歴史修正主義者や韓国政府と挺対協などの団体との区別もできない嫌韓バカは、この件を“ブーメラン”だと大はしゃぎするわけですね。

私はこの件に関して、結構記事を書いています。
J-CASTがデマを流すのは今に始まったことではないけど
「米軍慰安婦に関する海外の報道と反応」というニセ科学に騙されないために
基地村慰安婦と日本軍慰安婦の違い、及び基地村慰安婦訴訟の行方について
BBCが韓国基地村慰安婦による提訴を報じた件
BBCが韓国基地村慰安婦による提訴を報じた件・2

で、この訴訟の地裁判決が2017年1月20日に出ました。
韓国裁判所「米軍基地村『慰安婦』に国家が賠償すべき」(登録 : 2017.01.21 04:56)
原告である基地村慰安婦らの一部勝訴でしたが、いくつかの主張は認められませんでした。

一部勝訴ではあるものの、それは「隔離収容の対象となる伝染病を明示した施行規則が制定された1977年8月以前に隔離し収容された「慰安婦」被害者57人に対する国家の賠償責任が認められた」だけに過ぎません。韓国政府が主張した消滅時効は認められなかったものの、法整備以前の収容を違法とした賠償責任だけというのは、冷徹に法律上の判断を下すのであれば分からなくはないのですが、道義的には納得しがたいところです。

また、本質的に最も重要な主張部分については認めれておらず、個人的には実質的な敗訴ではないかと思います。

 ただし裁判所は、「国が売買春が容易に行われるよう基地村を作ったのは違法」という被害者たちの主張は受け入れなかった。裁判所は「被害者たちが基地村内での売春を強いられたり、やめられないほどの状態にあったと見ることはできない」として、このように判断した。また、「政府が『浄化運動』などを展開して基地村の売買春を管理したのは違法行為」という主張に対しても、「このような指針は売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するためのものとみられる」との見解を示した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26312.html

まあ、韓国政府が基地村を「売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するためのもの」と反論してくることは予測できる範囲ではあり、私自身も提訴直後に以下のように書いています。

裁判で予測される韓国政府側の反論

国家により運営された性売買強制システムという点で日本軍慰安婦も基地村慰安婦も同じ人権問題であるわけですが、上で述べたような違いがあり、韓国政府が裁判で反論するとすれば、基地村は売春婦救済という名目を掲げていた点を必ず主張するでしょう。基地村の待遇改善(水道設備など)や教育なども“彼女らのためだった”と主張するでしょう。それが名目に過ぎず、実態が国家による強制売春であることは、日本軍慰安婦問題が国家による強制売春であることを理解している人には容易に理解できるでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140704/1404534816

当たってもちっとも嬉しくはありませんけどね。

韓国裁判所「米軍基地村『慰安婦』に国家が賠償すべき」

登録 : 2017.01.21 04:56
修正 : 2017.01.21 07:42

根拠のない性病感染者の強制収容は「違法行為」と判断 
「被害者57人に49万円ずつ賠償」判決 
「基地村の設置・管理が違法」との主張は認めず

 国が米軍基地村「慰安婦」被害者に対して損害賠償をすべきとする裁判所の判断が出た。裁判所は国家が性病の管理のため、彼女らを隔離施設に強制収容したのは違法だと判決した。
 ソウル中央地裁民事22部(裁判長チョン・ジウォン)は20日、L氏など基地村「慰安婦」被害者120人が国に対して起こした損害賠償請求訴訟で、「国が被害者57人に対して500万ウォン(約49万円)を賠償せよ」とする原告一部勝訴判決を下した。
 裁判所はまず、国が法的根拠もなく、性病に感染したり、感染者と疑われた被害者たちを「落検者収容所」に強制隔離収容して治療したのは、違法だと判示した。裁判所は「収容された慰安婦」たちは完治したと判定されるまで、収容所外に出られず、収容所から脱出を試みて負傷した場合もあったとみられる」と指摘した。また、「(治療の過程で)ペニシリンショックによる副作用に悩まされたり、死亡した被害者もいた」と述べた。
 裁判所はまた、5年の消滅時効が完了したという国の主張も認めなかった。消滅時効は、一定期間権利を行使しなければその行使を制限する制度で、国は米軍「慰安婦」の国家賠償の消滅時効が終了したと主張してきた。しかし、裁判所は「権威主義統治時代と当時米軍慰安婦などに対して閉鎖的だった国民感情、男性中心的で家父長的に形成された社会文化などを考慮すれば、(被害者たちが)権利を放置したとは評価できない」と述べた。また、「国家権力機関の国民に対する不法収容など、過酷行為は決してあってはならない違法行為」だと判断した。隔離収容の対象となる伝染病を明示した施行規則が制定された1977年8月以前に隔離し収容された「慰安婦」被害者57人に対する国家の賠償責任が認められたのだ。
 ただし裁判所は、「国が売買春が容易に行われるよう基地村を作ったのは違法」という被害者たちの主張は受け入れなかった。裁判所は「被害者たちが基地村内での売春を強いられたり、やめられないほどの状態にあったと見ることはできない」として、このように判断した。また、「政府が『浄化運動』などを展開して基地村の売買春を管理したのは違法行為」という主張に対しても、「このような指針は売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するためのものとみられる」との見解を示した。
ヒョン・ソウン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
韓国語原文入力:2017-01-20 20:08
http://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/779648.html 訳H.J(1297字)

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26312.html

*1:例えば、J-CAST「「米軍慰安婦」が存在?122人が韓国政府を訴える 日本では「韓国に大ブーメラン」と大盛り上がり」(2014年6月26日(木)18時19分配信 )など

*2:ちなみに、ベトナム戦争における韓国軍による性暴力の被害者らにも支援金を送ったりしています。「日本軍慰安婦被害者のハルモニが、ベトナム戦争性暴行被害者のために支援基金を出した。」http://japan.hani.co.kr/arti/politics/14996.html