ガイアナ・スリナム海洋境界画定事件
ネット上での日本語環境ではあまり情報がありませんので、とりあえず少しまとめておきます。
南米にあるガイアナとスリナムの間には、Courantyne川が境界として流れています。1936年の条約によりCourantyne川全体がスリナムの領土として確定しています。つまり、Courantyne川西岸がガイアナとスリナムの境界というわけです。
しかし、この条約当時は大陸棚やEEZと言った海洋境界の概念がまだありませんでした。戦後になってそれらの海洋境界の概念が生まれてくると、ガイアナとスリナムの間で海洋境界に関する考え方にずれが生じてきます。
スリナムは、Courantyne川西岸河口を基点とした直線(方位10度線・北北東)を海洋境界と主張し、ガイアナはCourantyne川の分水嶺(thalweg)の河口地点を基点とし、1980年前後の石油探査時に設定された直線(方位33度線・北東)を海洋境界と主張します。
ガイアナ・スリナム間の領土問題の資料(P4)
ガイアナ・スリナム沖合いには石油資源があったため、海洋境界の帰趨は、自国の資源に直結する問題でした。それでも当初は両国とも話し合いで穏便に解決することで合意し、互いに境界と主張する領域内(係争海域)での石油開発を控えていました。
ところが2000年になるとガイアナ側が係争海域での開発を始め、2000年5月6日にスリナム海軍が警告しリグを係争海域から撤去させました。なお、事情は複雑で一概にガイアナ側の一方的行為とも言えません*1。
スリナムはガイアナによる係争海域での一方的開発だと非難し、ガイアナはスリナムの行為を武力による威嚇だと非難しました。
この問題で対立したスリナムとガイアナは、国際的な仲裁で2007年に境界が画定します。
ちなみに面白いのがスリナムの石油鉱区割です。
スリナムは海洋境界として10度線を主張していましたが、石油鉱区割ではガイアナの主張している33度線がベースになっています。その後、海洋境界が画定したことで元々係争海域であった自国海域にも鉱区を設定していますが、鉱区の形状はそれを良く物語っています。