「人身売買問題に取り組む振りをしつつ何の役にも立たない12の方法」

この件。

12 ways to do nothing about trafficking while pretending to. Join us in our campaign to #SuspendJudgment

1.Use grossly exaggerated number of trafficked people to justify new laws.
2.Ignore other forms of exploitative labour and focus only on female trafficked victims.
3.Frame trafficking as "human rights issue" but attack it through criminal law.
4.Include human rights language in conventions, but make these provisions optional.
5.Set the bar for accessing victim services so high, no one can access them.
6.Allow trans-border trafficking to fuel anti-immigrant movements.
7.Lump traffickers with all other mafias and organized criminal groups.
8.Think of traffickers and their individual motivations("evil" "greedy""woman-haters") over the structural factors enabling trafficking.
9.Focus exclusively on the "innocence" of young,female victim.So what, if some of them might know what they are doing?
10.Emphasize forced prostitution as the worst form of trafficking and ignore other forms of exploitative labour!
11.Represent state as rescuers and heroes.
12.If step 1-12 doesn't work, shift your forcus from global to local trafficking of minors and young girls.

https://twitter.com/ThinkCREA/status/776665451539595264

ざくっと訳す。

人身売買問題に取り組む振りをしつつ何の役にも立たない12の方法

1. 新しい法律を正当化するために、著しく誇張した人身売買犠牲者数を用いる。
2. 他の形式の搾取的労働を無視し、女性の人身売買犠牲者だけに焦点をあてる。
3. 人身売買を「人権問題」として打ち出しながら、刑法を用いて人身売買を攻撃する。
4. 協定に人権の文言を含めているが、その適用を任意とする。
5. 被害者支援サービスへの適用条件が厳しすぎて、誰もアクセスできない。
6. 国際人身売買を移民排斥運動に利用する。
7. 人身売買ブローカーを他のマフィアや犯罪組織と一まとめにして扱う。
8. 人身売買ブローカーの思考や動機(「邪悪」「強欲」「女性蔑視」)を、人身売買が容認される構造的要因よりも上位に位置づける。
9. 若い女性被害者の「無垢さ」に過度に焦点をあてる。彼女らの中に自分たちがしていることを理解している者がいたとしても、それが何だというのか?
10. 人身売買の最悪の形態としての強制売春を強調し、他の形態の搾取的労働を無視する!
11. 国家を救済者やヒーローであるかのように表現する。
12. ステップ1-12が通用しない場合、全体的な問題から個々の未成年者や若い女性に焦点をずらす。

正直、12項目のまとまりがいいかというと個人的にはまとまりが悪いなぁという感想ですが基本的に変なことは言ってませんし、日本の人権団体のやり方を否定するような内容でもありません。
ここ超訳が酷すぎます。

元々のタイトルが「12 ways to do nothing about trafficking while pretending to」ですから、“取り組む振りをしつつ何の役にも立たない”やり方を示している内容です。ですので、人身売買問題を解消したいと思っていないのに、取り組んでいる振りをしたい人たち向けの“アドバイス”という体ですね。
ざくっと分類するとこんな感じです。

1,3,7,11番は人身売買対策の振りをしながら、全般的な法規制強化を狙うやり方。
2,10番は典型的な性的人身売買のみを対策の対象に限定し、他の人身売買を野放しにしておきたい場合のやり方。
4,5番は人身売買全般を実質的に放置するやり方。
6番は人身売買対策を偽装したヘイトクライム
8番は人身売買を末端のブローカーのみの犯罪と矮小化し、社会全体の差別的構造を放置するやり方。
9番は被害者非難を容認するために犠牲者を選別するやり方。
12番は、全体的・構造的な人身売買問題から主張に都合のいい個別の事件に論点を逸らすやり方。(2,10番の類型)

ここでは、12番を「もし、1~12のことを当てはまらなかったら、国際的な人身売買問題を追っかけるより、身近な少年少女達や女性を見てあげてください。」と訳していますが、ここで言う「global」「local」というのは「全体的」「局所的」な意味合いで解釈する方が自然です。つまり、全体的な問題ではなく都合のいい個別の事件を持ち出して同じ主張を繰り返すというやり方ですね。12番の内容が「If step 1-12 doesn't work」と再帰的になっているのは、要するにどんどん都合のいい個別の事件に特化していき、同じ主張を繰り返すということを意味しているのでしょう。

こういう手法は誰が使っている?

例えば、人身売買対策を偽装したヘイトクライムである「6. 国際人身売買を移民排斥運動に利用する」というのは、嫌韓バカ連中が多用している“韓国人売春婦ガー”という手法ですね。
人身売買を末端のブローカーのみの犯罪と矮小化し、社会全体の差別的構造を放置するやり方である「8. 人身売買ブローカーの思考や動機(「邪悪」「強欲」「女性蔑視」)を、人身売買が容認される構造的要因よりも上位に位置づける」やり方は、慰安婦問題ではおなじみの“末端の兵士による暴走はあったが日本政府・軍として組織的に売春を強要したわけではない”とか“親に売られた”、“韓国人ブローカーのせい”などという歴史修正主義慰安婦問題否認論に酷似しています。
現代の問題で言えば、未成年者売春問題で個々の刑事事件事例を持ち出し、“ちゃんと現行法で取り締まられている”と主張し、構造的な問題を否定するやり方で、結構見かけますよね。
被害者非難を容認するために犠牲者を選別するやり方である「9. 若い女性被害者の「無垢さ」に過度に焦点をあてる」やり方は、沖縄での米軍による少女暴行事件や埼玉での少女監禁事件などで、被害者側の落ち度に対する執拗な追及や被害者の“同意による家出ではないか”という詮索などと言った形で見かけましたし、AV強要関連では被害を訴えた被害者に対して“どう見ても同意の上”と言った非難がされていました。
典型的な性的人身売買のみを対策の対象に限定し、他の人身売買を野放しにしておきたい場合のやり方や人身売買全般を実質的に放置するやり方である2,4,5,10番は、性暴力問題での規制を訴える人権団体に対して、“他の人権問題は放置している”等といった誹謗中傷の形でされたりしています。
あるいは性的人身売買と認めるためのハードルを非現実的なレベルまであげたりするやり方は、“鎖ジャラジャラじゃないから性奴隷じゃない”とか“金もらっている奴隷はいない”とかの形でされていますね。
このtogetterまとめ主は、HRNを揶揄する体でまとめてますが、上記のようなやり方をしているのはどちらかといえば、HRNを非難してる側じゃないですかね。
上記以外の部分「人身売買対策の振りをしながら、全般的な法規制強化を狙うやり方」(1,3,7,11番)にHRN等の人権団体が合致するか、という点については検討の余地が多少はあるでしょうが、「法律をつくってなんでもかんでも逮捕させて死刑にして解決する」などといった主張をしているわけではなく、むしろHRN等の人権団体を揶揄する連中による不当なレッテルの側面の方が強いでしょうね。

人権団体のやり方に問題があると思うのなら、具体的な主張内容に対して指摘するべきであって印象操作紛いのやり方をすべきじゃないと思うんですけどねぇ。
ちなみに別件ですが、私は伊藤和子弁護士の主張に対して具体的に問題点を指摘していますよ(参照1参照2)。