「内閣支持率が高くないのに自民党が圧勝できた理由」? 勝てるタイミングで解散したから、というのが最大の理由ですね。

この件。
池上彰氏の衆院選振り返り「内閣支持率が高くないのに自民党が圧勝できた理由」(10/30(月) 7:00配信 文春オンライン)

こういう質問に対する答えを池上彰氏が述べていますが、色々的外れ感がありまして。

Q 衆院選自民党単独過半数を獲得しました。圧勝の理由は?
 10月22日に投開票が行われた衆議院選挙では、自民党単独過半数を獲得。安倍内閣の支持率は高くないのに、なぜ圧勝したのでしょうか。(10代・男性・高校生)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171030-00004730-bunshun-pol

自民党単独過半数を取ったこと自体は別に意外性も何もなく、勝てないタイミングだったら解散しないから、という答えになりますね。例外としては衆議院の任期満了が迫っている場合ですが、今回はまだ1年以上の任期が残っていましたから、今回はその例外にはあたりません。
安倍内閣の支持率は高くないのに」と質問にありますが、7月ごろに大きく下がっていた時期に比べれば回復していますし*1、2000年6月の森政権とか支持率17%だったのに衆院選では自公で過半数取ってますから*2、「安倍内閣の支持率は高くないのに」という認識にはあまり賛同できません。
野党の情勢としては、民進党が代表交代したばかりで、小池都知事が国政政党を立ち上げることが確実視されていた状況です。解散総選挙に打って出れば、野党が分裂した状態での選挙戦に持ち込むことが出来*3、巨大与党に有利なのは自明でした。

支持率が回復基調にあり、野党分裂が確実な状況だからこそ、そのチャンスを狙って解散したのが今回の選挙です。安倍自民は勝って当たり前の選挙を仕掛けたに過ぎません。

安倍自民にとっての誤算は、小池氏が民進党を吸収してリベラル・共産を排除した形での統一野党を立ち上げて自民を脅かしたことですが、「排除」発言とネガキャンで潰れ、当初目論みの希望・民進の野党分裂状態が、希望・立憲民主の野党分裂状態に変わっただけで、大枠は解散当時の目論見に戻りましたので、致命的な誤算に至らずにすみました。

もちろん「小選挙区制特有の現象」というのも大きな原因ではありますので、その点は池上氏の言ってることに間違いはありません。

ただ、「小選挙区制にすれば、与党から少しの票が野党に移るだけで、野党が勝利し、政権交代が起きやすくなるのではないか」と「考えて、現在の選挙制度が誕生しました」というのは、ちょっとどうかと思います。自民党+他の小政党の乱立状態での中選挙区制では、支持率に見合った議席配分にはなっても、結局自民党が第一党となり自民党中心の連立政権ができるだけだから、二大政党制への移行を促す小選挙区制にすれば政権交代が起きやすくなるっていう意図だったと思うんですが。
二大政党制を促すという点が重要で、そこをはしょって、野党に有利になるかのように読める池上氏の説明には違和感ありますね。
「絶対多数の得票率を持っていなくても、相対多数なら議席で絶対多数を獲得できる仕組み」という記述もちょっと意味不明です。得票率が僅差であっても議席数では大差をつけられる制度という意味でしょうけど。で、これは小選挙区制の欠点のようにも見えますが、本来はどちらか言えば利点であって、僅差で勝っても野党の妨害で政策を実行できないという事態を防ぐという意味合いを持っています。このため、民主党は2009年の政権交代直後は自民党の妨害にあってもある程度は政策を進めることが出来ました。2010年の参院選過半数割れした結果、民主党は全く動きが取れなくなりましたが。小選挙区制の欠点というのは基本的には死票が多くなるという点ですね。

最後に池上氏のいう「この選挙制度が機能するためには、しっかりとした野党の存在が不可欠」という部分もモヤっとしています。「しっかりとした野党」といった曖昧な言葉ではなく、単純に野党が選挙協力すればいいという話ですよね。二大政党制での野党のような巨大な単一野党でも、連立政権を視野に入れた統一候補でも、もっと緩やかな選挙協力でも、とにかく死票を減らす手立てを打てば小選挙区制は機能します。

今回の選挙では、共産党選挙協力したくないと言って民進党を離党した議員と小池都知事勢力が、共産党やリベラル勢力とは協力しないという方針の希望の党を立ち上げた時点で、野党に勝ち目が無くなりました。野党が協力しなければ与党に勝てない選挙制度の下で、他の野党と協力したくないという人たちが別の政党を立ち上げたわけですから与党に勝てるわけがありませんよね。
そういう意味で、野党が「しっかりして」いなかったというのならば、間違ってはいないんですけどね。

どうも池上氏の物言いは何に忖度しているのか知りませんが、モヤっとしてるんですよねぇ。


池上彰氏の衆院選振り返り「内閣支持率が高くないのに自民党が圧勝できた理由」

10/30(月) 7:00配信 文春オンライン

Q 衆院選自民党単独過半数を獲得しました。圧勝の理由は?
 10月22日に投開票が行われた衆議院選挙では、自民党単独過半数を獲得。安倍内閣の支持率は高くないのに、なぜ圧勝したのでしょうか。(10代・男性・高校生)

A 理由は2つ。1つは野党の完敗。もう1つは小選挙区制特有の現象です。
 理由は2つ。ひとつは自民党が勝ったのではなく、野党が負けたこと。もうひとつは小選挙区制特有の現象だということです。
 今回の総選挙で小選挙区での自民党の得票率は約48%なのに対し、議席全体の75%を獲得しました。
 野党がまとまって対抗することができなかったため、自民党が漁夫の利を占めたところが、いくつもあります。逆に言えば、野党統一候補を立てていたら、自民党は、これほど勝てなかったのです。
 もうひとつは小選挙区制特有の現象です。小選挙区で当選する候補はひとりだけ。少しでも得票が多い候補が当選するという形なので、自民党は多数の候補者を当選させることができました。
 もし、これが完全比例代表の選挙制だったら、自民党過半数も取れなかったはずです。
 日本の選挙制度は、かつては中選挙区制。ひとつの選挙区から複数が当選する仕組みでした。
「これだと、なかなか政権交代が起きない。小選挙区制にすれば、与党から少しの票が野党に移るだけで、野党が勝利し、政権交代が起きやすくなるのではないか」
 こう考えて、現在の選挙制度が誕生しました。事実、この選挙制度自民党から民主党への政権交代が起きました。つまり小選挙区とは、絶対多数の得票率を持っていなくても、相対多数なら議席で絶対多数を獲得できる仕組みです。政権交代を起きやすくし、いったん政権交代が実現したら安定多数の議席を与えることで政治を安定させる仕組みです。敢えて、この制度にしたのです。
 しかし、この選挙制度が機能するためには、しっかりとした野党の存在が不可欠です。野党がしっかりしていなければ、結局、内閣支持率がそれほど高くなくても与党が勝ち続けるのです。
 野党がしっかりして、与党が「次の選挙で負けるかも知れない」と心配になれば、与党政治にも緊張感が生まれることでしょう。
池上 彰

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171030-00004730-bunshun-pol

*1:NHK世論調査では7月の内閣支持率は35%だったが、9月には44%まで回復している。その後解散に伴い若干支持率が下がったが、37~39%に留まった。

*2:自民233議席、公明31議席で全議席数480議席

*3:小池新党が共産党共闘しないことも自明。