古谷氏の「自民党で「安倍降ろし」が起きない理由」に関する件

内閣支持率が3割を切っても、自民党で「安倍降ろし」が起きない理由 強さの構造を解き明かす (古谷 経衡)」の件。
なかなか面白い記事ではあるんですが、何点か気になるところがありましたので、一応書いておきます。

個人的には「自民党で「安倍降ろし」が起きない理由」の最も大きな理由は自民党内統制、すなわち資金を握り候補者に分配する権限が集中されたことにより、下っ端議員では逆らえない、という構造の問題だと思ってますが、その辺については一切指摘無いのは気になりました。
総裁を降ろすべきだと思っても、解散総選挙になった際に選挙資金を回してもらえなくなったり、自民党公認がもらえなくなったり、自民党公認対立候補を立てられたりすれば、よほど強い地盤を持つ自民党議員以外は声を上げられませんからね。

本来なら「安倍政権は過去5回の国政選挙の全てで圧勝しているから」という理由の前に、現在の自民党の構造では資金分配の権限を握る執行部に逆らえないという理由が挙げられるべきでしょう。

公明党無党派・職能という3つの要素」

しかもその「勝利」の中身も、過去のどの政権とも違う。自民党議席占有率(下図参照)をみれば、安倍政権下の「5戦5勝」がいかに凄まじいものか分かろう。
(略)
過去どの政権もなし得なかった、公明党無党派・職能という3つの要素からなるトライアングルが、「三本の矢」のごとく第二次安倍政権を盤石なものにしている。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55313

もちろん、これらも重要な要素ではあると思うんですが、ただ安倍政権が「公明党無党派・職能という3つの要素からなるトライアングル」を確立したと主張するのであれば、議席占有率ではなく得票率で示すべきでしょう。

で、得票率で見るとこんな感じになります。

小泉政権 議席占有率 勝敗 自民得票率(選) 自民得票率(比)
2001年参院選 52.9 勝利 41.0% 38.6%
2003年衆院選 57.7 勝利 43.8% 35.0%
2004年参院選 40.5 敗北 35.1% 29.5%
2005年衆院選 60.4 勝利 47.8% 38.2%
安倍政権時 議席占有率 勝敗 自民得票率(選) 自民得票率(比)
2012年衆院選 61.3 勝利 43.0% 27.6%
2013年参院選 53.7 勝利 42.7% 34.7%
2014年衆院選 60.6 勝利 48.1% 33.1%
2016年参院選 46.3 勝利 39.9% 35.9%
2017年衆院選 59.9 勝利 47.8% 33.3%

※いずれも議席占有率と勝敗は古谷氏算出結果。(選)は選挙区、(比)は比例区の得票率を示す。
※選挙区と比例区の得票率の違いは公明党との選挙協力の影響。
※古谷図では「2006年衆議院」とあるが、2005年の誤記とみなした。

得票率で見る限り、安倍政権が小泉政権と比べて特段に強くなった印象はほとんど見られず、比例区の得票率に関して言えばむしろ弱くなっています。
ではなぜ議席占有率で見ると強くなったように見えるのか、というとその大きな原因は野党の分裂です。

小泉政権時の4回の選挙においては概ね、自民党民主党という二大政党+公明党社民党共産党という構図でした。この時期の自民党民主党をあわせると得票率は7~8割程度になります。
ところが、安倍政権時の5回の選挙では、みんなの党や維新などが現れ15~20%程度の得票率を占めるようになります。この時期の自民党民主党の得票率はあわせても4~6割程度にまで落ち込み二大政党制は崩壊し、自民一強体制となりました。

2012年衆院選時は橋下維新と渡辺みんなで小選挙区で16.4%、比例区で29.1%もの得票率を奪っています。
2013年参院選時も橋下維新と渡辺みんなで選挙区で15.0%、比例区で20.9%の得票率で、2014年衆院選時も維新が小選挙区で8.2%、比例区で15.7%の得票率、2016年参院選時でも維新が選挙区で5.8%、比例区で9.2%の得票率をとっています。
実質的には自民批判票が、自民政権をろくに批判できない維新などの“ゆ”党勢力に流れ、結果として野党が弱体化したとしか言いようの無い状況です。

維新による与党サポートは2016年参院選時には明らかに効果を薄れさせていましたが、そこでまたも出てきたのが小池旋風でした。その結果、2017年衆院選も野党側は、希望の党立憲民主党・維新と分裂した状態で戦うことになり、比例区の得票率では自公を過半数割れさせながらも議席占有率では自公の圧勝を許したわけです。

ある意味では“安倍政権が選挙に強い”というのは幻想ともいえる

少なくとも有権者の票を集めるという正攻法に限定するなら、得票率の伸び悩みを考慮すると“安倍政権が選挙に強い”というのは幻想と言えるかもしれません。選挙時に毎回、野党側が分裂状態にあるという“敵失”に負うところが大きいと言えるでしょう。

しかし渡辺みんなも橋下維新も、小池希望でさえもいずれも思想的には安倍政権寄りであることを踏まえれば、実態としてはこれらは野党の仮面をかぶった与党に過ぎず、むしろ安倍政権側が野党を分裂状態にしておくために意図的に煽っているという方が適切かもしれません。
そういう裏ワザ、陰謀的なものを含めるのならば、確かに“安倍政権が選挙に強い”という評価は適切でしょうね。