「「日韓合意見直し」 勧告したのは国連の委員会」です

GoHooがこんなことを報じています。
「日韓合意見直し」 勧告したのは国連の委員会でも国連の機関でもない
「日韓合意見直し」 勧告したのは国連の委員会ではない

しかもGoHooが定める0〜7までの誤報レベルは6というかなり高いレベルです。

誤りの可能性:★★★  誤報と断定してさしつかえないもの
誤りの深刻性:★★★  確実に誤報である場合に深刻な悪影響があるもの
勧告を出したのが国連の機関であるとの誤解を与える

GoHooが誤報だと言っているのは、「国連委員会」という表現(産経)です。

見出しの「国連委員会」はあたかも国連内部の委員会で、その活動が国連を代表しているかのような誤解を与える可能性が高い。
(略)
ほかにも読売新聞やNHKなど多くの主要メディアが「国連委員会」あるいは「国連の委員会」といった誤解を与える表現で報じている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20170513-00070917/

GoHooは、拷問禁止委員会(Committee against Torture: CAT)について「国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会で、いわゆる人権条約機関の一つ。国連に属する機関ではなく、委員会の見解は国連から独立した専門家のものであって、国連を代表するものではない」と主張し、「日韓合意見直し」 勧告は、国連とは無関係であるかのように示唆しています。

しかし、そもそも「国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会」を「国連委員会」あるいは「国連の委員会」と表現して何の問題があるのでしょうか?
GoHooは「あたかも国連内部の委員会で、その活動が国連を代表しているかのような誤解を与える可能性が高い」と主張していますが、国連の人権活動に主要な責任を持っている国連人権高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights: OHCHR)のサイトでは今回の勧告のリリースで次のように表現しています。

UN Committee against Torture publishes findings on Afghanistan, Argentina, Bahrain, Lebanon, Pakistan and Republic of Korea

GENEVA (12 May 2017) – The UN Committee against Torture has published its findings on the countries it examined during its latest session from 18 April to 12 May: Afghanistan, Argentina, Bahrain, Lebanon, Pakistan and Republic of Korea.

http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=21613&LangID=E

他ならぬ国連人権高等弁務官事務所が、拷問禁止委員会を「UN Committee against Torture」と書いていますね。
これを日本国内メディアが、「国連委員会」あるいは「国連の委員会」と表現したら“誤報”になるんですか?

GoHooは「誤報と断定してさしつかえないもの」「確実に誤報である場合に深刻な悪影響があるもの」と判断しているようですが、それなら国連人権高等弁務官事務所にまず問い合わせるべきでしょう。

拷問禁止委員会(Committee against Torture: CAT)の位置づけ

国連で採択された人権に関する主な条約が9つあり、その1つが拷問等禁止条約1984/12/10採択)です*1
これら9つの人権条約に基づき、それぞれ監視機関として独立した専門家の委員会が設置されています。この他に拷問等禁止条約選択議定書に基づき小委員会もあり、以上合わせた10個の委員会・小委員会が人権条約機関と呼ばれるものです*2

これらの国際人権条約は、締結国政府に対してその統治下にある市民の人権を守るように求めるもので、その性質上、締結国政府からの独立性の高い監視機関が必要です。そのために、これらの条約機関は国連システムから独立していますが、だからと言って別個の組織というわけでもなく、国連から様々な支援を得、そして国連に様々な報告を提出しています。

いわば企業の場合でいう監査のようなものでしょうか。監査機関は監査対象の企業活動から独立性が高くなっていますが、企業と無関係ではなくその報告は企業を代表したものとみなすこともできます。

さて、そのような拷問禁止委員会に対して、GoHooは「その活動が国連を代表しているかのような誤解」と決めつけ、拷問禁止委員会による勧告が、まるで国連とは無関係なもののようにミスリードさせています。
ですが、国連で採択された拷問等禁止条約に基づき設置された委員会が、国連人権高等弁務官事務所を支援を得て、締結国の条約順守状況を検証・報告し、勧告を行う活動は、国連を代表した活動といって何の問題もありません。

GoHoo記事の問題点

第一には、拷問禁止委員会を「国連委員会」と表記してもその性質上、何の問題もないにもかかわらず、それを「誤報」だと決めつけている点です。
第二に、拷問禁止委員会が国連システムから独立している点を以て国連と無関係であるかのようにミスリードさせ、「日韓合意見直し」 勧告に対する評価を損なわせている点です。
GoHooは「確実に誤報である場合に深刻な悪影響があるもの」という評価を下していますが、仮に拷問禁止委員会が国連から完全に独立した拷問等禁止条約の監視機関であったとしたら、国連委員会であった場合と比べて一体どのように「深刻な悪影響がある」のでしょうか?

国連委員会の勧告ならば権威があるが、拷問等禁止条約監視機関の勧告ならば権威が無い、とでも言いたいでしょうか?
少なくとも「確実に誤報である場合に深刻な悪影響があるもの」というGoHooの評価を見る限り、そう解釈せざるを得ません。
しかし、日本も加入している拷問等禁止条約に基づく監視機関の勧告をそのように評価すること自体がおかしな話と言わざるを得ず、今回のGoHoo記事こそ「誤報と断定してさしつかえないもの」であり「深刻な悪影響があるもの」と評価されるべき誤報でしょうね。

*1:その他、人種差別撤廃条約(1965/12/21)、自由権規約(1966/12/16)、社会権規約(1966/12/16)、女性差別撤廃条約(1979/12/18)、子どもの権利条約(1989/11/20)、移住労働者権利条約(1990/12/18)、障害者権利条約(2006/12/13)、強制失踪者保護条約(2006/12/20)

*2:http://www.ohchr.org/Documents/Publications/FactSheet30Rev1.pdf