国連人権理事会での韓国代表演説とそれに因縁をつける日本側対応

こちらが韓国の康京和外交部長官による2019年2月25日演説です。

演説テキスト(韓国外交部サイト)

韓国の康京和外交部長官の演説は、戦時性暴力に関する話題からムクウェゲ医師とムラド氏に対するノーベル平和賞の話題、そして彼等の受賞を喜んだ金福童(Kim Bok-dong)氏の話題へとつながり、2018年に国連人種差別撤廃委員会が(日本に対して)出した勧告にある「被害者中心のアプローチ(victim-centered approach)」に言及し、韓国政府はこれまでの取り組みにその視点が欠けていたことを認め、歴史的事実に基づく彼女らの正義への願望を支援における被害者中心のアプローチを韓国政府として約束します、というものです。
演説中に「Japan」という単語は一切出てきません。被害者中心のアプローチにコミットしたのもあくまでも韓国政府です(we committed to the victim-centered approach)。
言及されている人種差別撤廃委員会勧告(2018年)は日本に対する勧告ですが、「被害者中心のアプローチ(victim-centered approach)」に言及しているのは、他にも2016年の女子差別撤廃委員会による日本に対する勧告*1でも出てきます。

また、2017年に韓国政府は国連拷問禁止委員会から2015年日韓合意を見直すように勧告を受けています*2。しかし、韓国政府は2018年1月に2015年日韓合意を見直さないことを公式に宣言しています。

韓国政府は「Japan」という単語は使わず、拷問禁止委員会にも日韓合意見直しの勧告にも応じず、「被害者中心のアプローチ(victim-centered approach)」にも韓国政府としてコミットするだけという自国のみで完結した対応を取っています。
日本政府に対して何も求めていないのですから、見ようによっては日本に対して配慮しているとさえ言えます。
さらに言えば、拷問禁止委員会勧告に見られるような「性奴隷」表現すら用いず、“Comfort Women”という表現のみを用いています。

韓国側がそこまで配慮しているにもかかわらず、日本政府は、慰安婦に関する言及があったというだけで激怒し、まず当日のうちに伊原純一大使が事実上の抗議を行います*3

さらに翌2月26日には辻清人外務政務官が以下の演説を行います。
(「癒やし財団解散「受け入れられない」 国連で韓国を批判(ウィーン=吉武祐 2019年2月27日08時29分)」で報じられた内容)

演説テキスト(外務省サイト)
演説テキスト(日本語仮訳・外務省サイト)

副議長,
 韓国の代表が慰安婦問題に言及したので,ここで一言触れざるを得ません。
 日本政府は長きに亘って慰安婦問題に真摯に対応してきました。2015年12月には,日韓両国による多大な外交努力の末,慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認するとともに,国連等国際社会において互いに非難・批判することを控えることを確認しました。合意に基づき,日本政府は,翌2016年,韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し10億円(約900万米ドル)の支出を行う等,日本側は合意で約束したことを全て誠実に実施しています。合意時点で生存していた元慰安婦47名のうち34名に対し,また死亡者199名のうち58名の遺族に対し資金を支給しており,多くの元慰安婦の方々からも評価を得ています。
 そうした中,昨年に韓国政府が発表した「和解・癒やし財団」の解散の方針は,日韓合意に照らして問題であり,日本として到底受け入れられるものではありません。日韓両国で約束し,潘基文国連事務総長(当時)を始め,国際社会も評価している日韓合意が着実に実施されることが重要です。
 なお,慰安婦問題については,国連を始め国際社会で一部不正確な理解が広まっており,客観的な事実関係に基づくことが重要であることを改めて認識いただきたく思います。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page4_004785.html

日本について全く言及されなかったにもかからず、日本代表は韓国を非難しています。日本側が率先して「国連等国際社会において互いに非難・批判することを控えることを確認」した日韓合意に反した言動をとっているとしか言いようがありません。
さらに、日本は10億円払っただの、元慰安婦47名のうち34名は金を受け取っただの、多くの元慰安婦の方々からも評価を得ただのと主張しながら、韓国側が言及した直近に亡くなった金福童氏に対する弔いの言葉は一言も発しませんでした。
日韓合意については「潘基文国連事務総長(当時)を始め,国際社会も評価している」という非常にふわっとした主語を使って自画自賛をしています。

人種差別撤廃委員会、女子差別撤廃委員会、拷問禁止委員会などが、日韓合意の内容を不十分、被害者中心のアプローチに則っていない、見直すべきとの勧告を出していることについては一切触れず、潘基文国連事務総長が合意直後の2015年12月28日に歓迎のコメントを出した*4ことだけ言及し、その2か月後に次のようなコメントを出したことは無視するという典型的なつまみ食いをやらかしています。

The agreement last December between Japan and the Republic of Korea on the so-called ‘comfort women’ subjected to tremendous suffering during the Second World War highlights the need to address the pain of the victims, no matter how many years have passed. I hope the faithful implementation of the agreement, guided by the recommendations of UN Human Rights mechanisms, will help such wounds to be healed.

https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2016-02-29/secretary-generals-remarks-high-level-panel-discussion-human-rights

この2016年2月29日の潘基文国連事務総長コメントを尊重するなら、国連の場で慰安婦に関して言及するのはむしろ当然なんですけどね。


最後に辻清人外務政務官のこの一文。
慰安婦問題については,国連を始め国際社会で一部不正確な理解が広まっており,客観的な事実関係に基づくことが重要であることを改めて認識いただきたく思います」
具体的に何が「不正確な理解」なのかについては一切説明せず、印象操作のみ行う手法ですが、安倍自民が国内向けに使う分には有効でも国連や海外諸国には通じるわけもなく、まあ、通じるかどうかではなく、恫喝として使えればいいというくらいのチンピラ並みの認識なんでしょうねぇ。