強姦・強制わいせつの動機が性欲ではなく支配欲であることが周知されれば、報道のされ方も変わると思う

警察庁の統計(H27)には、被疑者の犯行の動機・原因別の集計があります。

動機・原因は、「生活困窮」「保険金目当て」「ぱちんこ依存」「ギャンブル依存」「遊興費充当」「債務返済」「職業的犯罪」「一時的盗用」「対象物自体の所有・消費目的」「その他の利欲」「介護・看病疲れ」「子育ての悩み」「痴情」「怨恨」「憤怒」「性的欲求」「服従迎合」「遊び好奇心スリル」「自己顕示」「薬物の作用」「異常めいてい・精神障害又はその疑い」「その他」「動機不明」の23項目に分けられています*1
「ぱちんこ依存」「ギャンブル依存」のように本質的に分割する意味があるのか微妙なものもありますが、この動機・原因というのが警察が被疑者の動機として調書に記載する基本的な類型だと考えて問題ないと思います。

そういう前提で、性犯罪(強姦、強制わいせつ)の動機を見てみると、2015年の統計はこのようになります。

動機 強盗強姦 強姦 強制わいせつ 合計
全体 35 1059 3983 5077
性的欲求 18 985 3748 4751
痴情 1 25 76 102
遊び好奇心スリル - 6 37 43
憤怒 1 3 9 13
怨恨 - 3 6 9
その他の利欲 4 - 4 8
生活困窮 5 - 1 6
異常めいてい・精神障害又はその疑い - - 5 5
遊興費充当 2 - - 2
債務返済 1 - - 1
対象物自体の所有・消費目的 - - 1 1
服従迎合 - 1 - 1
自己顕示 - 1 - 1
薬物の作用 1 - - 1
その他 - 13 36 49
動機不明 2 22 60 84

動機がほぼ性的欲求で片付けられていることがわかりますね。

しかしながら、強姦などの性暴力は「性欲に基づいてレイプするわけではない」「性欲よりも“支配欲”」と言われますので、果たして警察庁のカテゴライズは適切なのかという疑問がわきます。
2015年統計で「性的欲求」という動機の犯罪は14142件あり、強姦・強制わいせつ以外に、窃盗(5067件)、住居侵入(1462件)、公然わいせつ(1404件)、暴行(634件)などがあります。下着ドロや露出とかと強姦を、同じ「性的欲求」という動機でくくるのはかなり乱暴な気がします。

とはいえ、犯罪者を逮捕して有罪を主張できる証拠を揃えて裁判所に送るのが仕事の警察・検察にしてみれば、そういう本質的な意味での分類にあまり興味は持てないでしょう。彼らにとって重要なのは、裁判所も世間も納得する、あるいは積極的に疑義を抱かれない程度の証拠を示すことです。
つまり強姦・強制わいせつで逮捕した被疑者を裁判所に送る際に警察・検察は、世間に理解されやすい動機を示す傾向にあると考えられるわけです。

そして、被疑者の「性的欲求」を示す根拠として、被疑者の性的嗜好に関する情報がリークされ報道されるわけですね。

言うまでもなく、成人向けの漫画・雑誌・ゲーム・ビデオなどは証拠として押収することも容易で、報じる上でも格好の素材になりますね。

犯罪の動機としてこれらを結びつける思考は極めて雑という他ないんですが、警察・検察・裁判所的には「性的欲求」という同一のカテゴリとして扱いやすく、一般人も性暴力の動機が、性欲や支配欲かなんて問題に興味など持ってませんから「性的欲求」という同一のカテゴリで思考します。
メディアにとっても、情報源である警察も視聴者も「性的欲求」という同一のカテゴリで思考しているのに、それをわざわざ複雑にする手間をかけたいとは思わないでしょう。

性暴力事件が起きると、被疑者所有の成人向けの漫画・雑誌・ゲーム・ビデオなどがやたらクローズアップされるのは、こういった構造によるものだろうなぁ、と思ってます。

で、成人向けの漫画・雑誌・ゲーム・ビデオなどがやたらクローズアップされるのを批判するオタはいるわけですが、どうも表現規制派の陰謀みたいな扱いをしてたりしてするんですよね。

実際のところ、陰謀だとか意図的だとかではなく、単純に犯罪報道や犯罪理解についてカテゴライズの仕方が古臭く雑なだけだと思うんですけどね。

個人的には、強姦などの性暴力の動機は「性的欲求」目的の窃盗などと明確に区別すべきだと思ってます。動機・原因に「支配欲」を追加すべきだと。裁判において、被疑者の支配欲に関する性向を論証することが必要になってくれば、被疑者の所有物よりも被疑者の人間関係の方に焦点があてられるようになるんじゃないかなぁ、と、そんな風に考えています。


まあ、警察・検察やメディアが動機を単純な類型に落とし込もうとする問題は、性暴力だけではなく殺人とかでもそうですけどね。
本来個々の事件ごとに複雑な背景があるにもかかわらず、「生活費に困って」「保険金目当て」「遊ぶ金ほしさ」「借金に困って」「介護・看病疲れ」「子育ての悩み」「痴情のもつれ」「恨みに思って」「かっとして」などの定型文に落とし込むのは、説明を容易にする利点はあっても単純化しすぎて一般の認識と実態が乖離してしまう懸念があるわけで。
犯罪を単純化してしまうと犯罪者を悪魔化することにつながり、安易に厳罰化を求めるようになってしまうのではないかな、と思ってます。

*1:「薬物の作用」とは、麻薬、覚せい剤、有機溶剤等の薬物の作用により、興奮、幻覚等があることをいう。「異常めいてい」とは、アルコールの影響により極度の興奮又は錯乱がみられる状態にあることをいう。