この件。
https://mainichi.jp/articles/20190312/k00/00m/040/099000c準強姦で起訴の男性会社役員に無罪判決 地裁久留米支部
毎日新聞2019年3月12日 12時32分(最終更新 3月12日 16時01分)
飲酒によって意識がもうろうとなっていた女性に性的暴行をしたとして、準強姦(ごうかん)罪に問われた福岡市博多区の会社役員の男性(44)に対し、福岡地裁久留米支部は12日、無罪(求刑・懲役4年)を言い渡した。
西崎健児裁判長は「女性が拒否できない状態にあったことは認められるが、被告がそのことを認識していたと認められない」と述べた。
男性は2017年2月5日、福岡市の飲食店で当時22歳の女性が飲酒で深酔いして抵抗できない状況にある中、性的暴行をした、として起訴された。
判決で西崎裁判長は、「女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐(おうと)しても眠り込んでおり、抵抗できない状態だった」と認定。そのうえで、女性が目を開けたり、何度か声を出したりしたことなどから、「女性が許容している、と被告が誤信してしまうような状況にあった」と判断した。【安部志帆子】
上記記事を読んだ限りでの個人的な意見ですが、「女性が拒否できない状態にあったことは認められる」なら、事前または事後にでも明確な同意がない限りは準強姦と判断すべきだと思いますので、判決には全く同意できません。
その上で判決の論理を考えてみます。
起訴罪状はこれ。
(準強制わいせつ及び準強制性交等)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045_20170713_429AC0000000072&openerCode=1#778
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
この手の犯罪の場合、保護法益は性的自己決定権とされるのが多分多数説だと思います。
したがって本件の場合だと、酩酊して心神喪失状態にあったことが認定された上で意図に反した性交を強いられたわけですから、有罪以外の判決が出るわけがありません。
ところが判決では、ちょいちょい別の要素が入り込むことがあるようで、それが加害者に猥褻の意図があったかどうか、という要素です。
「強制わいせつ罪における性的意図の法的性質と要否」によると、外形的には明確に猥褻行為であっても、性的意図が無かった、あるいは専らの意図ではなかったという理由で無罪になっている事例があります。
上記記事の判決では「女性が許容している、と被告が誤信してしまうような状況にあった」から“強姦”の意図はなく、よって無罪、という性的意図の存在を要件とする判決ロジックを使っているように思われます。
ただ、「強制わいせつ罪における性的意図の法的性質と要否」では、「近年は、複数意図併存事例、あるいは行為者が性的意図をまったく持たず、報復、金銭等の目的でわいせつ性のある外形的行為に出た事例(略)について、そもそも性的意図は不要であるとして同罪の成立を認めた判例が現れている」とのことですが、挙げられている事例は2014年とか2017年とかのホントに近年で、そんな状況では、上記記事のような地裁判決も出るわな、とか。
とは言え、性的意図を不要とする傾向が見られるのであれば、上記記事の地裁判決も高裁レベルで覆される可能性はありそうに思えます。
まあ、個人的な意見としては、そもそも性交に際し相手側から明確な合意を得ていない場合は原則として全て強姦とみなすべきじゃないかな、とか思いますけどね。
事後に相手側から事後的な合意を得たとか夫婦や恋人関係など継続的かつ安定的な関係性が維持されていたことが立証できるとかの場合を例外とするだけで冤罪の可能性もほぼなくせるでしょうし。