「治験なんて絶対するもんじゃない。」に関する雑感

治験なんて絶対するもんじゃない。の件。
これ実際は連絡してきたスタッフの対応が悪かった程度の話で、増田が尾ひれをつけた感が強い気がします。

治験に関して事実部分に相当するのは以下の部分だけです。

どうやら、自分の試験結果におかしなところがあったようだった。(自分は医学的なことは詳しくわからないけれど、薬の成分が血液から検出されなかったようだった。)

https://anond.hatelabo.jp/20170729065340

これ以外に具体的な健康被害があったとかの記載がありませんよね。
実薬群の被験者から「薬の成分が血液から検出されなかった」のだとすれば可能性は四つしかありません。

1.間違ってプラセボが投与された
2.被験者が投与された実薬を飲まなかった・吐き出した
3.血液検体を取り違えた
4.治験で設定した薬剤量が少なく血液から検出できなかった

スタッフの対応を「結論ありきの治験」とか非難している人が結構いますけど、薬の効果や安全性についての話じゃないのでそういう話じゃありません。出るはずの効果が出ていないとかでないはずの副作用が出ているとか、そういう話じゃありませんよね?

薬って、飲んで消化管から血液内に成分が吸収されて効果を示すわけですから、実薬飲んで血液に検出できなかったとすれば上の四つの可能性しかなく、それを確認するのは当たり前の話です。問題があるとすれば、連絡してきたスタッフが「2」だと決めつけて増田を追及した点に問題があったくらいでしょう。

当然、治験実施側としては「1」「3」も調べてるはずです。ただ、いずれもめったにあることじゃありません。だから実施側が「2」の可能性を強く疑うのはわからなくはありません。
治験として問題になるのは「4」の可能性です。初めてヒトに投与するにあたって安全性に配慮するあまり、設定する投与量を低くしすぎて毒にも薬にもならない成分量になったパターンですね。これは試験が無駄になってしまうので、治験実施側にしたら頭の痛い問題です。ただ、被験者側としては健康被害が出るわけではないので大してデメリットは生じません。
現場のスタッフとしては「2」を疑うのは当然で、増田に確認するのも当たり前、もし意図的に不正をするような被験者なら強く追及しないと正直に答えないだろうと考えるのもわかります。ただ、もう少し慎重にやるべきだったでしょうね。
「すごく威圧的な口調」とか「不正をしたことを認めないと25万円の謝礼を支払わないぞ、と脅しのようなこと」とかは実際の発言内容がどうだったかはわかりませんが、結果として増田を不快にさせたのなら対応としては失敗だったと言わざるを得ません。

増田の内容で気になるところ

「私は、25万円は期日通りもらえるのか、私の健康は大丈夫なのかという連絡をしたが返信はなし。試験結果がおかしいのだから、きちんと私に検査をさせるべきではないのかとも伝えたければ返信はない。」

これ、自覚症状として何等かの有害事象が出ているわけではないんですよね。
「薬の成分が血液から検出されなかった」というのは健康上影響のある話ではありませんから、「きちんと私に検査をさせるべき」というのもそりゃないですよね。
ですから、増田のこの要求はおかしいです。

あと普通、治験で健康被害が生じた場合は治験依頼者の負担で治療費などの補償が行われる制度があり、同意説明時に参加者に説明されているはずです。もちろん、健康被害が治験と明らかに関係ない場合や治験参加者の故意や重大な過失で生じた場合は別でしょうけど。

「治験に参加をすると、治験倫理審査委員という機関を紹介されて、そちらが施設と参加者との間のトラブルを仲裁するということだったけれど、相談をしても何もしてくれない。」

治験倫理審査委員会は普通、施設と参加者との間のトラブルを仲裁するような役割を負ってません。基本的に治験計画の倫理性、安全性、妥当性を審査し、治験開始後はそれが計画通りに行われているかを定期的にモニタリングすることが仕事で、実態としては開始前の計画の審査がほとんどのようです*1

治験参加者が何かあって相談する場合は、基本的には治験コーディネーターか治験責任医師か治験担当医師が窓口になります。
相談する先を間違っているように思えます。

「今回の治験の主催である製薬会社も社名を伏せられていて、製薬会社を教えてくれと問い合わせても教えてくれない。」

これも企業治験で製薬会社の社名を治験参加者に隠すこともほとんど考えれません。
同意説明文書には、ほぼ確実に書かれているはずで、最低限「予測される治験薬による被験者の心身の健康に対する利益(当該利益が見込まれない場合はその旨)及び予測される被験者に対する不利益」が記載されます(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令51条1項5号)ので、同意説明文書を見れば、どの製薬会社なのか調べればすぐわかります。

まあ、文書とか全て破棄して何の治験だったか全く覚えていなくて、問い合わせたら教えてくれなかったということかもしれませんが、治験倫理審査委員会には相談したようですので、その辺りがよくわかりません。病院の治験倫理審査委員会は連絡先を公開していますけど、何の治験かもわからない状態で問い合わせられても対応のしようがないでしょうね。

「労基署、消費者相談センター、厚生労働省に相談をしたけれど、治験は通常の労働とは違うということもあってきちんとした対応はしてくれない。どこも、クリニカルリサーチ東京病院と話し合ってくれというばかり。」

増田の記載を読む限り、そもそも健康被害が出てないのですからそれは病院と話してとしか答えようがないでしょうね。
増田が何を望んでいるのかもよくわかりません。
自分の「試験の結果がおかしい」ということを懸念しているようですが、何がどうおかしいのかについては「(自分は医学的なことは詳しくわからないけれど、薬の成分が血液から検出されなかったようだった。)」としか書かれていません。薬の成分が血液から検出されなかっただけなら、健康上は何の問題もありませんよね。

「試験の結果がおかしいのであれば、自分の健康をきちんと確認してちゃんとフォローをするのが筋だ」と言ってますが、検査値が有害なレベルの異常値を示したのならともかく、「薬の成分が血液から検出されなかった」というのはそうではありませんし、具合が悪いなどの自覚症状も無いのならフォローしないのも当然ではないですかね。

「私の健康は大丈夫なのかという連絡をしたが返信はなし。」

医師以外のスタッフに連絡しても、治験参加者の健康について大丈夫なんて回答はできませんし、医師だってメールで回答はできないでしょう。
どうしても自分の健康が心配なら、病院に行って検査してもらうべきとしか言いようがありません。


というわけで、病院スタッフの対応も悪かったのだとは思うものの、増田の対応もどうかと思うというのが正直なところです。治験終って1週間しか経ってなく負担軽減費とかの振り込みもまだなのに、同意説明文書とかの文書類を全部亡くしたとしか思えない対応とか、具体的な病院名を出してるあたりとかはどうかと思います。

ちなみに

私も治験ではないですが、健康食品の臨床研究には参加したことがあり、結果がおかしいと言われたことがあります。
プラセボか実薬かは教えてくれませんでしたが、逆の動きをしてると言われました。まあ所詮、健康食品なので「あ、そーすか」で終わらせましたけど。