治験参加時の注意点

「治験なんて絶対するもんじゃない。」に関する雑感」に関連して。
治験に参加する際には、治験責任医師らから治験に関する説明を受け、同意文書に署名することになっています。
このあたりは「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令 (平成九年三月二十七日厚生省令第二十八号)」で定められています。

医師による説明・同意の取得(省令50条1項)

(文書による説明と同意の取得)
第五十条  治験責任医師等は、被験者となるべき者を治験に参加させるときは、あらかじめ治験の内容その他の治験に関する事項について当該者の理解を得るよう、文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09F03601000028.html

治験に参加した患者は医師から説明を受けて参加に同意しているはずで、もしそのような説明を受けていない、あるいは同意に署名していないのならば、その治験には問題があります。(代諾者による同意もありえます)

同意説明文書に記載される事項(省令51条1項)・同意文書(省令53条)

(説明文書)
第五十一条  治験責任医師等は、前条第一項の説明を行うときは、次に掲げる事項を記載した説明文書を交付しなければならない。
一  当該治験が試験を目的とするものである旨
二  治験の目的
三  治験責任医師の氏名、職名及び連絡先
四  治験の方法
五  予測される治験薬による被験者の心身の健康に対する利益(当該利益が見込まれない場合はその旨)及び予測される被験者に対する不利益
六  他の治療方法に関する事項
七  治験に参加する期間
八  治験の参加をいつでも取りやめることができる旨
九  治験に参加しないこと又は参加を取りやめることにより被験者が不利益な取扱いを受けない旨
十  被験者の秘密が保全されることを条件に、モニター、監査担当者及び治験審査委員会等が原資料を閲覧できる旨
十一  被験者に係る秘密が保全される旨
十二  健康被害が発生した場合における実施医療機関の連絡先
十三  健康被害が発生した場合に必要な治療が行われる旨
十四  健康被害の補償に関する事項
十五  当該治験の適否等について調査審議を行う治験審査委員会の種類、各治験審査委員会において調査審議を行う事項その他当該治験に係る治験審査委員会に関する事項
十六  被験者が負担する治験の費用があるときは、当該費用に関する事項
十七  当該治験に係る必要な事項

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(同意文書の交付)
第五十三条  治験責任医師等は、治験責任医師等及び被験者となるべき者が記名押印し、又は署名した同意文書の写しを被験者(代諾者の同意を得た場合にあっては、当該者。次条において同じ。)に交付しなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09F03601000028.html

一括して同意説明文書と言われるものです。
被験者にとっては極めて重要な文書ですので、確実に保管しておく必要があります。治験についてわからないことがあった場合の質問先(3号)、健康被害が生じた場合の相談先(12号)、健康被害時の治療・補償(13号・14号)などが記載されています。
どのような薬剤かについては、治験の方法(4号)に並べて開発経緯など含めて書かれていることが多いようです(「同意説明文書」で検索すれば、色んな病院で使っている見本が見つかります。)。
治験に関するウワサでは、治験に使った薬剤名は公開されないとかどの製薬企業なのかは隠されているとか、よく聞きますが、普通はこの同意説明文書に書かれています。

被験者に誤解させてはならない・わかりやすく(省令51条2項・3項)

2  説明文書には、被験者となるべき者に権利を放棄させる旨又はそれを疑わせる記載及び治験依頼者、自ら治験を実施する者、実施医療機関、治験責任医師等の責任を免除し、若しくは軽減させる旨又はそれを疑わせる記載をしてはならない。
3  説明文書には、できる限り平易な表現を用いなければならない。

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被験者に対して治験参加に同意することによって権利を放棄したことになるように誤解させないような記載で無ければならないとする規定です。そしてわかりやすくしなければならない、という規定です。
契約書の条文をろくに読まずに署名してしまうのはよく聞きますが、被験者はちゃんとよく読んでおくべきです。一応、わかりやすい表現で、とありますが、医師でない一般人にとってはそれでも理解しにくいことが多いでしょうから、わからないところは質問する必要があります。

医師に質問する機会・医師の回答義務(省令50条5項)

5  治験責任医師等は、説明文書の内容その他治験に関する事項について、被験者となるべき者(被験者となるべき者の代諾者の同意を得る場合にあっては、当該者。次条から第五十三条までにおいて同じ。)に質問をする機会を与え、かつ、当該質問に十分に答えなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09F03601000028.html

医師には被験者に質問する機会を与え、質問に答える義務があります。
省令で決められている被験者の権利ですので、必要だと思ったら遠慮なく権利を行使して質問すべきです。

基本的には治験責任医師(治験分担医師)が相談相手だが

医師が忙しそうな時は、治験コーディネーターにも質問できることが多いですね。この質問先も同意説明文書に普通は載ってます。

治験に関するウワサは?

もちろん、法律で決まっているからといって現場で法律通りにちゃんと実施されているかは別問題です。
ですが、治験にまつわるウワサの中には、同意説明文書見ればわかるのでは?というのもありますので、治験に関する法律上の規定や被験者の権利などについてはちゃんと理解しておいた方が良いでしょう。

ネット上の治験関連の話だと「何で同意説明文書を確認しないの?」と疑問に思うようなものが多いんですよね。
もし、同意説明文書をもらってないとか、同意説明文書に必要な事項が書かれていないとかだったら、そっちの方が明確な省令違反で大問題なんですけどね。“病院は何も教えてくれない”、“治験の闇”とか短絡する前に、まずそこを確認すべきなのに。