政令を迅速に発していたら法律的には強制的に検体採取できたと思うのだが・・・

この件。

ウイルス検査「法的拘束力ない」と首相

1/30(木) 10:08配信 共同通信
 安倍首相は帰国した2人がウイルス検査を拒否したことに関し「法的な拘束力はない。人権の問題もあり、踏み込めないところもある」と説明した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200130-00000063-kyodonews-pol

今回の新型コロナウイルス感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律感染症法)上の「新感染症」(法6条)とみなせないのでしょうかね、というのが第一の疑問。

感染症

第六条 第9項 この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000114#240

一応、2020年1月28日時点で政令*1を発して新型コロナウイルスについて「新感染症」ではなく、「指定感染症」としていますが政令の効力発生が2020年2月7日からとなっています。

感染症

第六条 第8項 この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000114#240

既知の重症化傾向を持つコロナウイルスSARS-CoV、MERS-CoV)自体は「既に知られている感染性の疾病」ですし、現状の新型コロナウイルスによる肺炎も「疾病にかかった場合の病状の程度が重篤」とまではいえないのかもしれませんから、政令で「指定感染症」とするのが妥当なのかも知れません(ただし、SARSは2003年4月3日にまず「新感染症」として扱い、後に「指定感染症」に切り替えられている*2)。
ただ、その政令は「1 第一の命令は、公布の日から起算して10日を経過した日(令和2年2月7日)から施行すること。」*3としており、なぜ10日待つ必要があるのかがよくわかりません。周知期間とのことですが、結局2月1日に前倒ししていますしね*4

さらに言えば、政令を発したのが2020年1月28日というのも遅すぎませんか、と。これが第二の疑問。

感染症法15条は知事や厚労相に調査を命じる権限を規定していますが、その感染症法15条調査に備えて国立感染症研究所は2020年1月17日時点で「新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領(2020年1月17日暫定版) 」を作成しています。
つまり、国立感染症研究所は1月17日時点で既に新型コロナウイルス感染症が、感染症法が適用される疾患となることを見越して準備していたわけです。

政令公布から施行までに10日間の猶予がどうしても必要だとするならば、政令公布を迅速に行う必要があることになりますから、国立感染症研究所疫学調査の準備を公表した2020年1月17日時点で政令を公布しておくべきではないでしょうか。

もし、2020年1月17日時点で政令を公布していたら10日の猶予をとっても1月27日時点で政令は施行され、新型コロナウイルスを「指定感染症」とした法的措置がとれたはずです。

具体的には、指定感染症の「まん延を防止するため必要があると認めるとき」には都道府県知事が、指定感染症の「まん延を防止するため緊急の必要があると認めるとき」には厚生労働大臣が指定感染症に「かかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」に対して「当該者の検体」の提出や「当該検体の採取に応じるべきこと」を勧告することができます(法15条の3 1項・2項を法7条に基づき指定感染症に適用)。
当該者が検査を拒否した場合(勧告に従わない場合)は、知事や厚労相は職員に対して当該者から「検査のため必要な最小限度において、同号に定める検体を採取させることができる」となっています(法15条の3 3項・4項、法7条)。

これらの勧告や検体採取にあたっては、原則として書面で以下の内容を当該者に通知する必要があります(法16条の3 5項)。

一 検体の提出若しくは採取の勧告をし、又は検体の採取の措置を実施する理由
二 検体の提出又は採取の勧告をする場合にあっては、検体を提出し、又は検体の採取に応じさせるべき期限
三 検体の採取の措置を実施する場合にあっては、検体の採取を行う日時、場所及びその方法
四 検体の提出又は採取の勧告をする場合にあっては、当該勧告に従わない場合に検体の採取の措置を実施することがある旨
五 その他必要と認める事項

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410M50000100099#217

「当該事項を書面により通知しないで検体の提出若しくは採取の勧告をし、又は検体の採取の措置を実施すべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない」ともあります。

「安倍首相は帰国した2人がウイルス検査を拒否したことに関し「法的な拘束力はない。人権の問題もあり、踏み込めないところもある」と説明した」*5とのことですが、どうも単純に新型コロナウイルスを指定感染症とする政令の発出が遅れたのが原因のように思えますねぇ。


厚労省自身、2020年1月16日時点で国内初の感染例を知らせる「新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)」というプレス発表もしており、「武漢市における原因不明肺炎」という発表ならば、2020年1月6日時点で行っています。
遅くとも、2020年1月16日以降の時点で厚労省新型コロナウイルスに関連した肺炎を「第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるもの」を認識していなければおかしいでしょう。

法的な拘束力をもってウイルス検査が出来なかったのが、政令による指定が遅れたからであるとすれば、これは政府の責任という他ありません。




日本人帰国者2人が検査拒否し帰宅…「なぜ日本は強制隔離できないのか」(1/30(木) 11:38配信 中央日報日本語版)」の件、追加。

この記事の中で、こう書かれています。

読売新聞によると、当初彼らの帰国を控え日本政府の関係省庁担当者会議では、「帰国者全員を一定期間隔離すべき」という意見が出てきた。帰国者本人も周辺の差別や偏見、症状発現などを心配しているため隔離収容するのが良いのではないかという論理だった。
しかし主務省庁である厚生労働省が反対し全員強制隔離措置はなされなかった。厚生労働省は「法律上症状がない人に隔離を強制できない。人権問題が発生する」と主張したという。
2人の離脱者が発生したことをめぐり自民党内でも懸念が出てきた。29日に開かれた自民党対策本部の会合で強硬派の間では「日本は今年の夏季五輪開催国のため世界が危機管理対応を注視している。なぜ外国ではやっていることを日本はできないのか」という不満の声が出たという。フランスとオーストラリア、韓国などが帰国者全員を最長で2週間隔離措置するという方針を立てたことを意識した発言とみられる。
日本政府は武漢地域に残っている日本人約450人の追加帰国を控えており悩みがさらに深まっている。これに先立ち28日に新型肺炎を指定感染症に指定(来月7日施行)したが無症状者は対象でないためだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200130-00000031-cnippou-kr

ここでは「無症状者は対象でない」と書かれていますが、感染症法15条は「一類感染症、二類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者若しくは無症状病原体保有者又は当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」(指定感染症の場合も同条文を適用)とあり、新型コロナウイルス感染症の患者だけではなく、疑似症患者や無症状でも病原体を保有している者、さらには「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」を含んでいます。
武漢が事実上封鎖されて以降に武漢からチャーター便で帰国した者を「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」とみなすことが出来ないことはないと思うのですけどね。