雑感

この件。
東京「ロックダウン」も封鎖できません? 「要請」で乗り切るためにも「補償と現金」を(2020年03月28日 08時53分)
【重要】今の日本の法律では「禁止・命令」レベルの法律がないため「要請」以上のことは出来ない話

この手の意見が山ほど出ていますが、ちょっと賛同し難い点もあるんですよね。

例えば、こういう部分。

ーー「感染症法」ではどうでしょうか

感染症法では、まん延防止の緊急の必要がある場合に、感染症の患者がいる場所、感染症の病原体に汚染されたり、又は汚染された疑いがあったりする場所の交通を制限し、又は遮断することができるということになっています(感染症法33条)。3月26日に政令が改められ、27日から新型コロナウイルスもこの対象になりました。
ただ、この交通の制限遮断は72時間以内とされていますので、緊急事態宣言が21日間出されたとしても、全く対応できません。更新できるようなことも定められていないため、3日ごとに更新し続けるような運用もできないと考えられます。
さらに、汚染された疑いのある場所の交通だけを遮断できるにとどまりますので、東京都全域ではなく限定的にしかできず、全面的に外出を禁止することもできないと考えられます。フランス、イタリアのように感染爆発する前に、早急に法改正すべきではないでしょうか」

https://www.bengo4.com/c_18/n_10982/

弁護士としての回答ですから、こうなるのはわかります。
しかし、現実問題として政府・自治体がどう解釈して実施するかというのは別です。例えば「東京都全域ではなく限定的にしかできず」というのは法律上の制限ではなく、あくまでも「当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所」という条文が指すのは限定的なものであるという弁護士の解釈(判例があるのかも知れませんが)です。
都内の特定の市区で感染者が急激に増大した場合に、都知事がその市区に通じる交通を制限遮断することは条文上は可能でしょう。

また、「この交通の制限遮断は72時間以内とされていますので、緊急事態宣言が21日間出されたとしても、全く対応できません。更新できるようなことも定められていないため、3日ごとに更新し続けるような運用もできない」というのも、弁護士の解釈でしかありません。
例えば、刑事事件での逮捕拘留期間は法律上最大23日間しか認められていませんが、実際の運用では23日間を超えた拘留が常態化していますよね*1。形式上は別容疑での再逮捕であって同一事件で23日を超えて拘留しているわけではないという建前を用いて長期拘留しているわけです。
感染症法33条の交通制限遮断も同様に72時間ごとに改めて「緊急の必要がある」と認めて形式上は新たに制限を発動することも可能でしょう。

そうすべきだとは思いませんけど。

外出禁止に関しても要請しかできないわけではなく、各自治体が感染症緊急事態宣言時の外出を禁止する条例を定めることは可能ですよね*2。罰則を付けるのは難しいでしょうが。そのような条例は憲法違反だという指摘は当然あるでしょうが、感染症拡大防止という理由は公共の福祉として考慮されるに値する事情ではあるでしょうから、必ずしも裁判所が憲法違反とみなすとは限りません。
ちなみに、New York州が3月20日に出した知事命令202.8は実質的な外出禁止令とされますが、内容は必須事業以外の在宅勤務を最大限行うことを求めるもので、市民に対して外出禁止を命じているものでは無さそうで、少なくとも罰則があるわけではありません*3
会見では「There will be a civil fine and mandatory closure for any business that is not in compliance」と述べていますが、民事罰や強制閉鎖の対象はビジネスであって個人ではありません。

個人に対する禁止規定はこんな感じで定められた10か条に含まれていますが、罰則はありませんね。

The Governor's 10-point NYS on PAUSE plan is as follows:

1. Effective at 8PM on Sunday, March 22, all non-essential businesses statewide will be closed;
2. Non-essential gatherings of individuals of any size for any reason (e.g. parties, celebrations or other social events) are canceled or postponed at this time;
3. Any concentration of individuals outside their home must be limited to workers providing essential services and social distancing should be practiced;
4. When in public individuals must practice social distancing of at least six feet from others;
5. Businesses and entities that provide other essential services must implement rules that help facilitate social distancing of at least six feet;
6. Individuals should limit outdoor recreational activities to non-contact and avoid activities where they come in close contact with other people;
7. Individuals should limit use of public transportation to when absolutely necessary and should limit potential exposure by spacing out at least six feet from other riders;
8. Sick individuals should not leave their home unless to receive medical care and only after a telehealth visit to determine if leaving the home is in the best interest of their health;
9. Young people should also practice social distancing and avoid contact with vulnerable populations; and
10. Use precautionary sanitizer practices such as using isopropyl alcohol wipes.

"Matilda's Law" includes the following rules for vulnerable populations:

  • Remain indoors;
  • Can go outside for solitary exercise;
  • Pre-screen all visitors and aides by taking their temperature and seeing if person is exhibiting other flu-like symptoms;
  • Do not visit households with multiple people;
  • Wear a mask when in the company of others;
  • To the greatest extent possible, everyone in the presence of vulnerable people should wear a mask;
  • Always stay at least six feet away from individuals; and
  • Do not take public transportation unless urgent and absolutely necessary.
https://www.governor.ny.gov/news/governor-cuomo-signs-new-york-state-pause-executive-order

日本でも政府の緊急事態宣言にリンクした外出禁止令を自治体レベルで発するのはありだとは思います。もちろん罰則には賛成できませんが。

あと、個人ではなく事業者に対してなら現状の日本でも事実上の強制は可能ですよね。
例えば、企業に対して可能な限りの在宅勤務を命じることは、職場内での感染拡大のリスクによっては使用者の安全配慮義務(労働契約法5条)の範囲内とも解釈できるんじゃないですかね。企業が正当な理由なく在宅勤務への転換を怠った場合には労働契約法5条違反を問われ得ると政府・自治体が宣言すれば、ほとんど強制と同じ効力を発揮するんじゃないでしょうか。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=419AC0000000128

まあ、判例や法解釈上、そういうことはできないのかも知れませんが。

パチンコ等についても風俗営業*421条の「善良の風俗若しくは清浄な風俗環境」の定義によりますが、市中で感染症が拡大している状況下での営業を「善良の風俗若しくは清浄な風俗環境」を害する行為と解釈できるなら条例によって営業に制限を科することが出来そうに思えます。

(条例への委任)
第二十一条 第十二条から第十九条まで、前条第一項及び次条第二項に定めるもののほか、都道府県は、条例により、風俗営業者の行為について、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し、又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な制限を定めることができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000122

まあ、これもそうすべきだとは思いませんけど*5


ところで個人的には、感染症拡大防止のために個人に義務を課すやり方として健康増進法*6受動喫煙防止規定と同じような条項で対応すべきではないかな、と思っています。
受動喫煙防止については、27条1項や29条1項が個人に義務を課す規定になっています。

(喫煙をする際の配慮義務等)
第二十七条 何人も、特定施設及び旅客運送事業自動車等(以下この章において「特定施設等」という。)の第二十九条第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。

(特定施設等における喫煙の禁止等)
第二十九条 何人も、正当な理由がなくて、特定施設等においては、次の各号に掲げる特定施設等の区分に応じ、当該特定施設等の当該各号に定める場所(以下この節において「喫煙禁止場所」という。)で喫煙をしてはならない。

法律で他人に感染させないように配慮する義務を課し(罰則なし)、詳細を条例で定める受動喫煙防止と同様の対応を取ればよいのではないかと思うんですよね。

上記で述べたことを全てすべきだとは思いませんが、憲法や法律のせいで出来ないとか言う主張に対しても疑問に思ったので一応書いておきます。

平たく言うと、“憲法のせいで出来ない、だから改憲を”とか言い出すバカがいそうだからです。



*1:https://keiji-pro.com/columns/46/

*2:名古屋市の条例もあくまで要請であって外出禁止ではないですね。

*3:朝日の「NY、ロンドン、パリ 外出制限でどんな生活?罰金は?」(ニューヨーク=鵜飼啓、ロンドン=下司佳代子、パリ=疋田多揚 2020年4月11日 12時00分)でも「「都市封鎖」の一例として挙げられる米ニューヨークではこれまで、3千人以上が新型コロナウイルスに感染して死亡した。3月22日夜からは、州知事医療機関や食料品店など、必要不可欠な業種を除いて在宅勤務を義務づけており、普段は人があふれるマンハッタン中心部のオフィス街から人が消えた。 だが、外出が禁じられているわけではない。スーパーやドラッグストアの営業は続いており、生鮮食品などは豊富だ。店内が混み合わないよう入店人数を制限している店が多く、店頭に行列ができることもある。地下鉄やバスなども本数を減らして運行しており、市外への移動制限はない。」 とあります。

*4:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000122

*5:法改正などで、感染症拡大という状況を特定した上で条例に委任すべきであって、用語の拡大解釈で対応すべきとは思いません

*6:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=414AC0000000103