南千島(北方領土)領土問題に関する個人的見解

安倍政権が2島(のみ)返還でプーチン政権と合意するのでは的な意見が散見され、常日頃、安倍政権支持を主張している連中が静かだという点以外は、概ね批判的なのですが、個人的には2島返還での日露平和条約締結という流れであれば支持しています。

2島さえ厳しい?

簡単とは思わないもののロシア側の態度は外交交渉上のブラフと見れる部分が多々ありますし、ロシアでの反対デモについても強権国家であることを考慮すれば妥結を阻害する決定的要因になるとも思えません。したがって、安倍政権が2島で決着させるという判断を下せるなら妥結の見込みは少なくないと見ています。

「北方4島返還「非現実的」」なんて半世紀以上前からわかりきった話

メディアが今さらこんなことを言っても安倍政権によるプロパガンダの一環くらいにしか思えないのは確かですが。

安倍政権、2島決着案を検討 北方4島返還「非現実的」

2019/1/21 05:27 ©一般社団法人共同通信社
 安倍晋三首相は北方領土問題に関し、北方四島のうち色丹島歯舞群島の引き渡しをロシアとの間で確約できれば、日ロ平和条約を締結する方向で検討に入った。複数の政府筋が20日、明らかにした。2島引き渡しを事実上の決着と位置付ける案だ。4島の総面積の93%を占める択捉島国後島の返還または引き渡しについて、安倍政権幹部は「現実的とは言えない」と述べた。首相はモスクワで22日、ロシアのプーチン大統領との首脳会談に臨む。
 「2島決着」に傾いた背景には、択捉、国後の返還を求め続けた場合、交渉が暗礁に乗り上げ、色丹と歯舞の引き渡しも遠のきかねないとの判断がある。

https://this.kiji.is/459764773200102497

これで妥結できるなら、半世紀前とは言わずとも冷戦終結後の1990年代には解決できてた話ですよね。ですので今さら感はハンパないんですが、それでも外交を阻害する要因となりうる領土問題を解決させて安定的な外交関係を樹立すること自体は悪くありません。

理屈として日本共産党の主張が正しいとは思うが

日本共産党は戦争や侵略の結果得たのではなく、平和的に取得した千島列島全域についての領有権を主張しています。領土拡張の目的を否定する米英中によるカイロ*1宣言とその条項の履行を宣言したポツダム宣言の条項を遵守するならば、日本が暴力的な手段によらず取得した千島列島を放棄しなければならない理由は無いからです。
そのため、千島列島を放棄することを定めたサンフランシスコ平和条約自体に問題があるというのは、理屈としては正しいと思います。

しかしながら個人的な意見としては、日本政府は千島列島を放棄する条項を含めてサンフランシスコ平和条約に調印し、かつ、その後政府として南千島北方領土)以外の千島列島の領有権については一切主張することなく60年以上経過したわけですから、民法上の取得時効の考え方を適用すべきではないかと思っています。

(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1#540

日本政府が公式に領有権を主張している南千島北方領土)については「平穏に」という条件を満たさないでしょうが、南千島北方領土)以外の千島列島についてはソ連・ロシアが「所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と」占有していたと言えなくはありませんので。もちろん国際法的にこのような考え方が適切かどうかはわかりませんし、日本共産党が日本の領有権を主張していたことを持って「平穏」ではなかったと言えなくも無いでしょうが。

また、60年以上もソ連・ロシア領であったことからこれまでの住民生活といった実態を事実として考えると、日本政府が公式に領有権主張していなかった地域の帰属を変更することは住民の権利を侵害する懸念もありますので、住民の意思をどう反映するのかという点も考慮する必要があります。

南千島北方領土)について

住民の権利という点で考えると、南千島北方領土)についてもやはり今さらの帰属変更は難しいところだと思います。もっとも、南千島北方領土)については日本側が領有権を主張していることを住民にとっても周知の事実であったという場合は多少、その点を考慮する必要があるでしょうが。

政府レベルの話では、個人的にはやはりサンフランシスコ平和条約で日本は千島列島を放棄していますから、後になってから“南千島は千島列島ではない。北方領土だ”とか言われても、さすがにそれは無理があろうと思っています。
サンフランシスコ平和条約を基点とする限り、少なくとも択捉・国後については、日本の領有権主張は無理があるといわざるを得ないところです。せいぜい歯舞・色丹に関して北海道に附属する島嶼であるという主張での領有権が正当性を持つ程度でしょう。

その意味で2島返還であれば、まず妥当なところであろうと考えています。

言うまでも無く、その場合でも住民の意思をいかに尊重するかという点での検討事項は残りますが。



*1:誤記訂正2019/02/04