従軍慰安婦の推定人数に関する日韓両政府の認識

山田高明氏と言い、有馬哲夫氏と言い、“朝鮮人慰安婦だけで20万人いた説が世界中に広まっている”と主張して、それを否定して見せるという論法を利用しています。
山田氏も有馬氏も基本的な知識に欠けているのか、それとも一般社会に否定論を流布するために敢えて知らない振りをしているのか、いずれにせよ、問題設定の時点でデマを紛れ込ませています。
では、従軍慰安婦の人数について実際にはどんな説が主流かというと、日韓両政府とも歴史研究の成果を踏まえた幅をもった数字を提示していることから、それが主流と言っていいでしょう。

日本の場合(アジア女性基金の認識)

 一体どれほどの女性たちが日本軍の慰安所に集められたのか、朝鮮人慰安婦の比率はどの程度であったのか、どれほどの人々が戦場から帰らなかったのかというような点については、今日でも確実な答をえるような調査ができていません。
 まず慰安婦の総数を知りうるような総括的な資料は存在していません。総数についてのさまざまな意見はすべて研究者の推算です。
 推算の仕方は、日本軍の兵員総数をとり、慰安婦一人あたり兵員数のパラメーターで、これを除して、慰安婦数を推計するやり方があります。この場合に交代率、帰還による入れ替りの度合いが考慮に入れられます。
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http://www.awf.or.jp/1/facts-07.html

様々な推定値を列挙していますが、これらを踏まえると、2~41万人という数字になっています。ただし、アジア女性基金では蘇智良の説に対してやや否定的な説明も付けています。

韓国の場合(日本軍「慰安婦」被害者サバイバー歴史館)

現在、慰安婦に 動員された女性の総数については、未だ正確な情報は分からない。強制的に動員して慰安婦にさせられた女性たちの総数を示す体系的な資料が見つかっていないためである。一部の学者たちは、日本軍の「兵士何人あたりに慰安婦を何人おくか」という計画が示された資料や、複数の証言資料に基づき元日本軍慰安婦被害者の総数を推測している。しかし、日本軍「慰安婦」の総数は、最低3万人説から最大40万人説まで多様な意見があり、研究者によってバラツキが大きい。

日本軍は、慰安所設置の初期段階で主に日本と日本の植民地だった朝鮮、台湾から女性を動員したが、戦争の長期化と戦線の拡大に伴って、日本の占領地だった中国、フィリピン、インドネシアベトナムミャンマーインドネシアに居住しているオランダ人の女性たちも強制的に動員され日本軍「慰安婦」にされた。慰安婦問題を長期間にわたって研究してきた研究者・吉見義明氏によると、日本軍「慰安婦」の数は少なくとも8万人から20万人と推定され、その中に占める朝鮮人女性の割合は半分を超えるという調査結果を発表した。

http://www.hermuseum.go.kr/jpn/PageLink.do?thirdMenuNo=&subMenuNo=010100&menuNo=010000&link=forward:/PageContent.do&tempParam1=&%22


韓国では「最低3万人説から最大40万人説」という書き方で具体的な数字の根拠については特に明記ないものの、概ね日本での推定値範囲と近い範囲をとっています。やや積極的に支持しているとみられるのは吉見氏の説である「少なくとも8万人から20万人」ですが、これはアジア女性基金で提示している数字と上側は同じですが、下側は異なっています。

吉見「従軍慰安婦 (岩波新書)」の記述

吉見氏の推計値として、アジア女性基金は4.5万人と20万人という数字を挙げ、日本軍「慰安婦」被害者サバイバー歴史館は8万人と20万人という数字を挙げています。
実は、4.5万人という数字も、8万人という数字も、20万人という数字も全て「従軍慰安婦 (岩波新書)」に記載されています。

ただし、韓国の8万人というのは千田夏光氏の説として記載されており、下限として記載されたものではありません。ですが、日本の4.5万人というのも吉見氏は実際の下限として書いたものではなく、兵士100人に1人という慰安婦の割合と交代率1.5という仮定から機械的に導出したもので、実際には100人に1人という割合は第21軍の把握している人数を前提としたもので指揮下の小部隊が自前で調達した慰安婦を含まないことを踏まえて、「下限は約五万」としています。

従って吉見説としての下限値と上限値を挙げるなら、5万人~20万人とするのが正確です。

交代率

慰安婦数の推定に用いる交代率とは対象期間中に慰安婦が何回交代したかという数値で、戦争中1回も交代が無かったとすれば1、戦争中半数が1回交代したとすれば1.5、全員が1回交代したとすれば2となる。吉見説上限の20万人は交代率2と仮定した場合ですが、同著のなかで吉見氏は交代率についても言及しています。

従軍慰安婦 (岩波新書)」(P81)
日本軍は移動するたびに、各地で新たな慰安婦となる女性を求めたため、比較的短い期間のうちに新たな慰安婦が求められた。このような被害者を慰安婦に算入すれば、占領地の女性の交代率は何倍にもなることになる。

もし交代率が平均して4であれば、慰安婦の総数は推定40万人ということにもなるわけです。


その他

例えば、ヒストリーチャンネル(英語版)のサイトでは慰安婦に関する記事があり、そこではこう書かれています。

UPDATED:JUL 21, 2019ORIGINAL:FEB 20, 2018

The Brutal History of Japan’s ‘Comfort Women’

(抜粋)
By then,between 20,000 and 410,000 women had been enslaved in at least 125 brothels.

https://www.history.com/news/comfort-women-japan-military-brothels-korea

2万~41万人という幅のある数字を挙げていますが、これはアジア女性基金の数字そのものですね。


その他、2015年に元慰安婦の柳喜男*1氏が日本政府と産経新聞を相手に訴訟を起こした際の記事にはこう書かれています(記事というか訴状に書かれた内容)。

WWII ‘Comfort Women’ Call Out|Japan, Others for War Crimes

July 14, 2015
(抜粋)
You*2 and her co-plaintiff, Kyng Soon Kim, are two of over 200,000 young women abducted and forced to serve as comfort women for the pleasure of Japanese soldiers during World War II, according to the 71-page complaint.

https://www.courthousenews.com/wwii-comfort-women-call-outjapan-others-for-war-crimes/

ここでは一般的な20万人という数字を出していますが、別に朝鮮人慰安婦に限定してはおらず、普通に読めば(民族構成問わず)慰安婦の総数が20万人以上であったという解釈になるでしょうね。

まとめ

日本軍慰安婦の総数に関する世界における一般的な認識としては、アジア女性基金の数字に則った2万~41万人という幅のある数字か、20万人という概算値であると言えるでしょうね。
決して、“朝鮮人慰安婦だけで20万人だ”というのが世界中に広まっているわけではないようです。