違和感あるのでちょっと備忘のつもりだったが長くなった件

本題は「この選挙で、ネット右翼は終わり新たに「ネット左翼」が生まれた/【緊急対談】不毛な左右対立は加速する (古谷 経衡,辻田 真佐憲)」についてです。
前記事の「ネトウヨに関する認識について」は、ネトウヨを世代別に分類し性質やリアルの実態がそれぞれ異なることを示しておくための記事です。

ネット左翼

ここまでが前提です。ネトウヨに対する私の理解が古谷氏のそれとは異なるため、これを明らかにしておく必要がありました。
さて、古谷経衡氏、辻田真佐憲氏の対談の中には「ネット左翼」なるものが出てきます。
ネット左翼」については、だいたい、こんな印象で述べられています。

辻田:今回、希望の党はああいった形で途中で失速し、最終的には立憲民主党が善戦しましたが、もっと引いて全体を眺めてみると、やる前から「自民党の大勝」という結果が見えていた選挙でした。
でも選挙期間中、私がネット上でこういった意見を書くと、リベラル派と思われる人から「これは安倍政権にNOを突きつける戦いなんだ!『戦う前から負けている』なんて言って、水を差すな!」というような批判が少なからず寄せられたんですね。それを見て、なんだか太平洋戦争末期の日本軍みたいだな、と。
客観的に見れば、野党にとっては依然として厳しい戦いだった。ところが、そういうことを指摘するのは敗北主義、シニシズム冷笑主義)だ、という反応が少なくなくて、リベラルにとっての選挙戦というのは「ハルマゲドン(最終戦争)」みたいになっているなと。
「ここで負けると戦争になるんだ」「独裁政権が生まれて、日本は終わってしまうんだ」というようなことをずっと言い続けている。そのせいで無党派層から冷ややかな視線を浴びてきたわけですが、また今回も同じことをやってしまった。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53332

辻田:陰謀論とも繋がる話ですけど、今回の選挙では、先ほども挙げたような「この選挙で負けると戦争になる」とか「独裁政権がくる」というようなアルマゲドン的言説が、共産党系とはまた違う、一部のリベラル系文化人によって拡散されているなとも感じました。彼らのムーブメントに乗っかる人たちが、やはり私にはネット右翼のコピーに見える。
しかも、右と左だと右のほうがおそらくネット上でもリアルでも数が多いので、最終的にはネット左翼は消耗して負けると思うんですね。右には、権力も金もありますし。なので、こういった無意味なことはやめて、もっと長期的視点から戦略を立てないと、最終的にはリベラルそのものが消滅してしまうんじゃないかと危惧しているんです。
わかりやすい「安倍政権で即社会崩壊」とか「負ければ戦争が始まる」みたいな世界観をいい加減やめないと、ゆくゆくは自民党への対抗軸そのものが消滅してしまうし、それは日本全体のためにもならない。安倍首相の顔が影で黒くなっている写真を抜き出してきて、「この写真に安倍の腹黒さが表れている」とツイートするとか、そういうことで仲間内で盛り上がっても仕方がないでしょう。
もちろん、左右双方がそういう馬鹿馬鹿しいことをやっているわけですが、そういうことを止めない限り、自民党一強の状況は続くんだと思います。なので、リベラルは立憲民主党を雰囲気で支持するのではなくて、長い目で見て育てていく必要があるんじゃないかと。そうしないと、スキャンダル報道とかであっという間に雲散霧消しかねない。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53332

ところで私の観測範囲では「やる前から「自民党の大勝」という結果が見えていた選挙」というのは、概ね左派・リベラルの中でも共有されていたように感じましたが*1、まあそうでない人たちも確かにいたとは思います。

ただ「この選挙で負けると戦争になる」というのは、安倍政権自体が北朝鮮危機を煽っていましたから、そういう言説そのものは批判すべきでもないと思いますし、「独裁政権がくる」というのも、今回の解散の経緯を見れば安倍政権の独裁的性格を否定できるものでもないので、警鐘として許容できる範囲だとも思います。

そして「そのせいで無党派層から冷ややかな視線を浴びてきた」というのも多分違うと思います。

無党派層は基本的に空気を読むだけ

まあ、無党派層といっても、明確に支持政党はないもののはっきりとした政治思想傾向を持っている人もいますし、そうではなく雰囲気に従う人もいますので、その辺は分けて考える必要があります。
前者である明確な政治思想を持つ無党派層は、そもそも自身に近い政治傾向の支持層に過剰な意見や主張をしている人がいるという理由で自らの政治思想を変えることはあまり無いでしょうから、ここでは後者の雰囲気に流される無党派層が対象になります。
では、そういう雰囲気に流される無党派層が、「「この選挙で負けると戦争になる」とか「独裁政権がくる」というようなアルマゲドン的言説」に対して「冷ややかな視線」を浴びせたかというと、多分そういうこともなく、そもそもそういうことに興味を持っていないという方が適切だと思います。

何故かというと、雰囲気に流される無党派層が荒唐無稽で煽動的な言説を嫌うのであれば、右派が散々繰り返してきた言説(民主党政権時に、日本が終わるだの日米同盟が危機だだのありましたよね)に対しても同じ判断をしたはずなのに、そんな風に感じていなかったからです。

実際問題として辻田氏は、「左右双方がそういう馬鹿馬鹿しいことをやっているわけですが、そういうことを止めない限り、自民党一強の状況は続くんだと思います」と言っているわけですが、「左右双方がそういう馬鹿馬鹿しいことをやっている」のに、なぜ右の支持する自民党・安倍政権の一強は続くのか、その説明が出来ていませんね。

右のやる馬鹿馬鹿しいことには「冷ややかな視線」を浴びせない無党派層が、なぜ左のやる馬鹿馬鹿しいことには「冷ややかな視線」を浴びせるのか?

これを説明するには、そもそも無党派層が現状右の空気に染まっているだけで、左右ともにやっていることが馬鹿馬鹿しいかどうかなんて興味が無い、というのが一番しっくりきます。

“こういうことをやってると支持を失う”というリベラル評

「最終的にはリベラルそのものが消滅してしまうんじゃないかと危惧している」とか「わかりやすい「安倍政権で即社会崩壊」とか「負ければ戦争が始まる」みたいな世界観をいい加減やめないと、ゆくゆくは自民党への対抗軸そのものが消滅してしまう」とかいうのは、リベラル評としてよく見かけますが、正直、この論評はあまり信用できないと思っています。

自民党や安倍政権を支持しているネトウヨらは、在日陰謀論だとか左派は中国のスパイだとかの世界観を散々ばら撒きましたが、それで自民は支持を失ったかといえばそんなこともなく、むしろそれで支持を増やしていますよね。
なぜか、左派・リベラルに対して“だけ”やたらと潔癖さを求める論者が多く、支持低迷の理由を潔癖さが足りなかったかのように主張されるんですが、右派・ネトウヨの実態と自民党の隆盛を見るかぎり、その主張はかなり眉唾です。

在日陰謀論だとか左派は中国のスパイだとかの荒唐無稽な世界観が適切に淘汰されること無くネット上に蔓延し、右派政治勢力に利用され、そういうデマを土台にした空気が形成されたのが現状だと考える方が自然ではないですかね。
前記事で言ったネット右翼の第三世代は、その空気によって右傾化したネトウヨで、これは右の空気に染まった無党派層とかなりかぶります。

こういう状況を打破するには、ご丁寧で大人しい主張をしていても多分無駄で、必要なのは、在日陰謀論だとか左派は中国のスパイだとかの右派的世界観を、荒唐無稽だと笑える空気を作ることでしょう。
その意味では「わかりやすい「安倍政権で即社会崩壊」とか「負ければ戦争が始まる」みたいな世界観」といったものであっても、それが空気を作るうえで効果的であれば「リベラルそのものが消滅してしまう」どころか、状況の逆転にもつながる可能性があったりするわけですね。

ですので、「わかりやすい「安倍政権で即社会崩壊」とか「負ければ戦争が始まる」みたいな世界観」が空気を作るうえで効果的ではない、という批判はあってよいと思いますが、「アルマゲドン的言説」だから駄目だというのは違うんじゃないかな、と思っています。

そもそもの話として

左派・リベラルは別に上意下達の一貫した組織ではありませんので、荒唐無稽な主張を広める人だっています。その内容が誰かの人権を大きく損なうようなものであればともかく、「安倍政権で即社会崩壊」とか「負ければ戦争が始まる」とかまで、いちいち批判すべきだとはあまり思わないんですよね。

安倍政権が人権を損なうような立法や行政を進めていること自体は事実でそれは社会崩壊につながるわけですし、戦争しやすい法改正も行っていますから戦争のリスクを高めているという点でも間違ってはいませんよね。

手足の一本や肺や腎臓の一つを取り除いてもそりゃ死ぬとは限らないわけですが、だからと言って「殺す気か!」と言うのは言いすぎかといえばそんなことないわけで。

本当に社会崩壊するまで戦争が始まるまで黙ってろ、と言われても、そりゃ聞けないですよ。



*1:私自身も自民過半数は確定的で、自公で3分の2いくかどうか、という見立てでしたし。