「韓国が少女像を撤去」するなんて合意は存在しない

テレ朝でさえ、このレベル。

「“親北”では済まない」 日韓合意再交渉に応じず

テレビ朝日系(ANN) 5/10(水) 11:51配信
 日本は韓国との間に慰安婦問題を抱えています。日韓はおととし、韓国が少女像を撤去し、日本は元慰安婦への支援金を拠出することで合意しています。しかし、文在寅(ムン・ジェイン)氏はこれについて見直すとしています。また、北朝鮮を巡っては、日米韓で連携して圧力を強めてきましたが、文氏は北朝鮮との融和路線を取るとみられ、足並みがそろわなくなる懸念があります。
 (政治部・井上敦記者報告)
 日本政府としては、まずは対北朝鮮問題での連携が最優先だとの立場です。
 菅官房長官:「日米韓というのは、対北朝鮮問題を考えた時に協力体制は不可欠だと思っている」
 また、外務省幹部は「現状は親北朝鮮では済まない段階だ」と話していて、新大統領とも日本・韓国・アメリカの連携を確認したい考えです。官邸関係者によりますと、一両日中にも電話首脳会談を行うことを検討しているほか、大統領就任式には総理大臣経験者を派遣する方向で調整しています。一方で、懸案となりそうなのが慰安婦問題に関する合意です。政府関係者によりますと、仮に韓国側が見直しを求めてきたとしても「合意済みの国際約束という立場を譲るつもりはない」として交渉には応じない構えです。日本政府としては、まずは文氏の就任後の発言を聞いたうえで、韓国側の出方を見極めたい考えです。

https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170510-00000024-ann-pol

日本では安倍政権のみならず、メディアまでもが合意内容を改ざんして“韓国が少女像を撤去することを合意した”という情報が流布されていますが、実際の合意内容はこれです。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

撤去する約束でもなければ、撤去こそが解決だという合意でもありません。「適切な解決を求めて努力したが、撤去は不可能でした」でも韓国政府としては合意違反にはなりませんし、不履行にもなりません。極端な話、朴政権が既に「努力」したのだから、文政権としては「努力」は既に履行済みとして、それ以上の対応をしなくても構いません。

“裏合意”がある場合

日本国内で流布された“韓国政府は少女像撤去を日本政府に約束した”というウワサは、韓国では朴政権の“裏合意”として糾弾の対象とされました。日本では、日韓政府間合意に少女像撤去が明記されているかのように改ざんしたり、明記されていないことは認めつつ口頭での合意があったかのように主張したりすることが多いのですが、もし仮に、そのような少女像撤去の日韓両政府間の“裏合意”が存在した場合、どうなるでしょうか?

結論から言えば、そのような“裏合意”は無効になるだけですね。
韓国政府には少女像撤去という国民の財産権を侵害するような決定を単独で行う権限がなく、そのような約束を外国政府と交わしても韓国国内においては当然無効です。文政権が日韓交渉に関する調査を行い“裏合意”の事実が存在した場合は、朴政権糾弾の材料になり、日本に対してはそのような“裏合意”には効力が無いと宣言するだけです。
日本政府やそれに踊らされている日本社会は当然ながら“裏合意”であっても韓国政府(朴政権)が合意した以上は有効だと主張するでしょうが、日本政府が権限を持たない相手と交渉しただけの話にすぎません。
“裏合意”とはそれが存在したとしても朴政権が違法に合意した法的根拠を有さない契約に過ぎず、文政権がそれに拘束されることはありえません。日本政府が“裏合意”の履行を韓国に迫るのならば、それは韓国政府が違法に韓国国民の財産権を侵害するよう要求していることに他ならず、まず人道的とは到底いえませんね。
まあ、もちろん日本政府が韓国政府に対して“約束どおり、韓国国民を弾圧せよ!”と要求すること自体は勝手ですが。

日韓合意に対する日本政府の責務の履行状況

日本では、日本政府は既に日韓合意の義務を全て履行したかのように報じられていますが、言うまでも無く誤りですね。

義務その1・「心からおわびと反省の気持ちを表明」

安倍首相が元慰安婦らに対して表明すると約束した「心からおわびと反省の気持ち」ですが、現在までに安倍首相は朴大統領に電話で伝えただけで元慰安婦らに対して「心からおわびと反省の気持ちを表明」してはいません。これがまず不履行の状態ですね。

義務その2・財団に「日本政府の予算で資金を一括で拠出」

これについては、10億円を拠出しているので履行済みです。
なぜか日本では、日本側の義務がこれしかないように報じられていますけどね。

義務その3・「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行う」

財団の設立は韓国政府、資金の拠出は日本政府、事業の実施は日韓両政府、と明記されていますが、日本政府は特段「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」を行っていませんね。アジア女性基金からの支援業務も縮小・廃止させていますので、不履行と言われても反論しにくい状態です。

義務その4・「日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える」

現在日本政府は世界中のあちこちで、慰安婦は性奴隷ではないと主張し、韓国側を「非難・批判」していますので、合意違反としか言いようがありませんね。

日韓合意に対する韓国政府の責務の履行状況

一方の韓国政府の履行状況はどうかというと、実際は日本で報道されているような不履行状態ではありません。

義務その1・少女像の「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」

朴政権は、関連団体と協議してましたし、韓国政府としては日本政府の希望通り移転させる方向で「解決されるよう努力」してましたから、この件に関して不履行とは言えません。関連団体や世論が強く抵抗する状態では、撤去や移転は「可能な対応方向」ではありませんので、日本政府がそれを求めたところで実施不可能ですし、これをもって不履行とも言えません。

義務その2・「今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で,日本政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。」

「今般日本政府の表明した措置」のうち、安倍首相による元慰安婦らに対する「心からおわびと反省の気持ち」の表明や「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」がまず不履行で、「本問題について互いに非難・批判すること」を控えてもいませんので、「今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提」がまず成立していません。
ですので、韓国政府が本問題について日本政府を「非難・批判」しても合意不履行にはなりません。とはいえ現状、別に韓国政府が日本政府を「非難・批判」しているわけでもありませんが。

ウィーン条約違反とかありえない

少女像をウィーン条約違反とかいう主張もありますが、韓国憲法裁判所はウィーン条約の解釈として外国公館の安全と業務機能が脅迫を受けるような場合のみに表現の自由が制限されるという判断を2000年に下しています*1。ですので、少女像設置がウィーン条約違反という条約解釈は韓国国内においてなされません。
同様の取り扱いは、1988年に外国公使館から500フィート以内での侮辱的な表示を掲げることを金する法令を憲法違反として無効化したアメリカ連邦最高裁などでも見られます。
イギリスでも「公館業務が妨害されず、公館職員が恐怖を感じず、職員も訪問者も自由にアクセスできることが、必須の要件である」とし、罵倒や侮辱行動や実際の暴力が起きた場合にのみ、ウィーン条約上の外国公館の威厳が損なわれるという判断がされています。
米英の判例を踏まえても、少女像はウィーン条約違反とされることはありえませんね。

もちろん、日本政府がそれでも不満なら国際司法裁判所に提訴すれば、韓国はウィーン条約の紛争の義務的解決に関する選択議定書に署名・批准してますので、日本政府の意向だけで国際司法裁判所で審理することができます。
まあ、日本政府はそんなことやらないでしょうけどね。日本政府としては“国際司法裁判所で争えば勝てる!”という幻想を日本国内にばら撒きたいだけですから。