1965年日韓請求権協定第1条にある3億ドル無償供与は現金ではなく「日本国の生産物及び日本人の役務」での供与なので、ここに個人に対する賠償・補償が含まれるというのが文言上は無理のある解釈だと思う。

まあ、韓国政府も韓国大法院もこのような解釈を否定してはいませんので、個人的な感想ですけどね。

ただ、日本でよく見かけるこういう主張。

韓国が封印する不都合な史実「自国青年1700人を強制労働」

11/26(月) 7:00配信 NEWS ポストセブン
(略)
 この問題は、元慰安婦や元徴用工の賠償問題と構図がよく似ている。日本は韓国との間で結んだ日韓請求権協定で、韓国の国家予算の2倍以上に相当する無償3億ドル、有償2億ドルの援助金を供与するかわりに、慰安婦や徴用工に関する請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」と確認し合った。
 だが、朴正熙政権は援助金を個人への賠償には回さず、インフラ投資などに使ってしまい、賠償の原資がなくなってしまったのだ。韓国を取材するジャーナリストの前川惠司氏が言う。
「韓国政府がカネを使い込んでツケが回ってくるという構図は、慰安婦問題や徴用工問題と全く同じ。韓国は日本が支出した慰安婦財団を解散しましたが、金泳三政権の時には韓国政府が慰安婦にカネを出すと言っていたんです。今になって慰安婦や徴用工では日本の責任を追及するのに、開拓団の問題は放置するというのはダブルスタンダードが過ぎる。しかし、日本人がそう感じても、韓国では日本を攻撃する材料にならないこの手の問題は関心を持たれにくいんです」
(略)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181126-00000005-pseven-kr

「無償3億ドル、有償2億ドルの援助金を供与する」などというのがそもそも事実に反していて、請求権協定では「三億合衆国ドル(略)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を(略)無償で供与する」とか「二億合衆国ドル(略)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで(略)取極に従つて決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて行なう」とか書かれていて、「援助金を供与する」なんてことは一言も書いてありません。端的に言って週刊ポスト2018年12月7日号の内容は虚偽ですね。

日韓交渉の過程で色々言われていたにしても、結果として締結された請求権協定に書かれた「無償3億ドル、有償2億ドル」はそもそも「日本国の生産物及び日本人の役務」の形で供与されることが決まっており、個人への賠償という性質を持ちようが無いんですよね。

1965年日韓請求権協定

第一条
1 日本国は、大韓民国に対し、
(a)現在において千八十億円(一◯八、◯◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される三億合衆国ドル(三◯◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、この協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて無償で供与するものとする。各年における生産物及び役務の供与は、現在において百八億円(一◯、八◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される三千万合衆国ドル(三◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の額を限度とし、各年における供与がこの額に達しなかつたときは、その残額は、次年以降の供与額に加算されるものとする。ただし、各年の供与の限度額は、両締約国政府の合意により増額されることができる。
(b)現在において七百二十億円(七二、◯◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される二億合衆国ドル(二◯◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される取極に従つて決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務の大韓民国による調達に充てられるものをこの協定の効力発生の日から十年の期間にわたつて行なうものとする。この貸付けは、日本国の海外経済協力基金により行なわれるものとし、日本国政府は、同基金がこの貸付けを各年において均等に行ないうるために必要とする資金を確保することができるように、必要な措置を執るものとする。
 前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。

2 両締約国政府は、この条の規定の実施に関する事項について勧告を行なう権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者で構成される合同委員会を設置する。

3 両締約国政府は、この条の規定の実施のため、必要な取極を締結するものとする。

http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html

そもそも日本政府も賠償的性格については頑として認めませんでしたし、今からでも1965年の請求権協定で日本側が負担した支援は賠償的性格を有するものだと日本政府として宣言すれば反論としても成立しますけど、それすら認めていませんしねぇ。