2014年に韓国の強制連行被害者が韓国政府を提訴した話

「文在寅大統領は徴用工にお金を渡せ!」被害者団体の訴えが韓国社会で黙殺されている ルポ・徴用工裁判「その不都合な真実」赤石 晋一郎」の件。

韓国の強制連行被害者等が韓国政府に補償を求めて提訴した件です。原告1000人規模となったことで日本でも嘲笑交じりで報じられよく知られている事件です。
日本の右翼歴史修正主義者らは“ブーメラン”だと大喜びしていましたね。

ただ、同趣旨の訴訟は2014年11月にも提訴されており、2015年9月に請求棄却の判決が下っています*1
このときの提訴内容は2001年の東京地裁判決を根拠に日韓請求権協定で韓国政府に補償責任があるという主張でした。
ソウル中央地裁の判断は、韓国併合による植民地支配を合法とみなす前提で成立する東京地裁判決は大韓民国憲法の核心価値と衝突するため認められない、というもので、2018年11月30日の大法院判決の論理と軌を一にしています。というか、2018年11月30日大法院判決自体が2012年判決を踏まえていますから当たり前で、ソウル中央地裁も2012年判決を踏まえているといえます。
判決はさらに、日韓請求権協定で個人請求権が消滅したわけではないと指摘し原告には日本に対して直接損害賠償請求を提起する権利があるとしました。これも2012年判決を踏まえたもので、かつ、日本の各種判決と同様に、1965年日韓請求権協定で個人請求権は消滅しないという論理です。

さて、今回の訴訟でも主張されている“1965年日韓請求権協定で供与された3億ドルの無償援助等は本来、強制連行被害者等に渡すべきだった”という論理ですが、これも2014年の訴訟で出ています。

明石氏がこう書いている内容ですが、日本の歴史修正主義者が大好きな部分ですね。

韓国政府は補償資金をインフラ投資等に回した

「日本の外相は日韓基本条約に基づいて韓国政府が払うべきと話しています。だから日本政府には条約の交渉記録を明かして欲しいと文書を送っています。補償金額が明らかになれば、それに基づいて韓国政府は相応の金額を被害者や遺族に渡すべきだと要求することができる。このデモは2018年にスタートして、今回が57回目です。しかし未だに韓国政府からは正式回答がありません」
 日本と韓国政府は1965年、日韓基本条約を結んだ。そのときに協議した日韓請求権協定に基づき、日本政府は無償3億ドル、有償2億ドルの計5億ドル(当時のレートで約1800億円)を韓国政府に提供している。
 条文には〈日韓両国とその国民の財産、権利並びに請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認する〉とあり、植民地時代の賠償問題はこれで解決したとされた。韓国政府はこの補償資金をインフラ投資等に回し、“漢江の奇跡”と呼ばれる経済発展を遂げたことは周知の事実だ。

https://bunshun.jp/articles/-/12078

何度も言ってますけど*2、日韓請求権協定で供与された援助は現金でわたされたわけではなく、「等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務」*3で提供されており、協定では「供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」と明記されており、韓国政府が自由に使えるものでもありませんでした。日本の歴史修正主義者がその辺の事情を常に無視しますけどね。
で、2014年訴訟では「韓国政府が日韓請求権協定で受け取った資金を経済発展事業等に使用して被害者に支給しなかったのは違法である」と訴えられていますが、これに対してソウル中央地裁は「韓国政府が経済発展に資する事業に資金を使ったのは法律に基づくもので違法とみることは出来ない」という判断を下しています。
当の1965年請求権協定に「供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」と明記されている以上、違法だという判断が下るのはまず考えられないところですから、そこはやむをえないでしょう。

今回の訴訟でも同じロジックで攻めるのなら、高い確率で請求棄却になると思います。特に求めるのが賠償であるなら、2018年大法院判決に基づき日本企業に請求するのが筋ということになるでしょう。
但し、一点だけ望みうることがあります。

2014年訴訟の判決において、原告による「国が被害者のための法律を作成する義務を果たさなかった」という主張に対して、判決では「今後の予算確保などの諸条件が満たされて、国民的共感が形成された後に国会の立法を通じて解決すべき問題」だとして、不作為責任を認めませんでした。
その判決から4年近く経っていることを考慮して、かつ、2018年大法院判決などを経て国民的共感が形成されたと判断しうる事情があれば、国会での立法不作為の責任が認められる可能性はあるかもしれません。

実際、こういう動きもあるようですからね。

元徴用工救済へ新財団、韓国が検討 膠着状態の打開狙い

5/23(木) 21:59配信 朝日新聞デジタル
 韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決に絡み、韓国政府が、訴訟を続ける原告らについて、新たな財団を設けて経済的に救済し、法廷外で解決する案を検討していることが日韓関係筋の話でわかった。大法院の確定判決に被告企業が従うことを前提にするという。ただ、日本政府はこの案を受け入れない考えだ。
 関係筋によると、検討案は、韓日議員連盟文在寅(ムンジェイン)政権に示した提案がもとになっている。被告の日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業が、確定判決を得た原告32人に利子を含む約27億ウォン(約2億5千万円)を賠償するのが前提だ。係争中の他の原告926人や提訴に至っていない一部の元徴用工らに対しては、韓国政府が財団を設けて経済面で支援。裁判によらない解決を模索するという。
 一連の元徴用工訴訟では今後も、大法院判決に沿って日本企業を敗訴とする判決が続くことが想定されている。さらに、日本政府が外交協議による解決を困難と判断し、1965年の日韓請求権協定に基づく第三国を交えた仲裁手続きに入ることを韓国に要請するなど事態が深刻化している。
 文政権は今回の検討案で、係争中の原告らへの対応を分離することによって日本企業の負担を限定し、司法判断に従うよう促す狙いがあるとみられる。この方針には、原告側も一定の理解を示しているという。
朝日新聞社

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190523-00000103-asahi-pol

こういう全体像が見えない連中は“ブーメラン”だとはしゃぎ、自らの嫌韓差別の正当化に利用するんですよねぇ。



記事入力 : 2014/11/03 15:21

強制動員被害者 韓国政府に請求権資金の返還求め提訴へ

【ソウル聯合ニュース】日本による植民地時代に軍人や軍属などとして強制動員された韓国人被害者の遺族が韓国政府を相手取り、1965年の韓日請求権協定で日本から無償で受けた資金の返還を求める訴訟を起こす。
 軍人・軍属・労務動員被害者でつくるアジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会は3日、会見を開き、1人当たり1億ウォン(約1050万円)の被害補償金返還訴訟をソウル中央地裁に起こすと明らかにした。原告は軍人・軍属被害者の遺族3人。
 遺族会は「韓日請求権協定の調印で日本から援助を受けた資金8億ドルのうち、無償資金3億ドルは軍人・軍属被害者への補償金だった。その資金を基に経済を発展させただけに、国はこれを被害者に返すべきだ」と主張した。
 訴訟代理人の法務法人は「日本の裁判所は強制動員の違法性と請求権の効力を認めていない。協定を結び、日本の免責の口実を与えた政府は被害者に一部の資金を返すべき」と指摘した。
 日本政府は強制動員被害者の賠償要求に「請求権協定で問題は完全に終結した」との立場を示している。
 今回の原告の一部は1991年、強制動員について東京地裁に損害賠償請求訴訟を起こしたが、同地裁は2001年、訴えを棄却。請求権協定で、3億ドルを無償で韓国政府に供与しており、被害補償は韓国政府が責任を持つべきだとした。
聯合ニュース

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/11/03/2014110302459.html