「日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか」とか逆ギレする産経

産経のこの記事。
日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか(2018.11.25 01:00、ソウル 名村隆寛)

朝鮮人戦時強制動員に関する戦後補償問題に関して、外交的に最も優れた対応は、道義的に謝罪する態度を示しつつ、被害者・加害者らを含めた合意の下で補償のための基金を設立することですが、安倍政権はそこでまず失敗してるんですよね。
そうするためのチャンスはいくらでもあり、2012年に大法院が高裁に差し戻した時なんかはまさにそのタイミングでしたが、安倍政権は企業の判断に介入してまでして和解を妨害したわけです。
大法院が差し戻した以上、高裁がそれに沿った判決を出すのはほぼ確定的ですし、それをさらに大法院に持っていっても同じ結果になるのも目に見えていたわけで、無為無策のまま大法院判決に突っ込んだら敗訴するのは当たり前です。

まあ、安倍政権の外交無策なんて今さら言ってもしょうがないのですが、それはともかく自らの無策を棚に上げて喚いている産経のようなバカが多いのは、最近の日本では見慣れた光景とは言え何とも・・・。

そして、「日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか」なんて逆ギレするバカまで現れる始末。

「日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか」なんてことにはならない。

判決文の日本語訳*1です。

(1)まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。
 これに関する差戻し後原審の下記のような事実認定と判断は、記録上これを十分に首肯することができる。即ち、① 日本政府は日中戦争や太平洋戦争など不法な侵略戦争の遂行過程において基幹軍需事業体である日本の製鉄所に必要な労働力を確保するために長期的な計画をたてて組織的に労働力を動員し、核心的な基幹軍需事業体の地位にあった旧日本製鉄は鉄鋼統制会に主導的に参加するなど日本政府の上記のような労働力動員政策に積極的に協力して労働力を拡充した。② 原告らは、当時韓半島と韓国民らが日本の不法で暴圧的な支配を受けていた状況において、その後日本で従事することになる労働内容や環境についてよく理解できないまま日本政府と旧日本製鉄の上記のような組織的な欺罔により動員されたと見るのが妥当である。③ さらに、原告らは成年に至らない幼い年齢で家族と離別し、生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境において危険な労働に従事し、具体的な賃金額も知らないまま強制的に貯金をさせられ、日本政府の苛酷な戦時総動員体制のもとで外出が制限され、常時監視され、脱出が不可能であり、脱出の試みが発覚した場合には苛酷な殴打を受けることもあった。④ このような旧日本製鉄の原告らに対する行為は、当時の日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為に該当し、このような不法行為によって原告らが精神的苦痛を受けたことは経験則上明白である。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf

日本による韓国併合に対して、韓国側は一貫してその不法性を主張しています。ですが、それだけで損害賠償請求権が発生するという理屈にはなってません。不法な植民地支配の下で、日本政府が起こした不法な侵略戦争の遂行に直結した行為として戦時強制動員があり、日本政府と日本企業の組織的な欺罔によって動員を強いられ、「成年に至らない幼い年齢で家族と離別し、生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境において危険な労働に従事し、具体的な賃金額も知らないまま強制的に貯金をさせられ」たということで、損害賠償請求権が認められています。

この判決理由からすれば、不法な植民地支配下での行為であったとしても正当・合法な行政行為やそれに基づく企業活動についてまで損害賠償請求権が発生するとまでは解釈できないでしょうし、不当・不法な行政行為や企業活動であったとしても、それによって損害が発生していなければ当然に損害賠償請求権は発生しませんね。
植民地支配下における税金についても戦争継続のための特別税ならともかく、行政事務など正当な行政行為の費用として妥当な金額であれば、これに対する損害賠償が認められるとも考えにくいところで、少なくともこれらも当然に損害賠償請求権が発生するという解釈は大法院判決からは導き出せないでしょう。

すなわち、大法院判決は「日本統治時代がらみなら何でも請求できる」ような組み立てになっていないんですよね。

もう少し整理するとこうなります。
(1)不法な韓国併合による植民地支配 → 日本の国策決定に際し不法に支配されていた朝鮮人は責任を負わない
(2)不法な侵略戦争に直結する企業活動に強制動員 → 朝鮮人は日本国による不法行為に巻き込まれた
(3)「幼い年齢で家族と離別」「生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境」「危険な労働」「強制的に貯金」→ 反人道的な不法行為による被害を受けた

特に損害賠償請求が認められた最終的な要因は、「原告らは成年に至らない幼い年齢で家族と離別し、生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境において危険な労働に従事し、具体的な賃金額も知らないまま強制的に貯金をさせられ、日本政府の苛酷な戦時総動員体制のもとで外出が制限され、常時監視され、脱出が不可能であり、脱出の試みが発覚した場合には苛酷な殴打を受けることもあった」という被害事実にあります。
そこを無視して、「日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか」などと喚くのは常軌を逸しています。

他にも「幼い年齢で家族と離別」「生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境」「危険な労働」「強制的に貯金」という事案があるのならば、それは賠償の対象になるでしょうけどね。

1965年請求権協定で解決済みだという日本政府や日本社会の主張は要するに、「成年に至らない幼い年齢で家族と離別し、生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境において危険な労働に従事し、具体的な賃金額も知らないまま強制的に貯金をさせられ、日本政府の苛酷な戦時総動員体制のもとで外出が制限され、常時監視され、脱出が不可能であり、脱出の試みが発覚した場合には苛酷な殴打を受けることもあった」といった人権侵害行為の賠償責任をうまい事韓国政府に押し付けてやったぜ、という極めてゲスい主張に他ならず、それを恥じる感覚すら麻痺した社会であることを示してもいるわけです。

日本は恥の文化だそうですが*2、そんなもんどこにあるんですかね。
少なくとも安倍政権下の日本では見たこと無いんですが。



日本統治時代がらみなら何でも請求できるのか

2018.11.25 01:00|国際|朝鮮半島
【ソウルから 倭人の眼】
 1965年の日韓請求権協定により解決済みの請求権問題を蒸し返し、「徴用工訴訟」で新日鉄住金に賠償を命じた韓国最高裁の確定判決に続き、韓国政府は2015年の慰安婦問題をめぐる日韓合意を無視し、合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」の解散と事業の終了を予定通り発表した。一方的で勝手な解釈に基づき、日本が相手なら国際的な協定や合意を無視しても平然としている。韓国との関係は、もはや軌道修正が困難な所に来ている。
(ソウル 名村隆寛)

■反則許可のお墨付き
 日韓関係の根幹を揺るがせている韓国最高裁の判決の問題点は「日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配」。つまり日本の朝鮮半島統治自体に不法性があるのだという。この点を原告勝訴の理由にし、法により救済したわけだ。
 その解釈に従えば、日本統治時代のことなら、何でも持ち出し、日本の責任を法的に断罪できることになる。日本企業だけでなく、日本政府も「不法行為」を犯したとして訴訟の対象になり得る。国際協定を無視した“反則技”も可能ということである。
 しかも、今回勝訴した原告は「徴用」や「強制動員」ではなく、「募集」に応じて労働に従事した者だ。現在の韓国流の勝手な解釈と価値観による、いい加減な判決が確定してしまった。日本統治時代が絡めば何でも請求できる-。最高裁は判決でそのお墨付きを、いとも簡単に韓国国民に与えてしまった。
 11月29日には三菱重工業を相手取った訴訟の差し戻し審の判決が韓国最高裁で言い渡される。同様の判決が出るのは間違いなく、下級審での似たような判決や、同様の提訴の続出も必至とみられる。

■歯止め効かず外交放棄?
 日本政府の再三の抗議や反発にも関わらず、韓国政府は「司法府の判断を尊重する」(李洛淵=イ・ナギョン=首相や康京和=カン・ギョンファ=外相)と言い続けている。
 最高裁の判決を尊重して、53年前に日韓が合意した請求権協定を無視し、日本政府の不法性を韓国政府までが認めるとなれば、まさに外交の放棄である。韓国政府としては、「未来志向の関係」を強調し、どうにか日本の反発をくい止めたいという狙いがにじんだ、説得じみた声明を出すのが精いっぱいだった。
 判決が韓国国内で歓迎される一方で、韓国政府からは一方で焦燥感もうかがえる。判決が事実上、外交問題化しており、「国際協定を破る韓国」「またも約束を守らない韓国」といったイメージが国際社会へ広がりかねない。さらに、財界などからは、日本の大企業の敗訴による、日本企業の韓国離れや、危機が迫っている韓国経済への悪影響を懸念する声が聞かれる。
 それでも韓国政府は日本の反発を増幅させるような行動に出た。元慰安婦を支援する財団の解散発表だ。

■日韓関係より国民感情
 財団の解散については、陳善美(チン・ソンミ)女性家族相が10月末に「11月初旬には発表できる」と語っており、発表を待つだけだった。そこに「徴用工訴訟」の判決に日本の政府や世論が反発したことで、韓国政府は発表に二の足を踏んでいた。
 結局、21日に財団解散は発表されたが、発表に際しては記者会見さえ開かれず。韓国政府なりのせめてもの対日配慮なのか、バツの悪さをうかがわせた。
 「国際社会の一員としての責任ある対応」を安倍晋三首相が韓国政府に求めるなど、日韓合意をほごにされた日本政府の反発は予期されていた。相当の覚悟ができていたのか、単に後戻りできないのか。韓国政府は日本との関係よりも、とにかく自国の「国民感情」を選んだ。
 慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意に至る過程で、協議が難航する中、韓国の要求を聞き入れ、さんざん付き合わされた日本政府としてはたまったものではない。

■勝手な思い込みと解釈
 慰安婦と「徴用工」の問題で、日本は韓国にゴールポストをまたしても動かされてしまった。それなのに、韓国では「日本こそ(政治家が前言を翻すなど)ゴールポストを動かし続けた」という主張が、徴用工裁判にかかわる団体の間ではまかり通っている。
 対日関係に頭を痛めている韓国政府はともかく、日韓関係悪化に対する深刻さは韓国社会からは感じられない。韓国側の事情による一連の蒸し返しに日本が強く懸念しているのに「韓日関係を再構築する好機だ」という識者までいる。
 日本政府の反発を「節制のない言葉で過剰に反応している」(韓国外務省)と逆に批判し、その原因がどこにあるのか、分かっているのかを疑わせる声明まで出た。日韓関係の基盤が揺らいでいること自体まで忘れたかのような雰囲気だ。
 また、元慰安婦の財団解散の発表を受け、韓国政府当局者は「2015年の合意は慰安婦問題の真の解決になりえない。合意の根本的な趣旨と精神は、被害者の方々の名誉と尊厳の回復、癒やしにあり、日本政府が誠意ある姿勢でこのために努力することを期待する」と語った。日本にさらなる要求を突きつけた発言で、「開き直り」そのものである。
 韓国がしばしば見せる「嫌がらせ」と同レベルのことを、日本がやっていると思い込んでいるきらいもある。いつものような困った勝手な解釈が、ここでも独り歩きしている。その解釈が正当化され、日本との問題は信じられない方向に向かおうとしている。

■今回の火は消せない
 慰安婦問題をめぐる日韓合意の精神に反し、韓国政府は16年末に釜山の日本総領事館前への慰安婦像設置を左派系市民団体に許し、その結果、日本との関係が悪化した。
韓国は今、あの時と似たような状況だ。自分で火をつけて、火消しの必要に迫られる。韓国政府は今回も、見慣れた「マッチポンプ」の繰り返しに頭をひねっている。ただ、今回は火を消すのが大変だ。何しろ、韓国が起こした火が大き過ぎる。しかも連発させてしまった。
 「徴用工」に限れば、問題の打開は、韓国政府が表明する立場と、その後の対応次第である。ただし、期待は禁物だ。韓国への期待がむなしいものに終わるであろうことを、日本は何度も味わってきた。今回の最高裁判決や財団解散で、またもや日本は裏切られ、そのことが再確認された。
 韓国は国同士の約束を守らない国で、約束をしても無駄な相手であることを、またしても自ら示した。二国間の合意や協定の順守は、韓国の国民感情の前にはもはや通じない。「異論」を許そうとはしない。
 日本が隙を見せなくても、身勝手な価値観で無理に隙を作り、そこを突いてくる。最高裁判決と慰安婦財団解散は、新たに韓国が作り出した隙そのものだ。韓国との付き合い方は限界に来ており、関係を元に戻すのは難しい。

https://www.sankei.com/world/news/181125/wor1811250001-n1.html

*1:張界満氏、市場淳子氏、山本晴太氏らによる

*2:https://kotobank.jp/word/%E6%81%A5%E3%81%AE%E6%96%87%E5%8C%96-114202