韓国では民法で面会交流権を認めているのに、日本では憲法で保障された権利ではないという司法判断が出た件

この件。
「面会交流」立法不作為訴訟 原告の請求棄却 東京地裁(毎日新聞2019年11月22日 19時42分(最終更新 11月22日 19時42分))

まあ、地裁レベルで面会交流を憲法上保障された権利と認めるのは難しいでしょうから、判決自体は驚くようなものでもありません。「前沢達朗裁判長は「別居している親の面会交流権が憲法上保障された権利であるということはできない」などと述べた」と記事にありますが、裁判官が明言したという意味では少し驚きではありますが。

実際問題として、これまで裁判所が面会交流を認めなかった事例は軽く数十万件は超えるでしょうから、今さら面会交流を憲法上保障された権利と認めたら司法は大混乱でしょうからね。
とは言え、高裁判例http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=21639:title-昭和30年(ラ)第198号 親権者変更請求抗告事件」では“血縁関係に基く親の未成年の子を養育するという人類の本能的生活関係”という表現が使われていて、面会交流を子の監護の一内容とみなした最高裁判例平成12年(許)第5号  面接交渉の審判に対する原審判変更決定に対する許可抗告事件」を踏まえ、養育と監護は同一の意味を有するとすると、面会交流もまた“血縁関係に基く親の未成年の子を養育するという人類の本能的生活関係”の一内容とも解釈でき、そうであるなら、面会交流権は憲法13条にいう幸福追求権の一つとしてみなされるべきと思います。

なお、面会交流を認めない裁判所の決定に対して憲法13条に違反すると主張した裁判は過去にもあって、その時の最高裁は面会交流の権利性に対する憲法判断を回避し、民法766条の解釈適用の誤りをいうものにすぎず抗告の理由にあたらないとして却下しています(昭和58年(ク)第103号 面接交渉申立棄却審判に対する抗告棄却の決定に対する抗告 昭和59年7月6日)。この判例、高裁判決がどうだったのかがよくわからないので、「解釈適用の誤りをいうものにすぎず」という最高裁の判断自体、ホントかよ?と疑いたくなるところではありますが。
ともあれ、1984年の最高裁は面会交流の権利性に関する憲法判断を回避し、その後2011年に民法改正で766条が変わり「面会交流」という文言が入りました。
木村草太氏は面会交流権が認められていると主張していますが、民法上に権利として明記されてはいません。「面会交流」という文言が入っただけで、それが権利なのかどうかは曖昧なままです。

第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。


それに対して韓国民法の場合はこうなっています。

제837조의2(면접교섭권) ① 자(子)를 직접 양육하지 아니하는 부모의 일방과 자(子)는 상호 면접교섭할 수 있는 권리를 가진다.
②가정법원은 자의 복리를 위하여 필요한 때에는 당사자의 청구 또는 직권에 의하여 면접교섭을 제한하거나 배제할 수 있다.

第 837 条の 2(面会交流権) ①子を直接養育しない父母の一方と子は、互いに面会交流をする権利を有する。
②家庭法院は、子の福利のために必要なときは、当事者の請求により又は職権で、面会交流を制限し又排除することができる。
(※上記日本語訳は、下記で引用している金亮完氏の論文から)

http://www.law.go.kr/법령/민법/(11300,20120210)

韓国では非親権者(別居親)と子どもは共に面会交流を権利を有すると民法上にはっきりと明記されているため、親権者(同居親)が面会交流を妨害すると非親権者(別居親)と子どもの権利を侵害したとみなされ、親権者や養育権者が変更されることもあるようです。
もちろん、非親権者(別居親)が暴力を振るうなどの理由があって面会交流を避けたい場合は、家裁が面会交流を制限することができるようになっています。
韓国民法が面会交流を権利として明記したのは2007年ですが、日本では766条を改正した2011年の民法改正においても権利として明記することができず「面会交流」という文言が入るに留まりました。

冒頭の地裁判決は、面会交流が憲法上保障された権利ではないとしたわけですが、では憲法以外の法律上の権利であるかというと、そのような明文規定が存在しないため、やはり面会交流の権利があるとは言えないという判断になると思われます。
仮に現行民法が面会交流を権利として認めていると解釈するのであれば、その権利はどの時点から発生するのか、どのような要件を満たせば制限されるのか、など複雑な問題がいろいろ発生しそうに思えます。面会交流を認めない司法判断によって権利が侵害されたと訴えたとしても、ありそうな裁判所的な見解としては、“面会交流を実施するという合意がある場合は同居親にその合意を誠実に履行する義務があり、合意が無い場合は調停を申し立てることが出来るので現在の制度が別居親の権利を侵害しているとは言えない”といった感じでしょうかね。

ところで、離婚後共同親権のあり方として、欧米では原則共同親権という運用が多いようですが、韓国の場合は原則単独親権で父母双方とも養育の意欲・能力がある場合には共同親権を認めるといった運用のようです。日本民法は韓国民法と非常に似ていますから、日本が実際に離婚後共同親権を導入するなら韓国型の共同親権の方がやりやすいでしょう。
ですが、その場合、共同親権を認めるだけで非協力的な同居親の拒否権行使が温存されると、別居親と子どもが引き離されるという状況はほとんど改善されないと思われます。何故なら、現行制度下で面会交流を拒否する同居親は、間違いなく合意に基づく共同親権も拒否すると思われるからです。

ですから、もし韓国型の養育の意欲・能力がある双方の親の合意に基づく共同親権という制度にするのであれば、同時に面会交流は別居親と子どもの権利であると明記する必要が生じるでしょうね。

ちなみに韓国の場合だと双方の親に養育の意欲・能力がある場合、一方が共同親権に否定的であっても他方を誹謗するやり方で共同養育を拒否すると、親権者・養育権者として不適切とみなされ、逆に自身が非親権者となる単独親権になる可能性があります。そのため、DVや虐待など明確な理由がない限り、子どもと引き離されたくなければ相手側に対しても友好的な態度をとるインセンティブが働くようになっています。
継続性の原則を漫然と採用する日本の場合は全く逆で、単独親権者になりたければ子どもを確保した上で相手親を徹底的に誹謗する方向にインセンティブが働くようになっています。要するに日本の現行制度は、子どもの両親の仲がより悪くなるように仕向ける仕組みになっているわけで、そういう観点でも改善すべきなのは間違いないんですよね。



(5)面会交流権
第 837 条の 2(面会交流権) ①子を直接養育しない父母の一方と子は、互いに面会交流をする権利を有する。<本項改正 2007.12.21>
②家庭法院は、子の福利のために必要なときは、当事者の請求により又は職権で、面会交流を制限し又排除することができる。<本項改正 2005.3.31>
[本条新設 1990.1.13]

韓国において、面会交流権とは、「親権者または養育者でないために現に子を保護・養育しない父または母が、その子と直裁に面会・書信の交換または接触する権利」であると定義されている。
第 837 条の 2 が明文化されたのは、1990 年の民法改正のときであり、その後、2007 年の民法改正により、面会交流権が非養育親の権利であるとともに子の権利であることが明文化された。しかしながら、子が面会交流権を行使するための手続は規定されておらず(家訴訟規則第 99 条第 1 項参照)、また、条文上、第三者の面会交流権も認められていないが、当事者間の合意がある場合には、子と祖父母との面会交流を認めた事例がある。
また、居所の変更により、面会交流の実施が実質的に制限され、または排除される可能性がある。これについては、子の居所変更の場合には、単に移動距離の増加あるいは面会交流が不便になったという理由だけで面会交流の変更を認めることはできず、子と非養育親との関係の継続が必要であるが、遠距離化により従来の面会交流事項を守ることができなくなったときに限って、その変更を認めるべきであるとする見解がある 。
面会交流の履行確保のための手段として、履行命令および 1000 万ウォン以下の過料が用意されている。ただし、同法第 68 条による拘留については、監護親の拘留により子の養育の空白が発生することから、面会交流の違反については同条の適用がないと解されている。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000487640.pdf
事件番号  昭和30(ラ)198
事件名  親権者変更請求抗告事件
裁判年月日  昭和30年9月6日
裁判所名・部  東京高等裁判所  第四民事部
高裁判例集登載巻・号・頁  第8巻7号467頁
判示事項  親権者の変更を相当とする一事例
裁判要旨  離婚にあたつて未成年の子の親権者となつた父が未だ曾つて子を養育したことがなく、子を第三者夫婦に養育せしめ、将来子と第三者夫婦とが養子縁組をなすことを期待しているのに反し、母はみずから子の養育をなすことを切望し、かつ、子の監護教育の能力を十分に有するときは、子の利益のため、親権者を母に変更するのが相当である。

 <要旨>元来親権は、血縁関係(養親子にあつては血縁関係が擬制されている)に基く親の未成年の子を養育するという人類の本能的生活関係を社会規範として承認し、これを法律関係として保護することを本質とするものである。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/639/021639_hanrei.pdf
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=21639