「治験なんて絶対するもんじゃない。」に関する雑感

治験なんて絶対するもんじゃない。の件。
これ実際は連絡してきたスタッフの対応が悪かった程度の話で、増田が尾ひれをつけた感が強い気がします。

治験に関して事実部分に相当するのは以下の部分だけです。

どうやら、自分の試験結果におかしなところがあったようだった。(自分は医学的なことは詳しくわからないけれど、薬の成分が血液から検出されなかったようだった。)

https://anond.hatelabo.jp/20170729065340

これ以外に具体的な健康被害があったとかの記載がありませんよね。
実薬群の被験者から「薬の成分が血液から検出されなかった」のだとすれば可能性は四つしかありません。

1.間違ってプラセボが投与された
2.被験者が投与された実薬を飲まなかった・吐き出した
3.血液検体を取り違えた
4.治験で設定した薬剤量が少なく血液から検出できなかった

スタッフの対応を「結論ありきの治験」とか非難している人が結構いますけど、薬の効果や安全性についての話じゃないのでそういう話じゃありません。出るはずの効果が出ていないとかでないはずの副作用が出ているとか、そういう話じゃありませんよね?

薬って、飲んで消化管から血液内に成分が吸収されて効果を示すわけですから、実薬飲んで血液に検出できなかったとすれば上の四つの可能性しかなく、それを確認するのは当たり前の話です。問題があるとすれば、連絡してきたスタッフが「2」だと決めつけて増田を追及した点に問題があったくらいでしょう。

当然、治験実施側としては「1」「3」も調べてるはずです。ただ、いずれもめったにあることじゃありません。だから実施側が「2」の可能性を強く疑うのはわからなくはありません。
治験として問題になるのは「4」の可能性です。初めてヒトに投与するにあたって安全性に配慮するあまり、設定する投与量を低くしすぎて毒にも薬にもならない成分量になったパターンですね。これは試験が無駄になってしまうので、治験実施側にしたら頭の痛い問題です。ただ、被験者側としては健康被害が出るわけではないので大してデメリットは生じません。
現場のスタッフとしては「2」を疑うのは当然で、増田に確認するのも当たり前、もし意図的に不正をするような被験者なら強く追及しないと正直に答えないだろうと考えるのもわかります。ただ、もう少し慎重にやるべきだったでしょうね。
「すごく威圧的な口調」とか「不正をしたことを認めないと25万円の謝礼を支払わないぞ、と脅しのようなこと」とかは実際の発言内容がどうだったかはわかりませんが、結果として増田を不快にさせたのなら対応としては失敗だったと言わざるを得ません。

増田の内容で気になるところ

「私は、25万円は期日通りもらえるのか、私の健康は大丈夫なのかという連絡をしたが返信はなし。試験結果がおかしいのだから、きちんと私に検査をさせるべきではないのかとも伝えたければ返信はない。」

これ、自覚症状として何等かの有害事象が出ているわけではないんですよね。
「薬の成分が血液から検出されなかった」というのは健康上影響のある話ではありませんから、「きちんと私に検査をさせるべき」というのもそりゃないですよね。
ですから、増田のこの要求はおかしいです。

あと普通、治験で健康被害が生じた場合は治験依頼者の負担で治療費などの補償が行われる制度があり、同意説明時に参加者に説明されているはずです。もちろん、健康被害が治験と明らかに関係ない場合や治験参加者の故意や重大な過失で生じた場合は別でしょうけど。

「治験に参加をすると、治験倫理審査委員という機関を紹介されて、そちらが施設と参加者との間のトラブルを仲裁するということだったけれど、相談をしても何もしてくれない。」

治験倫理審査委員会は普通、施設と参加者との間のトラブルを仲裁するような役割を負ってません。基本的に治験計画の倫理性、安全性、妥当性を審査し、治験開始後はそれが計画通りに行われているかを定期的にモニタリングすることが仕事で、実態としては開始前の計画の審査がほとんどのようです*1

治験参加者が何かあって相談する場合は、基本的には治験コーディネーターか治験責任医師か治験担当医師が窓口になります。
相談する先を間違っているように思えます。

「今回の治験の主催である製薬会社も社名を伏せられていて、製薬会社を教えてくれと問い合わせても教えてくれない。」

これも企業治験で製薬会社の社名を治験参加者に隠すこともほとんど考えれません。
同意説明文書には、ほぼ確実に書かれているはずで、最低限「予測される治験薬による被験者の心身の健康に対する利益(当該利益が見込まれない場合はその旨)及び予測される被験者に対する不利益」が記載されます(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令51条1項5号)ので、同意説明文書を見れば、どの製薬会社なのか調べればすぐわかります。

まあ、文書とか全て破棄して何の治験だったか全く覚えていなくて、問い合わせたら教えてくれなかったということかもしれませんが、治験倫理審査委員会には相談したようですので、その辺りがよくわかりません。病院の治験倫理審査委員会は連絡先を公開していますけど、何の治験かもわからない状態で問い合わせられても対応のしようがないでしょうね。

「労基署、消費者相談センター、厚生労働省に相談をしたけれど、治験は通常の労働とは違うということもあってきちんとした対応はしてくれない。どこも、クリニカルリサーチ東京病院と話し合ってくれというばかり。」

増田の記載を読む限り、そもそも健康被害が出てないのですからそれは病院と話してとしか答えようがないでしょうね。
増田が何を望んでいるのかもよくわかりません。
自分の「試験の結果がおかしい」ということを懸念しているようですが、何がどうおかしいのかについては「(自分は医学的なことは詳しくわからないけれど、薬の成分が血液から検出されなかったようだった。)」としか書かれていません。薬の成分が血液から検出されなかっただけなら、健康上は何の問題もありませんよね。

「試験の結果がおかしいのであれば、自分の健康をきちんと確認してちゃんとフォローをするのが筋だ」と言ってますが、検査値が有害なレベルの異常値を示したのならともかく、「薬の成分が血液から検出されなかった」というのはそうではありませんし、具合が悪いなどの自覚症状も無いのならフォローしないのも当然ではないですかね。

「私の健康は大丈夫なのかという連絡をしたが返信はなし。」

医師以外のスタッフに連絡しても、治験参加者の健康について大丈夫なんて回答はできませんし、医師だってメールで回答はできないでしょう。
どうしても自分の健康が心配なら、病院に行って検査してもらうべきとしか言いようがありません。


というわけで、病院スタッフの対応も悪かったのだとは思うものの、増田の対応もどうかと思うというのが正直なところです。治験終って1週間しか経ってなく負担軽減費とかの振り込みもまだなのに、同意説明文書とかの文書類を全部亡くしたとしか思えない対応とか、具体的な病院名を出してるあたりとかはどうかと思います。

ちなみに

私も治験ではないですが、健康食品の臨床研究には参加したことがあり、結果がおかしいと言われたことがあります。
プラセボか実薬かは教えてくれませんでしたが、逆の動きをしてると言われました。まあ所詮、健康食品なので「あ、そーすか」で終わらせましたけど。

朝鮮学校無償化除外に関する大阪地裁判決に関する雑感

朝鮮学校を無償化対象外にした国の処分を取り消す判決(7月28日 17時55分)」に関する件。
NHK記事についたブクマにあまりにも理解できてなさそうなのが多かったので。

7月19日の広島地裁判決と真逆の判決が出た大阪地裁ですが、法の趣旨からいえば朝鮮学校を除外した国の処分取り消しを命じた大阪地裁判決の方が妥当です。

元々はこの法律です。

高等学校等就学支援金の支給に関する法律

(平成二十二年三月三十一日法律第十八号)
(目的)
第一条  この法律は、高等学校等の生徒等がその授業料に充てるために高等学校等就学支援金の支給を受けることができることとすることにより、高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与することを目的とする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22HO018.html

高校無償化法第1条にある通り「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与すること」が目的です。ですから、「外交的、政治的意見に基づいて対象から排除」すれば、それは法の趣旨に反することになり論外で、国側も裁判ではそのような主張を避けています。

では、そもそも国はどういう根拠で朝鮮学校を無償化対象から除外したのでしょうか。

「高等学校等」の定義

高校無償化法第2条に定義があります。

(定義)
第二条  この法律において「高等学校等」とは、次に掲げるものをいう。
一  高等学校(専攻科及び別科を除く。以下同じ。)
二  中等教育学校の後期課程(専攻科及び別科を除く。次条第三項及び第五条第三項において同じ。)
三  特別支援学校の高等部
四  高等専門学校(第一学年から第三学年までに限る。)
五  専修学校及び各種学校(これらのうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限り、学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)第一条 に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うもののうち当該教育を行うにつき同法 以外の法律に特別の規定があるものであって、高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの(第四条及び第六条第一項において「特定教育施設」という。)を含む。)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22HO018.html

この五号「専修学校及び各種学校」の定義を省令第1条第二号で定めていました。

(新旧対照表から改正前の内容)

高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則

(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)
第一条  高等学校等就学支援金の支給に関する法律 (平成二十二年法律第十八号。以下「法」という。)第二条第五号 に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 専修学校の高等課程
二 各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
 イ 高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
 ロ イに掲げるもののほか、その教育活動等について、文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって、文部科学大臣が指定したもの
 ハ イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000617&Mode=2

省令第1条第2号イに相当するのが「外国人学校」、同ロに相当するのが文部科学大臣が指定する団体の認定を受けている「インターナショナルスクール」、同ハに相当するのがロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」、「朝鮮学校」です*1

ここで省令第1条第2号ハで求められている要件は「高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるもの」であって、その詳細は、2010年11月5月の文部科学大臣決定「公立高等学校に係る授業料 の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第 1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程」に定められています。
第2章で指定の基準を定めており、第2条から第13条まであります。
第2条から第11条まで(修業年限、授業時数、同時に授業を行う生徒、授業科目、教員数、教員の資格、校地、校舎、校舎面積、設備)は物理的な要件で「外交的、政治的意見」が入り込む余地はありません。
第12条(情報の提供)は学校運営に関する情報提供を他の無償化対象の学校と同様に行うことを求める内容です。
第13条は適正な学校運営に関する条項ですが、その具体的な内容は以下の通りです。

(適正な学校運営)
第 13条 前条に規定するもののほか、指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/11/__icsFiles/afieldfile/2010/11/10/1299000_01_1.pdf

支援金を授業料に充当する義務を課している条文ですが、もちろん無償化対象となった後に、支援金を授業料以外に流用していることが発覚した場合に無償化対象から除外できる根拠条文であって、最初から無償化対象から除外することを正当化できる条文ではありませんね。

というわけで、高校無償化法に従う限り朝鮮学校を無償化対象から除外することは出来ないのはわかりきった話です。
菅政権は2010年11月に朝鮮学校が無償化対象とするかの審査プロセスを停止し、朝鮮学校に対する差別を容認しましたが除外を決定することまではできず、2011年8月には審査手続き再開を命じています*2

朝鮮学校に対する差別政策を引き継いだ第二次安倍政権

2012年12月に政権を奪取した安倍政権は、組閣後2回目の閣議で朝鮮学校に対する差別政策を固定することを決定しました。

朝鮮学校は無償化の対象外に 文科相表明

2012/12/28付
 下村博文文部科学相は28日の閣議後の記者会見で、高校授業料無償化制度を朝鮮学校に適用しない方針を正式に表明した。「拉致問題の進展がないことや朝鮮総連と密接な関係があり、現時点で無償化を適用することは国民の理解を得られない」と説明した。
 その上で「都道府県知事の認可を受け学校教育法1条に定める日本の高校となるか、北朝鮮との国交が回復すれば適用の対象になる」と述べた。
 無償化の対象を定めた文部科学省令のうち「外国人学校が高校に類する課程を持つと文科相が認めた場合に適用する」とした規定は削除する。28日から来月26日まで一般から意見を公募した上で、2月上旬にも朝鮮学校側に不指定を伝える。
 朝鮮学校は10校が早期の適用を求めていた。適用外とした場合、民事訴訟に発展するとの見方も出ている。
 現時点で無償化を適用している外国人学校39校については、これまで通り無償化対象とする。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDE28001_Y2A221C1EB1000/

そして2013年2月に朝鮮学校を無償化対象とするための根拠条文であった省令第1条第二号ハを下村文科相が削除します*3

(新旧対照表から改正で削除された内容)

高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則

(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)
第一条  高等学校等就学支援金の支給に関する法律 (平成二十二年法律第十八号。以下「法」という。)第二条第五号 に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
二 各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
 ハ イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000617&Mode=2

ところが、そうすると朝鮮学校以外のハに相当する学校であるロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」も無償化対象除外となってしまいます。安倍政権は朝鮮学校のみを狙い撃ちにして差別することが目的ですから、それを避けるために次のような附則をつけました。

附 則 (平成二五年二月二〇日文部科学省令第三号)

(施行期日)
1  この省令は、公布の日から施行する。
(経過措置)
2  この省令の施行の際現にこの省令による改正前の公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第二号ハの規定による指定を受けている各種学校については、同令の規定は、当分の間、なおその効力を有する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22F20001000013.html

つまり、改正前の省令第1条第二号ハに相当して無償化対象となっていたロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」は、この省令改正した2013年2月20日時点で現に指定を受けていたため、省令第1条第二号ハが削除されても「当分の間、なおその効力を有する」という扱いで無償化対象とされたわけです。
むろん、2013年2月20日時点でなお審査未了であった朝鮮学校には「その効力」は生じません。

まさに朝鮮学校のみを狙い撃ちにして差別する安倍政権らしい卑怯なやり方です。

しかし、このように朝鮮学校のみを狙い撃ちにした理由として、下村大臣が「拉致問題の進展がないことや朝鮮総連と密接な関係が」あることを挙げ、「北朝鮮との国交が回復すれば適用の対象になる」と述べたことで、この2013年2月20日の省令改正自体が外交的・政治的判断による学校選定を行うものであることは明白となり、その結果上位法の目的に抵触することになりました。

「教育の機会均等に寄与することを目的とする」高校無償化法の施行規則で、外交的・政治的判断で教育の機会を不均等にする措置を認めては逸脱でしかありません。

まさに大阪地裁判決のいう「教育の機会均等の確保とは無関係な外交的、政治的判断に基づいて省令を制定しており、無償化に関する法律の趣旨を逸脱するもので違法で無効だ」がド正論ということになります。

「裁判で、国は「外交的な理由で授業料の実質無償化から外したわけではなく、判断に誤りはない」と反論していました」*4とありますが、なら一体どういう理由で2013年2月20日の省令改正を行ったのか、その辺の裁判での国側の主張には興味があります。


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いい加減“第三極”詐欺に騙されるのはやめるべきでは?

元祖としては民社党あたりでしょうが、みんなの党や維新の会あたりがイメージとしても機能としてもわかりやすいと思います。

自民党でも民主党でもない第三の選択”的に出てきたわけですが、みんなの党は既に消滅し、維新の会も支持率は民進党以下に低迷しています。

次は“国民ファースト”という小池・維新+民進党分裂組の第三極ですかね。

いい加減にしてほしいものです。

第三極がどのような役割を果たしたか

第三極が選挙で果たしてきた役割と言えば、自民批判票を分散させて、自民党候補の当選を増やし、リベラル系の当選を妨害してきただけです。
簡単に言えば、自民党のサポートですね。

昔は、社会党共産党が自民批判票を取り合って自民に漁夫の利を与えた、的な指摘もありましたけどね。共産党も含めた野党共闘路線でそれを妨害しているのが維新ですから、展開としてはわかりやすいはずです。

2000年の衆院選で事実上、自民党民主党の二大政党の対決構造が出来ました。これが2009年の政権交代まで続きます。しかし、この政権交代選挙で登場するみんなの党が2010年の参院選で11議席を獲得し、同時に民主党政権参院過半数を失います。
2012年の衆院選民主党は惨敗して、政権は再び自民党に戻りますが、この時の選挙でみんなの党に代わる“第三極”が現れます。それが維新です。2012年衆院選民主党が57議席となったのに対して、維新は54議席を獲得(みんなは18議席)しています。
つづく2013年の参院選でも民主党は惨敗し59議席に落ち込む一方、維新が9議席、みんなが18議席を獲得しています。
このあたりから反自民票が維新やみんなといった“第三極”に流れ、民主党が苦しめられていることが明確になります。民主党は野党時代だった2000年から2005年の選挙で、衆院100議席以上、参院59議席以上とっていたことを考えると、2013年以降の議席数の落ち込みは激しく見えますが、この違いは“第三極”の存在が大きいと言えます。
2000年から2005年の選挙では“第三極”が存在せず、自民党に対する批判票を民主党が吸収できたわけです。
それに対して2013年以降は、活発な“第三極”が存在しています。
このため、自民党に対する批判票は維新などの“第三極”と取り合いになり、民主党は苦しめられることになります。
2014年の衆院選では、議席数を73に増やしたものの41議席とった維新との競合が無ければもう少し取れていたでしょう(自民が大勝した2005年の郵政選挙の時ですら民主党は113議席とっていました)。2016年の参院選でも12議席とった維新と自民批判票を分けざるを得なかった民進党は49議席に後退を強いられました(ただし、この時は民進党の改選議席数が多かったという影響があります)。

さすがに、この頃までには野党が分裂していたら、自民党に利するだけだと気づく人も増えてきます。それでも野党協力が出来上がるには、2014年衆院選での共産党を除いた野党協力を経て、2016年参院選での共産党含めた野党統一候補の確立までかかりました。

野党が選挙協力したら困るのは自民党です。

自民党やその支持層にしてみれば、野党は分裂状態であった方がいいわけで、出来るだけ長く出来ることなら永遠に“第三極”ごっこで自民批判票を分散させ、自民党一人勝ちの体制を続けてもらった方が嬉しい。

はっきり言えば“第三極”の役割なんてそれだけです。

それ以外に“第三極”が政治上で果たした役割なんてありますか?

みんなの党が政治上に残した足跡って何があります?維新の会は?どんな法案を与党から勝ち取りました?与党の強行をどう止めました?
ぱっと思い出せるほど目立つ成果なんても何も無いんじゃないですか?

「野党がだらしない」とはぼやく前に、“第三極”といった詐欺に引っかかってばかりいるから、非力な野党しか生まれないってことをいい加減学ぶべきだと思いますよ。


ネット世論調査でバイアスを排除する方法に関する提案

ネット上のアンケート結果で政権支持率が高く出た、的な話をいくつか見ましたので。

この手の調査で重要なのは、精密さと正確さの2つなんですが、特に重要なのは正確さです。
精密さはサンプル数を増やすことで高くすることができますが、正確さはサンプル数に依存しません。正確さを確保するには、サンプルが無作為に抽出されていることが重要で、ネット上のアンケートでは基本的にそれが担保できません。
なので、ネット上のアンケートで何十万、何百万の回答を集めたとしても、精密に偏った結果が出るだけです。

では、ネット上のアンケートは全く無意味で使えないのかというと、アンケートの作り方によっては上手くバイアスを排除することもできます。

政権支持率を調べる場合、回答者の集団に政治的な偏りが生じさせないことが重要です。
ですが、特定のサイトでアンケートを行う以上、そのサイトにアクセスするネット利用者の集団に政治的偏りが生じるのは避けられません。

ではどうするか。

最も単純な方法は、前回の総選挙の比例選挙区でどの政党に投票したか、という質問を追加することです。
(※以下の数字は例示のための値で、実際の調査に基づく数値ではありません。)
その回答が、自民党に投票:9000人、民進党に投票:200人、共産党に投票:800人 だったとしましょう。
そして実際の総選挙の比例得票数の割合が、自民党:50%、民進党:30%、共産党:20% だったとしましょう。

で、アベノミクスを評価するかという質問の回答がこんな感じだったとしましょうか。

前回総選挙での投票先 評価する
自民に投票した人 7000人
民進に投票した人 60人
共産に投票した人 40人
合計 7100人

単純に集計すると、アンケート総数10000人に対して7100人がアベノミクスを評価していることになりますから71%という結果になります。しかし、回答者の中の自民支持者の割合が実際の有権者全体の割合と乖離しているため、この結果にはバイアスが生じていて、単純な結果はあてにできません。

上記の場合、アンケートの結果に以下の補正をかければバイアスを排除できます。

前回総選挙での投票先 評価する 補正係数 補正後の結果(人)
自民に投票した人 7000人 ×50/9000 3889人
民進に投票した人 60人 ×30/200 900人
共産に投票した人 40人 ×20/800 100人
合計 8100人 --- 4889人

補正後のアベノミクス評価割合は49%となります。

この方法は、前回総選挙での投票先という質問を追加することによって、実際の総選挙結果と比較することができるようになりネットアンケート特有のバイアスを排除できるようにすると言うものです。
実際に使う場合は、さらに性別や年齢などで人口構成のばらつきを調整する必要もあるでしょうし、既存の世論調査との乖離がどの程度かを調べる必要もあります。
基本的に、既存の調査と違う結果が出た場合は、自分たちの調査方法にバイアスが無いかを調べて乖離の原因を調べるべきであって、ろくに調べもせずに“マスコミの偏りが”とか言い出すのは論外なんですよね。


それはさておき、上記のようにネット調査であっても設問の仕方によってはバイアスを排除できますので、ネットアンケートから真摯に何らかの世論動向を得たいと考えているのならそういった検討をお勧めします。

ちなみに上記方法の問題点は、アンケートに答えた全員が自民に投票してたりすると計算上、補正できないと言う点です。
あと、サンプル数がいくら多くなったも集団が偏っているため、結果の精密さは劣化しているという認識が必要ですね。上記の場合だと、サンプル数は10000人でも、精密さとしては200人の調査と同程度です(民進に投票した人が60人を実際の選挙結果での30%に適用すると、60÷0.3=200人規模の集団に相当することになります。まあ、自民投票7000人分の情報量をもう少し評価することも出来なくはないでしょうが)。

産経・FNN世論調査から見る安倍政権支持率の中身

前回の記事はJNNの世論調査を用いましたが今回は、産経・FNNの世論調査結果を用います。

JNN世論調査では支持する理由の調査が行われていますが、FNN世論調査でも支持率の他に、いくつかの項目について評価するか否かの調査が行われています。評価項目は「首相の人柄」「首相の指導力」「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の5項目です*1
JNNの調査では支持すると答えた人に支持する理由をひとつ選択するように求めていましたが、FNNでは全ての回答者に各項目の評価を問うています。そのため、支持する理由が複数ある場合も評価から落ちることなくデータ化されている利点があります*2
それを2013年1月から2017年7月まで示したのが以下の図です。

「首相の人柄」と「首相の指導力」が他の評価項目よりも常に高く、また、この2項目がほぼ連動していることがわかります。これに対して「景気・経済対策」は2013年前半は50〜60%という高い値を示していますが、2013年後半には50%を割り、2015年後半からは40%すら割り込む状態に陥っています。前回記事での「政策に期待できる」とほぼ同じような推移で減少傾向を示しています。これは概ねアベノミクスに対する有権者の評価と見てよいでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170722/1500787223

政権発足当初は期待も評価もしていた有権者も、徐々に期待が失われていっていることがわかります。
「外交・安全保障政策」は2015年8月前後で落ち込んでいるものの、全体としては40〜50%程度を維持しており、有権者の評価は総じて悪くありません。これに対して、2014年3月から集計を始めている「社会保障政策」に対する有権者の評価は、総じて30%前後と低迷しています。全体としてはやや上昇している傾向も見えますが、それでも他の評価に比べて常に低位です。

JNNの結果を踏まえて

前記事のJNNの調査結果では、政権発足当初は「政策に期待できる」層が多く、「安倍総理に期待できる」層は少なくなっていました。これに対してFNNの調査結果では、政権発足当初で「景気・経済対策」の評価が高いものの、「首相の人柄」「首相の指導力」の評価はそれ以上に高くなっています。
この違いは調査方法の違いによるものと考えられます。「首相の人柄」と「景気・経済対策」の両方を評価している人に対して、支持する理由をひとつのみ挙げるよう求めた場合、多くの人は、より具体的な評価である「景気・経済対策」を挙げると考えられるからです。
JNN調査で支持する理由に「政策に期待できる」を挙げた人が同時に「安倍総理に期待できる」とも感じているのは、自然な推測であると考えます。
JNN調査での「政策に期待できる」率と「安倍総理に期待できる」率が2013年から2017年で逆転した現象は、FNN調査での「首相の人柄」評価率と「景気・経済対策」評価率が2013年から2017年にかけて乖離していった現象と同じものを示していると言えるでしょう。

政権支持率との相関

では「首相の人柄」「首相の指導力」「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の5項目は、政権支持率とどんな相関を示しているのでしょうか。政権支持率も示した推移図を見れば、パッと見で大体予想できますが「首相の人柄」や「首相の指導力」との相関が高くなっています。
政権支持率を横軸に、各項目の評価率を縦軸にした散布図はこんな感じです。

一見して、「景気・経済対策」や「外交・安全保障政策」が散らばっており、相関が低いことがわかります。それぞれについて、Pearsonの相関係数を算出するとこうなります。

評価項目 評価と支持率の相関係数
「首相の人柄」     0.8916
「首相の指導力」    0.8592
「景気・経済対策」   0.6128
社会保障政策」    0.5031
「外交・安全保障政策」 0.5057

社会保障政策」については散布図はさほど散らばっているようには見えませんが相関係数が小さくなっています。原因としては集計が途中から始まっているため、政権支持率が高かった時期のデータが無い点が挙げられます。もっとも、政権発足当初に「社会保障政策」が高い評価を得たかというと時系列的な推移からは否定的にならざるを得ませんが。
やはり、「首相の人柄」と「首相の指導力」は抜きん出て政権支持率と高い相関を持っていることがわかります。他の3項目も相関がないわけではありませんが、前2者に比べて関連性は低いと言わざるを得ません。


逆のパターンとして、政権不支持率と各項目の評価しない率の相関も見てみましょう。
推移図はこんな感じになります。

そしてPearsonの相関係数はこうなります。

評価項目 評価しない率と不支持率の相関係数
「首相の人柄」     0.9164
「首相の指導力」    0.9423
「景気・経済対策」   0.7590
社会保障政策」    0.4579
「外交・安全保障政策」 0.7795

こちらの場合は、「社会保障政策」の相関のみが抜きん出て低く、他の項目の相関は高くなっています。「首相の人柄」「首相の指導力」との相関は評価と支持率の場合と同様に高い値を示しています。

考察

政権を支持している有権者は総じて「首相の人柄」「首相の指導力」に肯定的な印象を持っており、その上で「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」などの個々の政策に対する評価が分かれています。具体的な政策を評価できる場合は、それを支持する理由として挙げるものの、それらの政策が具体的な成果を伴わなくなると「首相の人柄」や「首相の指導力」と言った曖昧な評価を根拠に支持し続けます。
アベノミクスが満足な成果を示していなくても政権支持率が落ちなかったのは、「首相の人柄」「首相の指導力」に対する肯定的な印象が支持率を支えていたと言えます。それはつまり、支持率の中身が変質し、具体的な成果や期待から、首相個人に対する印象という曖昧な評価に変わっていったことを示しています。

また「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の評価と支持率との相関の低さは、有権者が政権を支持するか否かは、具体的な政策や成果よりも首相に対する印象の方に左右されやすいことを示しています。
有権者にとって好印象を抱いている人物が首相であれば、その掲げる政策に対して肯定的なバイアスがかかるともいえます。さらにJNNの結果とあわせて考えると、政権を支持する有権者は、支持する理由として「首相の人柄」「首相の指導力」といった曖昧な項目よりも「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」といった具体的な項目を挙げることを好む傾向があると言えるでしょう。特に「景気・経済対策」という理由が好まれたようです。
しかし、それもアベノミクスの低迷が明らかになってくると、支持する理由は「首相の人柄」「首相の指導力」のみにならざるを得ませんでした。この時点ではまだ見かけの支持率は高かったものの、もはや鎧を失った「魔界村」のアーサーみたいな状態で、森友・加計疑惑という安倍首相個人に対する疑惑が持ち上がることで、「首相の人柄」「首相の指導力」への支持も崩壊して、政権支持率も急降下したと言えそうです。


一方で不支持率ですが、これは「社会保障政策」との相関が低いのですが、「景気・経済対策」や「外交・安全保障政策」との相関が高く、具体的な政策に対する反対から不支持につながっていることがわかります(「社会保障政策」については調査期間通じて高いので相関係数では評価しにくい)。


すなわち、現時点において安倍政権を支持している層は安倍政権に対する具体的な成果や期待を伴わない好印象によって支持していると言え、逆に安倍政権を批判している層は具体的な政策に対して反対し、明確な根拠を持って支持していないと言えます。

*1:時期によって追加の項目がある。また、「社会保障政策」に対する評価は2014年3月から集計開始。

*2:逆にJNN調査では、複数の評価項目の中から何が一番重視されているかがわかります。

池田信夫氏による蓮舫氏に対する排外差別に用いられた台湾当局発行の「喪失国籍許可証」の件。

池田信夫氏が相変わらず、外国系日本人に対する差別を煽っています。

蓮舫代表は国籍離脱について嘘をついている --- 池田 信夫

7/19(水) 17:02配信 アゴ
きょうの蓮舫代表の臨時記者会見は、おおむねアゴラで予想した通りだったが、意外なのは台湾政府の国籍喪失許可書(2016年9月13日付)が出てきたことだ。
蓮舫事務所が国籍喪失の申請をしたのは9月6日なので、わずか1週間で許可が下りることはありえない(通常は2ヶ月以上かかる)。先週は弁護士が「証拠として国籍離脱申請書を出す」といって失笑を買ったが、今週になって許可書が出てきたのもおかしい。
しかも台湾政府のウェブサイトには、12月17日まで「10月17日に内政部で審査が終わって外交部に送った」(http://agora-web.jp/archives/2022334.html)と書かれていたので、3ヶ月以上も遡及して国籍喪失を認めたことになる。この日付の遡及だけでも、公的記録を改竄したことは明らかだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170719-00010009-agora-pol

戸籍を公開せよと強要する差別行為に勤しんでいた池田氏ですが、蓮舫氏が「喪失国籍許可証」を公表すると、今度は「喪失国籍許可証」を捏造扱いするという典型的なネトウヨ行為に至っています。

【更新】蓮舫代表の国籍喪失許可証についての疑問

2017年07月20日 13:30 池田 信夫
(略)
いずれにせよ10月17日まで国籍喪失を審査していた内政部が9月13日に許可書を出すことは、台湾政府がタイムマシンをもっていない限り不可能である。あらためて蓮舫側の論理的な説明が必要だ。

追記:ネット上で「この国籍喪失許可証は偽物ではないか」という指摘が多い。通常の喪失許可証に比べると蓮舫氏の出した許可証は
写真が証明写真と違い、民進党ポスターの斜め向きの写真を使っている
住所の欄が「日本国」だけで、現住所の記載がない(塗りつぶした痕跡もない)
フォントや字の位置が違う
などあやしい点が多いが、「喪失国籍」という透かしが入っており、これだけでは偽造と断定できない。台湾政府と協議して日付を遡及したと考えるのが常識的だろう。

http://agora-web.jp/archives/2027298.html

池田氏は、19日記事では「公的記録を改竄したことは明らか」と書いていますが、20日記事では「台湾政府と協議して日付を遡及した」と表現が少し後退しています。さすがに名誉棄損で敗訴した経験上、責任を問われずに差別的な印象操作をどのように行えばいいかを学習したということでしょうか。

追記2:台湾内政部が「證書是真的」すなわち喪失証明書は本物だと認めた。だとすると、2016年9月の段階で有効だった台湾パスポートが存在するはずだ。また12月17日まで外交部で審査していた国籍喪失が、なぜ9月13日に遡及して許可されたのか、蓮舫側の説明が必要だ。

http://agora-web.jp/archives/2027298.html

とは言え、蓮舫氏の出した「喪失国籍許可証」が真正のものであることは台湾当局が認めてしまったので、池田氏は大いなる空振りをしたことに変わりありませんけどね。

蓮舫偽造「放棄國籍許可證」?內政部:證書是真的

2017/07/20 08:05:00
(略)
但《三立新聞網》今早和內政部確認文件真偽,內政部發言人表示這份文件並非偽造,確實是由內政部所發行的「喪失國籍許可證」。

http://www.setn.com/News.aspx?NewsID=274575

日付の「遡及」に拘る池田信夫

「喪失国籍許可証」を偽造扱いして蓮舫氏を中傷するという池田氏の目論見は、台湾当局が真正性を認めたことによって潰えましたが、今度は日付で言いがかりをつけてネガキャンを続ける方針のようです。極右団体からよほどの大金をもらったのか、まるでストーカーのような異常な執拗さです。

日付の件

池田氏が言いがかりをつけている流れは以下です。

2016年9月6日:蓮舫氏が台湾籍喪失の申請を行う。
2016年9月12日:台湾当局から台湾籍が残っていたことの連絡を蓮舫氏が受け取る
2016年9月13日:台湾当局発行が蓮舫氏の喪失国籍許可証を発行する
2016年9月23日:台湾当局発行の喪失国籍許可証を蓮舫氏が受け取る
2016年10月7日?:目黒区役所が台湾当局発行の喪失国籍許可証を受理を拒否
2016年10月7日:蓮舫氏が国籍選択宣言を行う
2016年10月17日:台湾内政部による審査が完了する

「10月17日まで国籍喪失を審査していた内政部が9月13日に許可書を出すことは、台湾政府がタイムマシンをもっていない限り不可能」という池田説ですが、役所の発行する書類では特に珍しいことではありません。
例えば、離婚届。離婚の効力は届け出た日から発生しますが、役所は受け取った離婚届をそのまま受理してしまうわけではなく審査を行います。審査して問題がなければ提出日に遡って受理となります。もちろん、記載不備などがあれば訂正する必要がありますが、書類上の不備が無ければ役所は届出書を受けとり、審査に回すことになります。

台湾の国籍喪失の手続きもこれと同じと思われます。
おそらく、蓮舫氏が台湾籍喪失の申請を開始したのは9月6日でしょうが、その時点では書類の不備があり、それを解消したのが9月12日、台湾当局は翌9月13日付で喪失国籍許可証を発行、その後、内政部での審査が行われ、10月17日にその審査も完了した、という流れでしょう。

離婚届も台湾籍喪失の申請も、審査が続いている間は書類の不備などが見つかり訂正や不足している書類の提出を求められることはあるでしょうが、基本的に法律上、申請を許可できないような重大な問題が出ない限り、許可されて効力が発生するのが普通です。
台湾国籍法は、11条から13条で申請権者の条件と国籍喪失を許可できない場合について規定していますが、まあ、普通の台湾の一般人なら許可されるような規定になっています。

第 11 條

中華民國國民有下列各款情形之一者,經內政部許可,喪失中華民國國籍:
一、由外國籍父、母、養父或養母行使負擔權利義務或監護之無行為能力人或限制行為能力人,為取得同一國籍且隨同至中華民國領域外生活。
二、為外國人之配偶。
三、依中華民國法律有行為能力,自願取得外國國籍。但受輔助宣告者,應得其輔助人之同意。
依前項規定喪失中華民國國籍者,其未婚未成年子女,經內政部許可,隨同喪失中華民國國籍。

第 12 條

依前條規定申請喪失國籍者,有下列各款情形之一,內政部不得為喪失國籍之許可:
一、男子年滿十五歲之翌年一月一日起,未免除服兵役義務,尚未服兵役者。但僑居國外國民,在國外出生且於國內無戶籍者或在年滿十五歲當年十二月三十一日以前遷出國外者,不在此限。
二、現役軍人。
三、現任中華民國公職者。

第 13 條

有下列各款情形之一者,雖合於第十一條之規定,仍不喪失國籍:
一、為偵查或審判中之刑事被告。
二、受有期徒刑以上刑之宣告,尚未執行完畢者。
三、為民事被告。
四、受強制執行,未終結者。
五、受破產之宣告,未復權者。
六、有滯納租稅或受租稅處分罰踣未繳清者。

http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=D0030001

なので、日本国籍を既に持っている蓮舫氏の場合、そもそも台湾当局国籍喪失を許可しない理由がありません。ではなぜ申請した9月6日の時点で発行できなかったのか、それはおそらく以下の規定に引っかかったからです。

二、申請喪失我國國籍者,應填具申請書,並檢附下列文件辦理:
1. 具有我國國籍之證明(如國民身分證、戶口名簿、護照)。

http://www.ris.gov.tw/pl/144/-/asset_publisher/acQ7/content/q6-%E5%A6%82%E4%BD%95%E7%94%B3%E8%AB%8B%E5%96%AA%E5%A4%B1%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E6%B0%91%E5%9C%8B%E5%9C%8B%E7%B1%8D%EF%BC%9F%E5%8F%A6%E4%B8%8D%E5%BE%97%E7%82%BA%E5%96%AA%E5%A4%B1%E5%9C%8B%E7%B1%8D%E8%A8%B1%E5%8F%AF%E4%B9%8B%E6%83%85%E5%BD%A2%E5%8F%88%E7%82%BA%E4%BD%95%EF%BC%9F;jsessionid=3215424804301089F6587885590B5D11?redirect=http%3A%2F%2Fwww.ris.gov.tw%2Fpl%2F144%3Bjsessionid%3D3215424804301089F6587885590B5D11%3Fp_p_id%3D101_INSTANCE_acQ7%26p_p_lifecycle%3D0%26p_p_state%3Dnormal%26p_p_mode%3Dview%26p_p_col_id%3Dcolumn-2%26p_p_col_count%3D1

申請するにあたって必要な書類である国民身分証や台湾の戸籍、台湾のパスポートが無かったから、と思われます。
これが、池田信夫氏が「台湾政府の国籍喪失には現在有効な中華民国の旅券が必要(https://goo.gl/ZBJSc1)なので、このパスポートでは国籍喪失の許可は下りない。」と言っていることに関連するわけですが、台湾当局のサイトを見ると、台湾の旅券が必須なわけでないんですよね。

台湾当局のサイトには「具有我國國籍之證明(如國民身分證、戶口名簿、護照)」と書かれています。つまり「現在有効な中華民国の旅券が必要」だという話は、現に台湾籍を有していることの証明のためであって、別にパスポートでなければならないわけではなく、国民身分証や台湾の戸籍といったものでも構わないんですね(そもそも、台湾当局が台湾籍喪失を認めるためには、台湾籍を持っている人に対してしか出来ないわけですから、申請者に対して台湾籍を有することを示す書類を提出するよう求めるのは当然です。)。

要するに池田氏の言う「台湾政府の国籍喪失には現在有効な中華民国の旅券が必要」というのは出鱈目に過ぎないということになります。
もっとも日本に住む台湾籍を有する人が日本への帰化を考えている場合は実務的に最も準備しやすいのがパスポートだというのはあるかも知れません。ですが、今回の蓮舫氏の場合は、新たに台湾のパスポートを取得する必要性は無かったはずです。なぜなら、9月12日に蓮舫氏に台湾籍が残っていたことを伝えたのは他ならぬ台湾当局です。
したがって、申請にあたって必要な「具有我國國籍之證明」が、9月12日の台湾当局からの連絡で為されたことになり、申請の要件を満たしたため、9月13日付で「喪失国籍許可証」が発行されたと考えられるわけです。

池田信夫氏は、こんなことを言っています。

ここから先は推測だが、蓮舫事務所が台湾代表処に「政治的配慮」を求めたのではないか。彼女が二重国籍だということが確定すると民進党代表の地位が危うくなるので、台湾政府が超法規的に旅券を更新し、遡及して国籍喪失を認め、彼女はこの事実を口外しないという取引をしたのだろう。
しかしこの嘘は、辻褄が合わない。パスポートが1984年に失効していたら2016年に国籍喪失の手続きはできないし、国籍喪失できたとすれば有効なパスポートをもっていたことになる。これは絶対絶命の二律背反だが、ただ一つ明らかなことがある:彼女は嘘をついているということだ。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170719-00010009-agora-pol

池田氏はいい加減な根拠とも呼べぬ出鱈目をもって、「喪失国籍許可証」が偽造だの、蓮舫氏は現在有効な台湾のパスポートを隠しているだのと決めつけ、蓮舫氏に対して「嘘つき」呼ばわりしているわけです。
最低の差別主義者ですね。
もう一度訴えられて敗訴すればいいのに。

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