産経・FNN世論調査から見る安倍政権支持率の中身

前回の記事はJNNの世論調査を用いましたが今回は、産経・FNNの世論調査結果を用います。

JNN世論調査では支持する理由の調査が行われていますが、FNN世論調査でも支持率の他に、いくつかの項目について評価するか否かの調査が行われています。評価項目は「首相の人柄」「首相の指導力」「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の5項目です*1
JNNの調査では支持すると答えた人に支持する理由をひとつ選択するように求めていましたが、FNNでは全ての回答者に各項目の評価を問うています。そのため、支持する理由が複数ある場合も評価から落ちることなくデータ化されている利点があります*2
それを2013年1月から2017年7月まで示したのが以下の図です。

「首相の人柄」と「首相の指導力」が他の評価項目よりも常に高く、また、この2項目がほぼ連動していることがわかります。これに対して「景気・経済対策」は2013年前半は50〜60%という高い値を示していますが、2013年後半には50%を割り、2015年後半からは40%すら割り込む状態に陥っています。前回記事での「政策に期待できる」とほぼ同じような推移で減少傾向を示しています。これは概ねアベノミクスに対する有権者の評価と見てよいでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170722/1500787223

政権発足当初は期待も評価もしていた有権者も、徐々に期待が失われていっていることがわかります。
「外交・安全保障政策」は2015年8月前後で落ち込んでいるものの、全体としては40〜50%程度を維持しており、有権者の評価は総じて悪くありません。これに対して、2014年3月から集計を始めている「社会保障政策」に対する有権者の評価は、総じて30%前後と低迷しています。全体としてはやや上昇している傾向も見えますが、それでも他の評価に比べて常に低位です。

JNNの結果を踏まえて

前記事のJNNの調査結果では、政権発足当初は「政策に期待できる」層が多く、「安倍総理に期待できる」層は少なくなっていました。これに対してFNNの調査結果では、政権発足当初で「景気・経済対策」の評価が高いものの、「首相の人柄」「首相の指導力」の評価はそれ以上に高くなっています。
この違いは調査方法の違いによるものと考えられます。「首相の人柄」と「景気・経済対策」の両方を評価している人に対して、支持する理由をひとつのみ挙げるよう求めた場合、多くの人は、より具体的な評価である「景気・経済対策」を挙げると考えられるからです。
JNN調査で支持する理由に「政策に期待できる」を挙げた人が同時に「安倍総理に期待できる」とも感じているのは、自然な推測であると考えます。
JNN調査での「政策に期待できる」率と「安倍総理に期待できる」率が2013年から2017年で逆転した現象は、FNN調査での「首相の人柄」評価率と「景気・経済対策」評価率が2013年から2017年にかけて乖離していった現象と同じものを示していると言えるでしょう。

政権支持率との相関

では「首相の人柄」「首相の指導力」「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の5項目は、政権支持率とどんな相関を示しているのでしょうか。政権支持率も示した推移図を見れば、パッと見で大体予想できますが「首相の人柄」や「首相の指導力」との相関が高くなっています。
政権支持率を横軸に、各項目の評価率を縦軸にした散布図はこんな感じです。

一見して、「景気・経済対策」や「外交・安全保障政策」が散らばっており、相関が低いことがわかります。それぞれについて、Pearsonの相関係数を算出するとこうなります。

評価項目 評価と支持率の相関係数
「首相の人柄」     0.8916
「首相の指導力」    0.8592
「景気・経済対策」   0.6128
社会保障政策」    0.5031
「外交・安全保障政策」 0.5057

社会保障政策」については散布図はさほど散らばっているようには見えませんが相関係数が小さくなっています。原因としては集計が途中から始まっているため、政権支持率が高かった時期のデータが無い点が挙げられます。もっとも、政権発足当初に「社会保障政策」が高い評価を得たかというと時系列的な推移からは否定的にならざるを得ませんが。
やはり、「首相の人柄」と「首相の指導力」は抜きん出て政権支持率と高い相関を持っていることがわかります。他の3項目も相関がないわけではありませんが、前2者に比べて関連性は低いと言わざるを得ません。


逆のパターンとして、政権不支持率と各項目の評価しない率の相関も見てみましょう。
推移図はこんな感じになります。

そしてPearsonの相関係数はこうなります。

評価項目 評価しない率と不支持率の相関係数
「首相の人柄」     0.9164
「首相の指導力」    0.9423
「景気・経済対策」   0.7590
社会保障政策」    0.4579
「外交・安全保障政策」 0.7795

こちらの場合は、「社会保障政策」の相関のみが抜きん出て低く、他の項目の相関は高くなっています。「首相の人柄」「首相の指導力」との相関は評価と支持率の場合と同様に高い値を示しています。

考察

政権を支持している有権者は総じて「首相の人柄」「首相の指導力」に肯定的な印象を持っており、その上で「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」などの個々の政策に対する評価が分かれています。具体的な政策を評価できる場合は、それを支持する理由として挙げるものの、それらの政策が具体的な成果を伴わなくなると「首相の人柄」や「首相の指導力」と言った曖昧な評価を根拠に支持し続けます。
アベノミクスが満足な成果を示していなくても政権支持率が落ちなかったのは、「首相の人柄」「首相の指導力」に対する肯定的な印象が支持率を支えていたと言えます。それはつまり、支持率の中身が変質し、具体的な成果や期待から、首相個人に対する印象という曖昧な評価に変わっていったことを示しています。

また「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」の評価と支持率との相関の低さは、有権者が政権を支持するか否かは、具体的な政策や成果よりも首相に対する印象の方に左右されやすいことを示しています。
有権者にとって好印象を抱いている人物が首相であれば、その掲げる政策に対して肯定的なバイアスがかかるともいえます。さらにJNNの結果とあわせて考えると、政権を支持する有権者は、支持する理由として「首相の人柄」「首相の指導力」といった曖昧な項目よりも「景気・経済対策」「社会保障政策」「外交・安全保障政策」といった具体的な項目を挙げることを好む傾向があると言えるでしょう。特に「景気・経済対策」という理由が好まれたようです。
しかし、それもアベノミクスの低迷が明らかになってくると、支持する理由は「首相の人柄」「首相の指導力」のみにならざるを得ませんでした。この時点ではまだ見かけの支持率は高かったものの、もはや鎧を失った「魔界村」のアーサーみたいな状態で、森友・加計疑惑という安倍首相個人に対する疑惑が持ち上がることで、「首相の人柄」「首相の指導力」への支持も崩壊して、政権支持率も急降下したと言えそうです。


一方で不支持率ですが、これは「社会保障政策」との相関が低いのですが、「景気・経済対策」や「外交・安全保障政策」との相関が高く、具体的な政策に対する反対から不支持につながっていることがわかります(「社会保障政策」については調査期間通じて高いので相関係数では評価しにくい)。


すなわち、現時点において安倍政権を支持している層は安倍政権に対する具体的な成果や期待を伴わない好印象によって支持していると言え、逆に安倍政権を批判している層は具体的な政策に対して反対し、明確な根拠を持って支持していないと言えます。

*1:時期によって追加の項目がある。また、「社会保障政策」に対する評価は2014年3月から集計開始。

*2:逆にJNN調査では、複数の評価項目の中から何が一番重視されているかがわかります。