社民党の指摘に対するウヨの反応、あるいは佐世保市政雑感

佐世保市内では陸上自衛隊相浦駐屯地の隊員によるパレードを2002年から実施しているが、2003年以降は実銃を持ったパレードを行っている。
この実銃を持ったパレード(9月12日予定)に対し、社民党佐世保支部などが、中止を求めたそうである。

パレードの是非については私自身は特に意見ないのだが、この社民党の中止要請に対してある種の人々はやたらと過剰反応している。


元記事はこれ

陸自相浦 12日、銃携帯し佐世保市行進 労働団体など中止申し入れ
2009年9月8日 10:13
陸上自衛隊相浦駐屯地佐世保市)は創立記念行事の一環で、12日に同市中心部の商店街アーケードを迷彩服姿で小銃を携行した隊員約220人のパレードを実施するが、社民党佐世保支部佐世保地区労は7日、同駐屯地に対してパレードを中止するよう申し入れた。

 パレードは離島防衛を担う陸自西部方面普通科連隊の発足に伴い、2002年から実施し今回で7回目。12日にアーケード約1キロを同隊隊員が実弾を装てんしていない小銃と機関銃を携帯して行進する。1回目は銃を携帯しなかったが、03年以降は銃を携帯して商店街や国道で行進している。

 7日に同駐屯地を訪れた社民党などの代表者は「実弾が入っていなくても事故が起きないとは限らない。わざわざ市中で銃を持って威嚇的なパレードをする必要があるのか」と問いただした。同駐屯地幹部は「市民に自衛隊の真の姿を見てもらうために実施している。申し入れは司令に報告する」と答えた。

 社民党などの代表者は同日、市に対してもパレード中止を要請するよう申し入れたが、末竹健志副市長は「安全に配慮され、商店街も協力的であることから、市としては中止を要請する考えはない」と応じた。

=2009/09/08付 西日本新聞朝刊=

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/120370


この中の「実弾が入っていなくても事故が起きないとは限らない。」にウヨが入れ食い状態。

参照:
http://b.hatena.ne.jp/entry/blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1299829.html


普通に読めば、実弾の抜き忘れなどの事態の懸念と読めるわけで、ウヨのブコメは揚げ足取り以上のものではない。そういうまともな突っ込みも散見されるのだが、基本的には社民党揶揄のコメントが優勢な感じ。

ちなみに、自衛官による実弾抜き忘れ+発砲事故の事例。

読売新聞 平成21年07月07日

 防衛省は7日、同省地下で昨年9月に拳銃2発を誤射した陸上自衛隊警務隊の1等陸曹(45)を停職13日の懲戒処分とした。
 上官の1等陸尉(46)も停職3日としたほか、誤射の際に一緒に警備していた2等陸曹(39)が、内規に反して拳銃を携帯していなかったことも判明し、停職1日とした。
 同省によると、1等陸曹は東京都新宿区の同省地下の中央指揮所入り口で警備中、実弾が入った拳銃を空だと勘違いし、射撃動作の練習だとして引き金を引いた。
 1等陸曹は翌日に射撃検定を控え、上官だった1等陸尉が、警備中に射撃の動作を練習するよう不適切な指示をしていた。また、2等陸曹は拳銃を金庫にしまったまま警備していた。

(リンク切れ)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090707-OYT1T00916.htm

今年の7月という割と最近の事例で、実際に発砲に至らなかった事例も頻発していることは容易に想像できる*1
自衛隊の武器管理のチェックは厳しい”などと擁護しているコメントも多数あるが、上の事例を見ると説得力の乏しさが浮き彫りになるだろう。


政治的背景

現在の佐世保市長は朝長則男市長であるが、彼は2007年の選挙で自民・公明推薦で当選した人物である。選挙戦の相手は前佐世保市長の光武顕が後継者に指名した野口日朗だったが、無所属で出馬し敗れている。
光武顕前市長も自民党だが1995年の市長選では保革相乗り戦術で対立候補であった自民党県議を制しているので、自民党と言ってもタカ派からは距離を置いていた。実際、米海軍弾薬庫の移転・返還問題に意欲的に取り組んでいた。

2006年、不正経理問題などで光武市政批判がある中、三期勤めた光武市長は引退を表明し野口日朗を後継に指名した。野口日朗も米海軍弾薬庫の移転・返還問題に意欲的な態度を表明している。一方で、米海軍弾薬庫の移転・返還問題に消極的なのが、朝長則男である。朝長則男を支持したのが、佐世保商工会議所だったが、佐世保商工会議所は佐世保港の防衛機能充実を光武市長に求めていたが受け入れられなかった因縁がある。
佐世保商工会議所は佐世保港の防衛機能充実を求めてきたが、市長と意見が一致せず、思いが遂げられずにじくじたる気持ち。朝長をリーダーに押し上げるため力を結集しよう」と変革を呼び掛けた。
2006年10月、自民党佐世保支部は朝長則男の推薦を決定し、連合や労働団体などは2007年2月には野口日朗支持を決める。こうして、自民・公明推薦の朝長候補と、連合・労働団体推薦の野口候補(自民県議)という不思議な、しかし地方選挙ではありがちな構図が出来上がる。

自民推薦なので当然と言えば当然だが、石破茂防衛庁長官が支援しているあたりは米海軍弾薬庫の移転・返還問題や米軍再編なども絡めて陰謀論がひとつ作れそうな感じである。当時の久間防衛大臣が支援に来ていないのは、久間自身が光武前市長と付き合いがあるからであろう*2。ただ、2007年4月18日以降は、久間防衛大臣伊藤一長市長銃撃事件に対し「対立候補が利益を得る」などの無神経発言をしており*3応援に来れる状態にはなかっただろうが。

2007年の佐世保市長選は、継続vs刷新、という構図になったことに加えて、自民・公明の支持・組織力がものを言って、朝長候補の勝利となった。野口氏59631票に対し、朝長氏68809票なので、まず接戦と言ってよいだろう。
いずれにせよ、この選挙によって、連合・労働団体勢力は市政から除かれることになった。

参照:http://www.nagasaki-np.co.jp/press/senkyo/date/2007/touitu/sasebo.html

この時期の自民党は未だ強力であったと言えようが、この直後2007年7月の参院選では自民党が敗れ、以後凋落を続けて2009年8月の衆院選大敗へとつながっていく。


さて、2007年の佐世保市長選で市政中枢から外れた連合・労働団体勢力による反撃の用意が、2009年衆院選により整ったと言う見方はできるだろう。

これが、今回の自衛隊パレードに対する中止要請であろうと思う。
言ってみれば、社民勢力による朝長市政への揺さぶり、という評価。本丸は、自衛隊ではなく米軍であろう、というのがscopedogの判断。


実際問題として、朝長市政は米軍・平和関連の難問を抱えている。

朝長佐世保市政の問題

  • 2008年11月 米兵銃弾不法投棄事件

米兵が佐世保港内に銃弾3300発を不法投棄したという事件。

  • 2009年6月 広島の秋葉市長が主導する平和市長会議への出席拒否*4

今後

社民党のパレード中止要請を、朝長市政はとりあえずは拒絶の姿勢を示したわけだが、今後どうなるか興味深いところ。
何せ、長崎の衆院選小選挙区は四区全て自民敗退である。佐世保市を含む長崎四区では、光武前市長が推す宮島大典(民主)が、朝長市長が推す北村誠吾(自民・元防衛副大臣)を破っている。
北村氏は結局比例で復活しているが、彼が選挙中に訴えた内容はこれ。

基地の街・佐世保での得票増を目指し「潜水艦基地を誘致する」「民主政権では自衛隊は縮小する」と基地増強論で独自性を打ち出した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090831-00000219-mailo-l42

小選挙区全敗・政権喪失により長崎に対する自民党の影響力は大幅に減じると思われるが、長崎三区の谷川氏、長崎四区の北村氏が比例復活しているため、自民→中央のパイプは壊滅したわけではない。企業などの組織票頼りの北村氏だが、民主政権に対する地方市民の不満を上手く汲み取っていければ、朝長市政の強力な支援となるだろう。






ウヨの反応を楽しむだけのエントリーのつもりが佐世保の話に深入りしてしまった・・・。

*1:ハインリヒの法則を適用すれば、30倍くらいはあるはずだね。

*2:この選挙直後の2007年7月、久間は「原爆しょうがない」発言

*3:http://www.afpbb.com/article/politics/2212983/1522052

*4:http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji/20090715/02.shtml