南京事件犠牲者数に関する記述いくつか(追記2012/3/4)

「日中15年戦争(中)」P227-228

黒羽清隆氏による教育社1978年3月20日第1刷発行の新書です。引用は1979年6月25日第2刷から。

階級・階層 種別 虐殺人員
中国人男女子供 非戦闘員    一二〇〇〇人
成人中国人男子 非戦闘員    二〇〇〇〇人
一般人避難民  非戦闘員    五七〇〇〇人
中国軍兵士   戦闘員(捕虜) 三〇〇〇〇人

一九四八(昭二十三)年十一月四日に朗読された東京裁判の判決は、その第八章・「通例の戦争犯罪」において、「南京暴虐事件」をとりあげ「一九三七年十二月十三日の朝、日本軍が市にはいったときには、抵抗は一切なくなっていた」という状況のなかで、上表のような殺害があったことを認定した。
 そして、さらに、判決は「後日の見積り」によって「日本軍が占領してから最初の六週間に、南京とその周辺で殺害された一般人と捕虜の総数は、二十万以上であったことが示されている」とし、語をついで、「これらの見積りが誇張でないことは、埋葬隊とその他の団体が埋葬した死骸が、十五万五千に及んだ事実によって証明されている」とする。
 また、いわゆる「日本無罪論」の見地から、独自の少数意見判決を展開したインド代表のパール判事は、この「南京暴行事件に関する証拠」についても、「曲説とか誇張とかに関する或る程度の疑惑を避けること」が「できない」としながら、なお、最終的かつ総括的な事実認識において、つぎのように断じている(『日中戦争史資料』第八巻)。

 これに関し本件において提出された証拠に対し言い得るすべてのことを念頭において、宣伝と誇張をでき得る限り斟酌しても、なお残虐行為は日本軍のものがその占領した或る地域の一般民衆、はたまた戦時俘虜に対し犯したものであるという証拠は圧倒的である。

「日本人は中国で何をしたか」P53-54

平岡正明氏による潮出版社1972年4月25日第1刷発行の本です。引用は1982年9月25日第12刷から。

 南京大虐殺の数字は、東京裁判時、中国側の発表では四十三万人である。その内訳は、市民二十三万人、軍人二十万人である。これは最大限の数値といわれている。東京裁判判決では、非戦闘員一万二千人、便衣隊狩りで二万人、捕虜三万人、以上が市内で殺され、近郊に避難していた市民五万七千人が殺され、計十一万九千人が殺されたとし、これが最小限の数字である。洞富雄は『近代戦史の謎』第二章南京虐殺に「犠牲者数の推定」という一項目を割き、四十三万人説を事実に近いものだろうと推定した。

「中国の旅」P263

本多勝一氏による朝日新聞社1971年12月20日第1刷発行の文庫です。引用は1972年5月20日第3刷から。

[注2]230ページ 南京事件で日本軍が殺した中国人の数は、姜さん*1の説明では約三〇万人という大ざっぱな数字を語っていたが、正確な数字はむろん知るよしもない。東京裁判のころの中国側(蒋介石政権当時)の発表は四三万人(市民二三万、軍人二〇万)だった。東京裁判判決では一一万九〇〇〇人だが、これは明白な証言にもとづくものだけなので、事実より少ないとみる研究者もいる。洞富雄著『近代戦史の謎』の分析は、三〇万人、あるいは、三四万人説を事実に近いとみている。

「日本人は中国で何をしたか」と「中国の旅」は共に洞富雄氏の「近代戦史の謎」(1967年)に依拠しています。平岡氏は「四十三万人説を事実に近い」と読み、本多氏は「三四万人説を事実に近い」と読んでいますが、誤記なのか、誤読なのかよくわかりません。「近代戦史の謎」は持ってないためわかりません。

追記2012/3/4

洞富雄氏の「近代戦史の謎」を確認しました。
P141

 汪氏の語るところが、そのままに事実であるとすれば、南京残虐事件の犠牲者の数はおよそ三五万人にも達したことになる。昨年九月*2いわゆる大宅考察組が南京で中国人民対外文化友好協会の秘書長から聞いた話によれば、日本軍の入城した昭和十二年十二月十三日から翌年の二月までに、三〇万人の中国人が虐殺されたという(『サンデー毎日』昭和四十一年十月二十日臨時増刊「大宅考察組の中共報告」七八頁)。また先に紹介したように、南京地方法院の報告は、被殺者確数三四万人と言っている。『改造日報』が被虐殺者総数を四三万人としているのは、ちょっと信用できかねるが、三〇万人、三四万人という数字は、実数にちかいものとみてよかろうと思う。

洞氏は明確に三四万人説を「実数にちかい」と書いていますので、平岡正明氏の「日本人は中国で何をしたか」の記述は、誤記か活字を拾った際の誤りと思われます。

*1:姜根福氏の体験については以前書きました。http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20120220/1329755602

*2:1966年