国連軍・韓国軍慰安婦の話

韓国軍慰安婦の存在を日本軍慰安婦に対する人権問題から目をそらす為の方便としか考えていないネトウヨ嫌韓厨と違って、日本軍従軍慰安婦問題に関わった研究者は国連軍・韓国軍慰安婦についても研究しています。
たとえば、日本軍の戦争犯罪の研究で知られる林博史氏ですが、「軍隊と性暴力―朝鮮半島の20世紀」にある「韓国における米軍の性管理と性暴力―軍政期から一九五〇年代」という章で以下のように記述しています(P238-239)。

 すでに述べたようにプサン地区から売春婦管理政策が実行され始めていた時期、韓国政府は国連軍向けの慰安方法の検討をおこない、一九五一年五月「国連軍への慰安方法の一例」という方針を決定した。この決定には、首相、内務大臣、国防大臣、陸軍参謀総長、海軍参謀総長、国家警察長官なども関わっており、韓国政府全体の意思を示していたといえる。このなかで、地方行政当局(知事、市長、警察)と協力して国連軍向けの慰安所ダンスホールを設置すること、韓国軍兵士向けの特別慰安団を設けることが計画されている。同年七月にはプサン国連軍専用慰安所が七四軒、ダンスホール五軒が公認され、翌五二年七月時点では慰安所七八軒が公認されている。こうした国連軍専用慰安所の設置には米軍もしばしば関与しており、たとえば、一九五一年九月には米軍とソウル市当局の間で、ソウルの性売買女性をヨンドンポに集め、米兵向けとすることが協議されている。また済州島庁と米軍の間でも慰安所設置が議論されたという。
 イ氏*1によると、その目的は、第一に韓国女性を米兵から切り離し、一般女性を保護するため、第二に韓国政府から米軍兵士への感謝の意を示すため、第三に兵士の士気高揚、戦闘力の維持のため、と整理している。
 こうして設置された慰安所は全国に展開され、公認された慰安所以外にも国連軍向けの非公認の性売買施設がその数倍あった。一九五三年には特殊売春地区設置についても検討されているという。日本軍慰安婦問題が社会問題化する一九九〇年代の前までは、韓国では米兵相手の性売買女性を「慰安婦」と呼んでいた。また彼女たちは、「洋公主(外人向け王女yang gong ju)」「洋ガルボ(外人向け売春婦yang gal bo)」「国連婦人(UN madam)」「国連婦人(Mrs. UN)」などとも呼ばれており、朝鮮戦争時に国連軍・米軍向けの慰安婦、あるいは彼ら向けの性売買が組織されたことがこうした呼称の始まりだったとみられる。
 イ氏は「日本帝国主義の遺物である『慰安婦』は朝鮮戦争中ならびにその後の韓国社会において制度化されていたことは明らかである」と結論づけているが、朝鮮戦争時に米軍と韓国政府がともに、韓国社会における軍隊向け性売買を組織的に生み出し、公娼制は表向きは廃止されたものの、のちの基地村(米兵向け性売買地区)や都市部の売春地区を生み出す契機となっていった。

ところで、日本軍慰安婦問題について、「物的証拠がない」「証言は証拠にならない」「強制連行ではない」「自ら望んで売春した」などと言って否定しているネトウヨらには、韓国軍慰安婦問題を取り上げる資格はありません。
理由は、2002年に韓国軍慰安婦問題を取り上げた金貴玉氏の次の記述を読めばわかるでしょう。

 現時点で私は、大韓民国陸軍本部が一九五六年に発刊した『後方戦史(人事篇)』(以下『後方戦史』)以外に軍「慰安所」に関する文書を探し出せていない。だが、歴史の真実を追及する方法は一つではない。私の研究方法は、民衆の記憶に声を吹き込み、抑圧された真実を記録するオーラル。ヒストリー(口述史)の方法論である。確かに軍「慰安婦」であった女性は沈黙してきた。だが、軍「慰安婦」と関わりを持った多くの男性たちの証言は得ることができる。
(P286)

つまり、嫌韓ネトウヨが日本軍慰安婦問題を否定するときのように、証言を証拠とみなさないのなら、韓国軍慰安婦問題も否定しなければならないわけです。日本軍慰安婦問題は否定し、韓国軍慰安婦問題だけをあげつらうのは、レイシズムに基づく悪質なダブルスタンダードでしかありません。

ちなみに上記、唯一挙げられている韓国軍発刊の「後方戦史」ですが、

 『後方戦史』は、「慰安婦」が軍「慰安所」に来ることになった過程や動機について全く言及していない。(略)
(P297)

とあるように、いわゆる*2強制連行を示す「物的証拠」ではありません。ですが、金貴玉氏は証言の積み重ねで、

実際に軍「慰安婦」として働くことになった女性たちの例からは、「自発的動機」がほとんどなかったのではないかと思われる。

と推測しています。一般的な感覚から言っても妥当な推測でしょう。

そして同様に、日本軍慰安婦が日本軍や政府によって売春を強要されたのが事実だと判断することも妥当だと言えます。

*1:李任河氏、Lee Im Ha, "Korean War and Mobilization of Women"、unpublished paper(世界女性学大会での報告、2005年6月20日、ソウル)

*2:と言っても日本軍慰安婦問題を否定する歴史修正主義者しか言いませんけど