外交上の選択肢を奪っていく国内事情

外交において100%の勝利などありえず、全ての外交は妥協の産物なのは言うまでもないことです*1
ですが兎角、勝ち負けに拘ってしまうのも人の業で心の余裕や冷静さが失われてくると、白黒をはっきりつけたいという欲求が持ち上がってきます。

今の日本は心の余裕や冷静さを失いつつあり、やたらと威勢のいい台詞が飛び交っています。
領土問題の場合、一般的に国民の方が外交当局よりも強硬な意見を主張することが多いと言えます*2
独島(竹島)問題もそうですね。

現実問題として、近い将来に外交的に日本領として認めさせることはまず不可能で、かといって軍事的手段に訴えることも非現実的*3、であればどこかで妥協する以外ないわけです。要するに、ほとぼりが冷めた頃に交流を再開し、うやむやにするしかないわけです。もちろん積極的に交渉するという正攻法もありますが、相手のある話ですからどこかで妥協せざるを得ません。自分の要求を全部通して相手の要求を全部斥けることなど不可能です*4

外交の手足を縛る「愛国」

竹島単独提訴見送りも 外務副大臣が政府方針と異なる見解
2012.10.11 22:53 [韓国]

 外務省の吉良州司副大臣は11日の記者会見で、島根県竹島の領有権をめぐる国際司法裁判所(ICJ)への提訴について「最終的に単独提訴するのがいいのかどうか検討する」と述べ、単独提訴を見送る可能性があるとの見解を示した。
 日本政府は韓国政府がICJ提訴に応じないため、今月中にも単独提訴に踏み切る方向で調整しており、政府方針と異なる吉良氏の発言は、野党が問題視する可能性がある。外務省幹部は「吉良氏の個人的見解。政府が方針転換したわけではない」と強調した。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121011/plc12101122570020-n1.htm

竹島、ICJ提訴見送り言及=外務副大臣
 吉良州司外務副大臣は11日の記者会見で、島根県竹島の領有権問題をめぐる国際司法裁判所(ICJ)への提訴について、「ベストのタイミングを考慮しながら、最終的に単独提訴するのが良いのかどうか、これから検討することになる」と述べ、見送る可能性に言及した。
 李明博韓国大統領の竹島上陸で悪化した日韓関係に修復の兆しが見える中、韓国の反発を招くことが確実なICJ提訴は控えるべきだとの認識を示唆したものだ。ただ、この発言について、外務省幹部は「単独提訴に向けて淡々と準備を進めている」として、提訴の方針は変わらないと強調した。 
 8月の李大統領の竹島上陸後、日本政府はICJへの共同提訴を韓国に提案したが、韓国は拒否した。これを受け、日本政府は単独提訴の準備を開始。準備作業は今月末にも完了する見通しだ。(2012/10/11-21:09)

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012101100951

ICJに単独提訴したところで審理自体始まらず領土問題の解決に寄与しません*5。現在の日韓関係によるメリットを全て破棄してでも、断固として対立する覚悟があるかというと、そんな意識は毛頭ないでしょう*6。なので、単独提訴自体、はっきり言って日本側の自己満足に過ぎません。

日韓関係を改善させている真っ最中に、また関係を悪化させるような単独提訴を行なうのは外交的に馬鹿げています。熱狂した国民の暴走を抑えられなかった中国を笑えない状況とも言えます。もっとも日本の場合は、国民の熱狂はさほどでもなく野党や極右勢力が煽っているという状況なのですが。

*1:これは軍事についても言えることですが、ネット上の自称リアリストな軍オタはどうも妥協の重要性を理解していないようです。

*2:視点がどうしても国単位になりがちで、利害得失を冷静に現実味を持って判断できなくなりまう。

*3:憲法云々は関係ありません。法的制約が全くないと仮定しても、自衛隊竹島を軍事占領すること自体、馬鹿げた妄想に過ぎません。

*4:そんなことが外交交渉で可能だと思っているなら、それこそお花畑ですね。

*5:「韓国側は応訴しない構えのため実際の審理は始まらない見通し。国際社会に領有権に関する日本の主張をアピールするのが狙いだ。」北海道新聞、2012/10/04、http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/409030.html

*6:日本の輸出先の8%、輸入元の4%は韓国です。これは結構大きい数字ですが、感情的かつ無根拠に韓国を嫌っている人はこういった事実すら把握していません。