よくある否定論

とりたてて新味の無い慰安婦否定論ですが、TBもらっていますので簡単に対応しときます。

 この記事の中に少なくない誤魔化しが隠されているのに気づいた向きも多いのではないか。「誰かの妄想」なるブログにおいて示されているいわゆる「従軍慰安婦」非難決議は、軍が女性を強制連行して慰安婦とした、軍が組織的に女性を強姦したなどという事実に基づいて非難決議が行われている。これは、いわゆる「従軍慰安婦」を国際問題化させようとしている者が吉田清治氏などの詐話を世界に広めた結果もたらされたのであって、軍が女性を強制連行したことを示す史料も、軍が組織的に女性を強姦した史料もまったく存在しない。そうであるにもかかわらず、「誰かの妄想」なるブログはその事実を隠蔽し、何ら史料がないことについて日本が認めることがいわゆる「従軍慰安婦問題解決」であるという寝言を述べているのである。しかし、それでいわゆる「従軍慰安婦」問題が沈静化するのか。

http://blog.livedoor.jp/patriotism_japan/archives/51872144.html

未だに吉田清治氏の告白を詐話と指摘するくらいの武器しか持っていない典型的な否定論者ですね。
ちなみに吉田清治氏の記述には、日時と場所について変更があり、そのため歴史研究としては使えず実際、現在の慰安婦研究で吉田清治氏記述に依拠している研究者は否定論者以外まず存在しません。また、戦記などの記述において関係者への配慮から、特定できないように名前、部隊名、日時、場所などを変更して記述されることはそれほど珍しいことではありませんし、吉田氏自身も連行の事実そのものまで否定してはいないことには注意が必要です。

「いわゆる「従軍慰安婦」非難決議は、軍が女性を強制連行して慰安婦とした、軍が組織的に女性を強姦したなどという事実に基づいて非難決議が行われている」?

アメリカ下院決議121号での事実認識は以下の通りです。

Whereas the Government of Japan, during its colonial and wartime occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II, officially commissioned the acquisition of young women for the sole purpose of sexual servitude to its Imperial Armed Forces, who became known to the world as ianfu or `comfort women';
Whereas the `comfort women' system of forced military prostitution by the Government of Japan, considered unprecedented in its cruelty and magnitude, included gang rape, forced abortions, humiliation, and sexual violence resulting in mutilation, death, or eventual suicide in one of the largest cases of human trafficking in the 20th century;

(訳)
日本政府は1930年代から第二次大戦までのアジア・太平洋を植民地化・占領していた期間中、日本帝国軍の性奴隷、いわゆる「従軍慰安婦」にすることを目的として、若い女性を集めることを公式に依頼した(officially commissioned the acquisition of young women)。
日本政府による軍用売春を強制する「従軍慰安婦」制度は、20世紀最大の人身売買事件の一つであり、これには集団レイプ、強制堕胎、恥辱、障害・死亡あるいは自殺に至らしめる性暴力を含んでいる。

http://ameblo.jp/scopedog/entry-10031011920.html

「軍が女性を強制連行して慰安婦とした」ではなく、"officially commissioned the acquisition of young women"であり、「軍が組織的に女性を強姦したなどという事実」ではなく"forced military prostitution by the Government of Japan"と書かれています。
各国の非難決議が何を問題としているかすら理解していないようですね。

あと「軍が女性を強制連行したことを示す史料」については、スマラン事件をはじめ、中国や南方占領地において軍が強姦のために女性を強制連行したことを示す史料が存在しますので、「存在しない」というのは全くのデタラメですね。

河野談話関連

続いて河野談話に関して。

 これは歴史を振り返ってみればわかる。河野洋平官房長官(当時)の談話は、いわゆる「従軍慰安婦」問題なるものが軍が強制連行や強姦に関与した史料が何一つ存在しないにもかかわらず、それらがあったと主張する韓国やいわゆる「従軍慰安婦」として名乗り出ている者に配慮して、その事実の有無については触れることなくお詫びを述べた談話であった。そしてこの河野談話によっていわゆる「従軍慰安婦」問題が解決に向けて進んだのか。

http://blog.livedoor.jp/patriotism_japan/archives/51872144.html

ここでも「軍が強制連行や強姦に関与した」かどうかという問題にすりかえています。従軍慰安婦問題を否定したい論者のほとんどが用いる手法です。
米下院決議121号の表現である"officially commissioned the acquisition of young women"や"forced military prostitution by the Government of Japan"という論点で見れば、これらは河野談話当時には既に資料的にも明らかな事実でした。
そして河野談話の内容も、概ねこれと同程度(あるいはそれよりは低いレベル)の事実認識です。

河野談話1993)
慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

河野談話は当時判明していた事実に即した最低限の表現と言えます。
「事実の有無については触れることなくお詫びを述べた談話」などではありません。

 河野談話はその後日本がいわゆる「従軍慰安婦」問題において非を認めた証拠として用いられることとなり、数多くの非難決議が繰り返されることとなる。これは歴史において何があったかということよりも、主張する声の大きいものを重視するものであって、歴史を修正しようとする典型であると言える。

http://blog.livedoor.jp/patriotism_japan/archives/51872144.html

河野談話は日本が従軍慰安婦問題で非を認めた証拠であると同時に、幾多の証拠から日本が非を認めるべき事実を認めざるを得なくなった結果でもあります。
戦時中の史料、関係者証言などから明らかな事実があり、その事実の前に日本政府は非を認めて河野談話を出し、河野談話が日本が非を認めた証拠となったわけですが、この順序が理解できない人が否定論者の中にはたくさんいます。

性産業との対比

「軍人のための強制売春の構造を国家システムの中に組み込んだこと」

などと大層な表現を用いているが、これは、国が民間業者の慰安婦宿の経営を認め、慰安婦が適正な環境下で売春できるように業者に健康診断などを義務付け、それがなされていない業者に指導を行ったという程度のものでしかない。これが「強制売春を国家システムの中に組み込んだ」のであれば、吉原などを個室付浴場を建築することができる商業地域に指定し、許可制で個室付浴場の営業を認め、不適正な業者に指導や検挙をもって臨んでいることは間違いなく「強制売春の構造を国家システムの中に組み込んだ」ことになろう。

http://blog.livedoor.jp/patriotism_japan/archives/51872144.html

私が「軍人のための強制売春の構造を国家システムの中に組み込んだこと」と表現したのは、米下院決議121号の"the `comfort women' system of forced military prostitution by the Government of Japan"という表現が念頭にあったのですが、件の下院決議をまともに読んだことも無い人には理解できなかったでしょうね。

さて、性産業との対比も否定論者がよく使う詭弁です。多くの場合、事実関係について種々のすりかえが行われますが、この記事も多分に洩れません。


×「国が民間業者の慰安婦宿の経営を認め」
○「国が民間業者に軍隊用売春施設の経営を持ちかけ」


×「慰安婦が適正な環境下で売春できるように業者に健康診断などを義務付け」
○「将兵が買春する際に性病を罹患しないように業者に慰安婦の性病検査などを義務付け」


さらに基本的に、業者には価格設定の権利なく、慰安婦には廃業の自由がありませんでした。まさに「軍人のための強制売春の構造を国家システムの中に組み込んだ」わけです。

性産業に関してですが、吉原などに見られる売春施設における違法な売春行為が事実上、警察に黙認されていることは法治国家として問題がありますね。しかし、そういった売春施設を警察官専用として政府が積極的に誘致すれば、その場合の問題は前者の比ではありません。
違法な売春を黙認する消極的な行為と公務員専用の売春施設を誘致する積極的な行為が、同じに見えるのであればよほど目が歪んでいるのでしょう。

日本の警察が違法な売春施設を黙認していることも、日本政府が公務員専用の売春宿を誘致することも、共に問題ある行為ですが、前者と後者では問題のレベルが全く異なります。
こういった違いは少し考えれば容易に気付くことですが、従軍慰安婦否定論者が性産業を対比させる目的は矮小化にあるため、気付かない振りをしてデマをばら撒くわけです。