(産経新聞七つの誓い)一、政府が利用できる個人に対する誹謗中傷は許さない、政府を批判する個人に対する誹謗中傷は大歓迎
残り六つは知りません。
2006年4月22日の産経抄
いったい誰が陰湿な妨害工作をしているのだろう。北朝鮮の工作員に拉致された横田めぐみさんの父母を支援する人々を電話で脅し、脅迫状を送りつける。卑劣な匿名者だから、支援者は見えない影におびえることになる。
▼めぐみさんを撮影した父、滋さんの写真展の開催を予定していた札幌市の丸井今井札幌本店が、脅迫状を受けて会場の提供を辞退した。「客に危害が加えられる恐れがある」と、警察と相談してやめた。苦渋の決断だろうが残念だ。支援グループあさがおの会はやむを得ず別の会場で開催する。
▼脅迫は鎌倉市を中心に活動する「劇団てんびん座」にもあった。劇団は父、滋さんと母、早紀江さんらを題材に、五月三日から「この手に…横田めぐみを想う」を上演する予定だ。代表の森木エリ子さん(55)が、子をもつ親として「何かで声を上げなければ」と決意した。
▼台本は数日で書き上げた。事件を風化させてはならないと、世論を喚起する内容である。それがこの一カ月前から、「上演したらどうなるか分からんぞ」と、匿名の電話やメールが入るようになった。すでに二十件あまり。犯人らは国民が一致して拉致事件の解決にあたるのがよほど気に食わないらしい。
▼陰険でいやな根性だ。気に食わない表現や言論を封じる“暴力”は、以前にもあった。ジャーナリストの櫻井よしこさんの講演会に横ヤリがはいったり、上坂冬子さんの憲法講演が突然キャンセルされたりした。こちらは「平和」だの「人権」だのを唱えるグループによるものだ。
▼森木さんらは圧力をはね返して何とか上演する考えだ。改めて、横田さん夫妻ら拉致被害者家族が歩んできた長く孤独な闘いの日々の壮絶さ、一途さを想(おも)う。
被害者家族などの個人に対する、嫌がらせ、中傷が卑劣な行為であることは確かです。
しかし、このコラムのほぼ2年前、2004年4月16日のコラムでは以下のように述べています。
2004年4月16日の産経抄
イラク人質被害者の家族が、十四日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見したところ、厳しい質問を受けたという。「自衛隊撤退を要求していたが今も同じ立場か」「どの政党を支持しているのか」などなどと。
▼家族はしばし沈黙し、「安否にかかわるような質問は避けてほしい」と答える場面もあったという。外国メディアの記者が厳しい質問をしたのは、「自己責任の原則」をこの事件の前提として考え、“甘えるな”と戒めているからだ。同時に、家族たちの思想的背景や環境を知りたいからだったろう。
▼ところが日本のマスコミはそうではない。十五日もある新聞は「人質の家族/これ以上苦しめるな」と題した社説を掲げた。家族の元には“嫌がらせや中傷”の手紙や電話がどっと舞いこんでいるからだという。しかしそらぞらしいというか、見当違いというか、おかしな社説である。
▼なぜなら家族の元に全国から“意見”が殺到した責任の半分は、そういう新聞自身にあるからだ。再三の退避勧告を無視してイラク入りした三人の無分別にまるで反省がない家族の言動を、テレビや新聞はたしなめるどころか一緒になって政府を批判していた。
▼視聴者や読者の反応を確かめてごらんなさい。ほとんどの人が強い不快感や違和感をおぼえている。家族の言動を助長していたのは、テレビのキャスターやコメンテーター、そして一部新聞の情緒的な社会面作りだったのである。
▼家族への抗議には確かに心ない嫌がらせや中傷もあろうが、しかしその言動をたしなめる声も多く含まれているはずだ。そこで「ご迷惑を深くおわびします」というふうに改まってきたのだろう。三人はようやく解放されたが、示唆することは多い。
産経新聞にとって政府を批判するような家族に対しては、嫌がらせ、中傷行為が認められるようです。