身内に足を引っ張られて満足な補償が出来なかった場合、足を引っ張った身内ではなく不十分な補償を拒絶した相手に切れるのは正しいのか?

この件。

「韓国の強硬姿勢に絶望」 アジア女性基金の元理事

2014.8.31 17:02 [日韓関係]
 慰安婦問題をめぐり、元慰安婦に償い金を支給した「アジア女性基金」理事を務めた大沼保昭明治大特任教授は韓国メディアとの会見で、同問題が「極度に政治化している」と指摘し、強硬な姿勢を示す韓国側に「失望し、ひいては絶望している」と苦言を呈した。
 日韓記者交流の一環で来日した韓国報道陣に語ったと聯合ニュースが31日報じた。
 大沼氏は、朴槿恵大統領がこれまで以上の謝罪要求を続ければ、日本社会で受け入れられる解決策を日本政府が提示するのは難しいとの認識を示した。
 また、韓国の支援団体が慰安婦問題を「韓国で根深い反日問題の方向に曲げた」と批判、「元慰安婦の幸せや置かれた状況に関する問題ではなく、支援団体の正義を実現するためのものにすり替わった」と指摘した。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140831/kor14083117020004-n1.htm

私自身は、アジア女性基金をそれなりに評価しています。アジア女性基金慰安婦問題、特に韓国人慰安婦問題を解決できなかったのは、アジア女性基金当事者たちの問題というより、日本政府・日本社会が、慰安婦問題を解決させるための十分なリソースをアジア女性基金に与えなかったためだと考えてます。
その不十分なリソースという逆境の中で、アジア女性基金当事者たちはベストではなくとも、少なくともベターと言える対応をしてきたと評価しています。ただそのリソースがあまりにも少なかったため、韓国における慰安婦問題を解決することはできなかった、という評価です。

しかしながら、アジア女性基金がいかに善意で行動したとしても、それは日本全体から見れば一部の行為にすぎません。日本政府があくまで法的責任や国家賠償を認めず、そればかりか、“総理の手紙”を元慰安婦に手渡すにあたって首相本人が直接渡すことすら拒絶し、自民党を中心とする100人以上の議員が慰安婦を売春婦呼ばわりする議連に参加し、右翼メディアが元慰安婦らをバッシングした、その姿も日本の行為の一部です。

海外から日本の行為を見た時、アジア女性基金の「善意」だけを「日本の姿」として見てくださいというのはあまりにも手前勝手な理屈です。その「善意」の足を引っ張ったのも「日本の姿」なのですから。
結果として海外からは、「善意」を出し渋り、陰口で侮辱する姿が、総体としての「日本の姿」であったわけです。
これを拒絶した韓国の元慰安婦や支援団体を責める資格は日本にあるのでしょうか?
アジア女性基金の当事者は、なぜ自身らの「善意」の足を引っ張った日本政府を責めずに、出し渋られた「善意」を拒絶した韓国の支援団体を責めるのでしょうか?

まして、河野談話ですら無効化し、慰安婦問題を否認しようと画策を続ける安倍政権下において、その安倍政権の教条的宗教的な強硬姿勢を責めることなく、むしろ所与のものとして受け入れ、韓国側にも受け入れさせようとするのは、どう考えても間違っていると思います。

大沼氏はアジア女性基金当事者の一人としては可能な限りの「善意」を尽したのかもしれません。しかし日本人の一人としては「善意」を出し渋ったのです*1
それを理解していれば、記事のようなことは言えないと思うのですけどね。

*1:それは私も含む日本人全てに言えることですが。