「抗日宣伝、歴史観を統制 史実逸脱の演出/英雄やゆを排除 中国(2015年8月29日05時00分)」の件。
この記事は二つの話題について述べていて、一つが映画「カイロ宣言」のポスターの件、もう一つが抗日英雄を誹謗したブロガーを処罰*1した件です。
最初に抗日英雄を誹謗したブロガーを中国政府が処罰した件ですが、誹謗の内容にもよりますが基本的に言論の自由の観点から非難されるべきことです。
誹謗の内容によるというのは、揶揄された「狼牙山五壮士」の一人葛振林氏は2005年まで存命で、おそらく遺族も健在であろうことを考慮すると内容によって名誉毀損になる可能性がありうるからです。その辺、朝日記事からは判断できませんでしたので留保しています。
もう一点の映画「カイロ宣言」の件ですが、これあくまでもポスターや予告編で、毛沢東が目立つことを揶揄する中国語圏ネット民の反応がベースでそれが広がったような状況です。
そのネット民の反応のひとつに「毛沢東がカイロ会談に出たという映画か」というものがあって、日本のネット民がそれを真に受けて、「毛沢東がカイロ会談に出席したという内容だそうです。」*2とか「あからさまな中国による歴史歪曲」*3とか言ってるわけですけど、少なくとも「世界反ファシズム戦争勝利70周年記念映画「カイロ宣言」のキャスト発表」「《開羅宣言》演員陣容曝光 劉嘉玲飾演宋美齡圖」の記事を読む限り、毛沢東がカイロ会談に出席した、と言う内容では無さそうです。
世界反ファシズム戦争勝利70周年記念作品
世界反ファシズム戦争勝利70周年の今年は、記念の映画などが次々に発表されている。映画「カイロ宣言」では、1943年に開かれたカイロ会談で「宣言」が示される前後のエピソードを描いている。現在の絶え間ない国際紛争や政治問題の多くは、「カイロ宣言」を端に発しており、それらのエピソードは歴史的意義だけでなく、現在でも大きな意義を持っている。その他、暗号解読専門家・石剣鋒(胡軍)をめぐるストーリーも展開される。石剣鋒が解読した暗号電報は同映画の中で重要なポイントとなるほか、悲しい日本人妻とのラブストーリーも見どころだ。「家族」と「国家」のエピソードが絶妙に入り混じった同作品に期待が高まっている。
http://j.people.com.cn/n/2015/0727/c206603-8926578.html劉嘉玲が宋美齢役に挑戦 毛沢東はおなじみの唐国強
劉嘉玲が挑戦したのは中華民国時代のファーストレディ・宋美齢。映画ファンにとってはまさにサプライズだ。劉嘉玲は同作品で、美しさと共に、迫真の演技も見せている。特に、カイロ会議開催中、他の国の指導者と「夫人外交」を展開する宋美齢を演じる際には、抜群の演技力を見せている。中国の毛沢東主席を演じるのは、「江山如此多嬌」や「辛亥革命」、映画「毛沢東」などでも毛沢東を演じた唐国強だ。(編集KN)
蒋介石は馬曉偉が演じており、蒋介石、宋美齢、宋慶齢、毛沢東と言った政治的な関連が、主役としての胡軍、韓雪のストーリーを中心に描かれている映画だと予想できますね。少なくとも、「毛沢東がカイロ会談に出席したという内容」とはちょっと思えません。
ちなみに、史実としてのカイロ会談ですが、中共やソ連が関連していないわけではありません。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11937045.html抗日宣伝、歴史観を統制 史実逸脱の演出/英雄やゆを排除 中国
2015年8月29日05時00分
問題は、披露されたポスターには中国を代表してカイロ宣言に署名した国民党の蒋介石の姿がなく、ルーズベルト米大統領やチャーチル英首相と同じように大写しになっていたのが、会議に出ていない共産党の毛沢東とソ連のスターリンだったことだ。台湾メディアによると、これを知った台湾の馬英九(マーインチウ)総統(前国民党主席)は「とんだお笑いぐさだ」と批判した。
カイロ会談に参加したのは、アメリカ、イギリス、中国ですが、元々ソ連は米英との会談で、中国が米英ソ三国に加わることに否定的で、結局米英中三国のカイロ会談と米英ソ三国のテヘラン会談に分かれた経緯がありました。
1943年当時の連合国内部の政治的な動きを捉える場合、ソ連を外しては物語として成り立ちませんから、映画のタイトルが「カイロ会談」だからと言ってカイロ会談に参加した国に限定されて当然という思考は少し理解しがたいですね。
また、中共はカイロ会談の存在すら知らなかった、的な主張も見受けますが、現実的にそれはありえないでしょうし、カイロ会談では中共の影響が無視できない状況であったのも確かです。実際、蒋介石はカイロ会談で、アメリカ側から国民党軍が中共包囲に兵力を割いていることを批判され、また国共統一政府を求められています。
当時、中共は延安にアメリカの調査団を迎え入れ、かなり友好的な関係を築いています。業を煮やした蒋介石は、アメリカ大使館員を「共産党の手先」呼ばわりするくらいの状況でした。そのあたりを踏まえると、カイロ会談が中共と全く無関係に行なわれたわけではないというのは、さほど難しい話でもありません。
少なくとも映画として、毛沢東が出てきても「あからさまな中国による歴史歪曲」だとかいう話でもありません。
「抗日宣伝、歴史観を統制 史実逸脱の演出/英雄やゆを排除 中国(2015年8月29日05時00分)」の記事に書かれた映画「カイロ宣言」については、せいぜいポスターのレイアウト程度の問題で、ネット民以外が大騒ぎして取り上げるようなことでもないでしょう。