デモで安倍政権の傲慢さは変えることはできないだろうけど

デモは市民の政治参加の重要な手段の一つであると私は考えています。
立法院を占拠するという実力行使を伴った台湾のデモや繁華街の路上を長期占拠した香港のデモであっても、市民の政治表明の手段としては尊重すべきです。厳密に言えば違法行為になるであろう立法院占拠を行った台湾のデモであっても、当局側はあからさまな実力排除を避けデモ隊との交渉をしましたし、民主主義とはとてもいえない香港当局も同じような対応を取り、少なくとも話し合いに応じようとする姿勢は見せていました。

安倍政権は最初から交渉にも話し合いにも応じる姿勢を見せていませんから、対応としては香港当局以下ですが、マスコミに圧力をかけ批判を封じるだけの権力を握ってる以上、また、安倍晋三という個人の性格的にも予想できたことではあります。

安保デモ「大きな誤解」=菅官房長官

時事通信 8月31日(月)12時13分配信
 菅義偉官房長官は31日午前の記者会見で、安全保障関連法案に反対する大規模デモについて「一部の野党やマスコミから戦争法案だとか徴兵制の復活などの宣伝もされ、大きな誤解が生じていることは極めて残念だ。政府として、誤解を解く努力をしっかり行っていきたい」と述べた。
 同法案に関しては「国民の声に耳を傾けながら、国民の生命と平和な暮らしを守ることは、国としての責務だ」として、成立を急ぐ考えに変わりのないことを強調した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150831-00000055-jij-pol

法案の不備と違憲性、法案に示唆されている安倍政権の方向性に対し、いくら指摘されても、「誤解」だと強弁し、「誤解を解く努力をしっかり行っていきたい」と言いながら、“政府が総合的に判断”とか“法理論上できるがやるつもりはない”とかの呪文を唱えるだけですからねぇ。

先の選挙で株価と増税先送りに目が眩んで悪魔に魂を売った有権者が愚かだったとしか言いようがありませんが、市民の政治参加は選挙に限られているわけでもありませんのでこういったデモは重要です*1

参議院の58%、衆議院の68%の議席数を抑えている自公政権を止めることは出来ない

正直言って、安倍政権の戦争法案を阻止できる可能性は現状ほとんどありません。そんなことは前回の選挙時点でわかりきったことでしたから、個人的には今さら感はあります。
現時点で阻止できる可能性は10%も無いでしょうが、わずかながらあり得る事態としては、
1.公明党が「平和の党」の本分を思い出して、反対に転じる可能性
2.デモ隊が国会に進入し議事堂を占拠して審議・決議を物理的に阻止する可能性
3.自民党公明党議員が良心に従って反対票を投じる可能性
の3つくらいです。
3つ目の自公議員が反対票を投じる可能性は現実的に皆無です。彼らに良心はありませんから。
2つ目の議事堂占拠は、日本のデモ隊は諸外国に比べてお行儀が良い点と日本の国会は諸外国に比べて警備が厳重である点を考慮すると実現性としてかなり難しく、政権に懐柔されたメディア・論者の多い日本では、一方的に占拠したデモ隊が叩かれることが予想され、台湾や香港のような民衆の支持が得られないでしょうから、これもまた難しいでしょう。
1つ目の公明党が反旗を翻す可能性が上記3つの中では最も期待できますが、この期に及んでもなお沈黙し戦争法案成立への動きを黙認している創価学会上層部を見る限り実現性は低いと言わざるを得ません。

そんなわけで結局この法案は参院衆院いずれであっても強行採決で成立するでしょうね。
憲法違反だと指摘されている内容についても、現実的には訴訟自体起こすことが制度上困難で、裁判所自体も憲法判断を回避する傾向が強いため、実施的に違憲立法審査権は機能しないでしょう。また、仮に地裁・高裁レベルで違憲判断が出たとしても、政府が間違いなく最高裁まで抵抗するでしょうから、判決が確定するまでは何年もかかります。
訴訟を起こすには戦争法に従って戦闘に巻き込まれ殺傷されるなどの具体的な損害が発生することが条件*2ですから、提訴から最高裁判決までの少なくとも数年間は違憲状態での損害が放置されることになります。
裁判所としては、裁判に何年もかけた挙句、その間に損害が放置されてきたことを考慮すると、その時点で今さら違憲と判断することはハードルが高すぎるとも言えます。裁判所がモタモタしている間に新たな犠牲者が出るような状況では尚更です。結果として違憲判断が回避される可能性が高いわけです。

実際問題としては日本において違憲立法審査権という概念は制度上存在するが利用できないマボロシだと言った方がいいでしょうね。
まあ、仮に戦争法案成立後10年経ってから違憲だと判決が出ても、その間の既成事実を考慮すればどうやって元に戻すのか、と言う話になりますしね。

成立以降

まあ、もうひとつ考えられるのが、再度政権交代によって戦争法を廃止する法案を通す可能性ですがこれもほぼ実現性は薄いでしょうね。次の選挙は参議院選挙ですが、そこで野党が勝って自公が敗れても、また“ねじれ国会で決められない政治”とか“何でも反対の野党が悪い”とかのプロパガンダが安倍政権に阿る産経・読売あたりから出るでしょうし、そうなると衆院選でも勝つのはかなり難しくなるでしょう。
その困難を乗り越えて政権交代が出来たとしても、圧倒的な議席数を持たない限り、民主政権時代の野党自民党と野党産経新聞による激しい誹謗中傷妨害行為が予想されますから、戦争法廃止を優先課題と出来るかどうかが疑問です。また、sengoku38事件のように、自民党寄りの右派的性質を持つ自衛隊海上保安庁辺りが、内部から政権崩壊をもくろむ動きもあるでしょう。
現状、自由民主党を名乗る政治集団は中国共産党と大差ない強権的な中央集権政治を確立していますので、政権交代の可能性自体ほぼありえませんけどね。

デモによって何か変わるのか

自民党と名乗る排他的政治集団に圧倒的な議席数を付与してしまった以上、自民党が望む法案は憲法違反であろうと強行採決で成立させられますし、ヘイトスピーチ規制法のように自民党が望まない法案は表面上の態度はどうあれ成立させられないわけです。あとはせいぜい自民党内で調整できない場合くらいですね。

ではデモで何が変わるのか。
・平和的な穏当なデモをいくらやっても自民党政府は耳を傾けない
ということを民衆は今回の件で少しだけでも学んだでしょうね。
デモをせせら笑う論者がメディアに溢れてる現状についても多少は学んだかも知れません。

それで結局、デモに絶望して政治から遠ざかることを選択するか、訴える手法を変えていくのか、は個々人の選択でしょう。

訴える手法にしても、民衆に訴えるデモの効果はそれを受け止める民衆の民度によるわけで、現状の日本の民度では無理だと諦めて日本会議幸福の科学のように裏から政治家に手を回すようなやり方を選択するのか、台湾の立法院占拠のような実力行動を選択するのか、それ以外の手段を編み出すのか、それは色々あるでしょうね。

個人的には80年前に、強圧的な外交手段を容認し、そのおこぼれを甘受し、夜郎自大な排外主義思想を内面化していった国民であることを考慮するとあまり期待はしていません。少しは成長してほしいものですけどね。

*1:そもそも選挙自体、様々な制約に禄に論点整理すらされていない上、直近の選挙では安倍政権が露骨にメディアに介入・圧力をかけていたわけですからねぇ。

*2:市長らに義務を課す法案であることから市長らによる提訴もありえますが。