非改選自民党会派の井上義行議員を加算すれば自民は参院過半数になるよね

現在の状況です。

     改選数 非改選 合計 衆院議席
自民※1 55 66 121(50.0%) 290(61.0%)
自民   56 66 122(50.4%) 290(61.0%)
自公   70 77 147(60.7%) 325(68.4%)
改憲四党 77 85 162(66.9%) 339(71.3%)
改憲勢力 77 89 166(68.5%) --

※1:改選改憲勢力には当選後に自民が追加公認した無所属1を除く
※2:非改憲改憲勢力には、元気2、改革1、その他1を含む
※3:割合は小数点2桁以下切捨。
衆院議員議席数は平成28年6月22日現在の議席数を参照。
参院議員議席数は平成28年7月10日現在の議席数を参照。

参議院サイトの自民党会派では非改選議席数は66と記載されています。一方で各種報道では自民党の非改選議席は65議席とされ、自民党参院単独過半数122議席を満たすには改選57議席が必要だとされていました。2013年参院選挙での自民党改選議席数は65(選挙区47、比例18)でしたが、現在の参議院サイトの自民党会派では比例が19人であり、みんなの党で比例当選した井上義行議員が追加されています。
この井上議員を考慮すれば、自民党参院非改選が66、今回の改選で得たのが56(追加公認含む)ですから合計で122議席となり過半数となります。

自民党は衆参両院での単独過半数獲得を達成しました。自民・公明・お維・こころの改憲四党で衆参両院の3分の2獲得も達成しました。ただしいずれもギリギリです。
改憲に親和的な議員を含めるとやや余裕が生じます。
正直、自民がもう少し勝つかと思っていましたので、この程度で済んだのは意外でした。

   終盤予測 改選合計 予測中心からの差
自民 56(52〜60) 55 −1
公明 14(12〜15) 14 ±0
民進 30(25〜35) 32 +2
共産 7(5〜10) 6 −1
お維 8(4〜10) 7 −1
社民 1(0〜2) 1 ±0
生活 0(0〜1) 1 +1
こころ 0(0〜1) 0 ±0
改革 0(0〜1) 0 ±0
諸派 0(0〜1) 0 ±0
無所属 5(3〜6) 5 ±0

(当選後に自民が追加公認した無所属1を除く)
参照:http://senkyo.yahoo.co.jp/(2016/7/11 )
参照:改憲4党、3分の2に迫る 朝日新聞・参院選情勢調査(2016年7月7日05時03分)

終盤予測の予測中心からすると、自民がやや鈍り、民進が健闘しています。一人区や接戦区で民進党が激戦を制したところがやや多かったように思いますので、その影響かも知れません。その他、現職大臣2名が落選しました。沖縄の自民落選は予想出来ましたが福島までは予想していませんでしたので大きいですね。

改憲動向

もし一人区での野党共闘が成立していなければ、あと9議席程度が自民にわたっていた可能性が高く、その場合改選四党で170議席に達していた可能性がありますからよくここまで抑えたものだと思います。
安倍政権は改選四党で162議席を得たものの改選発議要件ギリギリですから、発議しにくくなったのは確かでしょう。

公明党改憲反対だから改憲はない”みたいな主張も見かけましたが、公明は明確に反対してはいません。“加憲”という体裁さえ繕えれば、さほど抵抗したりはしないでしょうね。とは言え、現状では与党系で改憲発議するには公明党の必須ですから、それなりに吹っかけることが出来ます。
そこで安倍政権の動きとして懸念されるのが、民進党内の改憲勢力の取り込みです。

参院選開票日直前に楊井氏がこんなことを主張しています。

<視点>党議拘束を前提とした「数の論理」でよいのか

憲法改正権力は国民にある。国会の勢力図によって決まるものではない。いくら国会で「3分の2」で改正の発議をしても「提案」できるにすぎず、国民投票過半数が賛成しなければ実現しない(日本国憲法96条)。
憲法改正問題は本来、超党派で議論すべき事柄であるのに、「改憲勢力が3分の2を取るか」にこだわってよいのか。党派的な「数の論理」を持ち込めば、党派を超えた議論の基盤を損なうのではないか。そのことをメディアは自覚しているだろうか。
(略)
そもそも「3分の2を取る/取らせない」という発想は、政党の「党議拘束」を前提としている。本来超党派で議論すべき問題なら「党議拘束」を外して各議員の良心にしたがって採決すべき、という議論が出てきてもよい。「党議拘束なし」を前提とすれば「3分の2」を取ってから議論をスタートさせる、という発想は出てこないはずである。「3分の2」はあくまで超党派の審議、熟議の末のゴールにすぎなくなる。(*5)
与野党ともに「党議拘束」を前提とした「数の論理」に拘泥すればするほど、「3分の2」vs「3分の1」の攻防が先鋭化し、再び不毛な論議に陥るおそれがある。そうした危険性に警鐘を鳴らすでもなく、むしろ率先して「数の論理」に加担するメディアの罪は、あまりにも大きい。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20160708-00059681/

要するに改憲発議にあたって“党議拘束をかけるな”という主張ですが、これが民進党に向けられた言葉だとすれば、安倍政権による改憲民進党の議員は協力せよと呼びかけてるとも解釈できます。党議拘束のない状態で民進党参院議員から10人程度の賛同者が見込まれるなら、自民党改憲原案作成において必ずしも公明党に配慮する必要が無くなります。

改憲への道筋

現時点で、改憲原案を発議できるのは自民党だけです(衆院なら100人以上、参院なら50人以上)。しかし現状では3分の2の賛成を得て国会を通すため、おそらくは超党派の形式にするでしょうから、そこに公明党やおおさか維新などを共同提出者として入れ込んでくるでしょうね。安倍政権としてはここに民進党議員などを取り込みたいはずです。参院選後に民進党の組織が緩めば、そこにつけこんでくる可能性が高いですね。
仮に民進党議員まで巻き込んだ形で改憲原案が発議されれば、憲法審査会で実質的な議論を期待するのはかなり難しくなります。改憲勢力のみで改憲原案が出されれば、戦争法審議のような激しい質疑が期待できますが、いずれにしても2015年夏のように強行されれば国民投票までは避けられないでしょう。
但し、あまりにも拙速・強行さが目立つような発議では、肝心の国民投票で反発を食らう恐れがありますから、やはり民進党の切り崩しが安倍政権にとっての正攻法でしょうね。

「野党は建設的な議論を」という詐術

民進党議員を取り込めれば、憲法審査会も本会議もほとんど儀式的なものになりますし、国民投票でも“野党第一党も賛同”したことを旗印に大きな反発を避けられるでしょう。公明党にしても、改憲の責任が自らに降りかかることを回避できるいい隠れ蓑になります。改憲反対派の矛先を民進党に向けさせれば良く、安倍政権はこの3年間、その手法で責任を他者に押し付けてきましたから手慣れたものでしょう。
改憲反対の野党は、自民党が2012年改憲案を取り下げるか検討に値する案に修正しない限り、検討の価値なしと一蹴すべきで、今のところはその姿勢をとっています。改憲反対の市民は、野党のその姿勢を支持し、支えるべきでしょうね。

「政治の技術」

結構、怖い話です。

首相「憲法改正自民党案をベースに」

2016/7/11 14:46
 安倍晋三首相(自民党総裁)は11日、参院選を受けて党本部で記者会見し、憲法改正について「わが党の案をベースにして、どう3分の2を構築していくかが、政治の技術だ」と述べ、野党時代につくった自民党草案をもとに議論を主導する考えを表明した。
 改憲論議にあたっては衆参両院の憲法調査会で議論を進めるべきだとの認識を強調した。野党第1党の民進党の姿勢に関し「安倍政権の間は憲法改正をしないと岡田克也代表は言っているが建設的な対応とはいえない。好き、嫌いではなく子どもたちのために真剣に議論していくべきだ」と話した。
(略)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK11H2R_R10C16A7000000/

自民党単独では3分の2になりませんから、改憲には他党の協力が必要です。この場合、公式には改憲を渋っているとされる公明党が鍵になりますが、“改憲には公明党が必須”という状況は交渉において自民に不利になります。それを避けるためには、公明がいなくとも改憲が可能であると見せつけ、公明を焦らせ改憲賛同へのハードルを下げさせる必要があります。安倍政権が民進党改憲議論に引きずり込もうとするインセンティブがここに生じます。上手く主導権を取れれば、自民党改憲案をベースとした改憲発議へとつながります。安倍首相はそれを「政治の技術」と呼んでいるわけです。

これに対抗するには、民進党が“自民党改憲案ベースでは議論できない”と突っぱね続けることですし、改憲反対の市民がそれを支援していく必要があります。公明党支持者も、もし民進党改憲議論に積極的に加わった場合、与党内部での公明党の存在価値が著しく低下することを理解しておくべきでしょう。