前回の「「書面による取決め」は養育費の支払い率を向上させる」という記事では、取り決めの有無によって、養育費の支払率が格段に変化することを示しました。取り決めが無ければ、ほとんど0%だった支払率が取り決めがあると50%程度に上昇し、支払皆無率(「受け取ったことがない」割合)は、取り決め無しでは86%だったものが、取り決めありでは19%まで低下しています。
この傾向は、協議離婚でもそれ以外でも変わりません。
では、面会交流についてはどうでしょうか。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/dl/h23_19.pdf表18−(2)−7 母子世帯の母の面会交流の実施状況(離婚の方法別)
総数 協議離婚 その他の離婚 面会交流取決あり総数 協議離婚 その他の離婚 総数 1332(100.0) 1106 (100.0) 226 (100.0) 312 (100.0) 203 (100.0) 109 (100.0) 現在行っている 369 (27.7) 321 (29.0) 48 (21.2) 125 (40.1) 95 (46.8) 30 (27.5) 過去に行ったことがある 234 (17.6) 189 (17.1) 45 (19.9) 59 (18.9) 34 (16.7) 25 (22.9) 行ったことがない 677 (50.8) 554 (50.1) 123 (54.4) 119 (38.1) 71 (35.0) 48 (44.0) 不詳 52 (3.9) 42 (3.8) 10 (4.4) 9 (2.9) 3 (1.5) 6 (5.5)
まず、取り決めの有無によって比較してみましょう。
面会交流取決有無 | あり | なし |
---|---|---|
総数 | 312 (100.0) | 1020 (100.0) |
現在行っている | 125 (40.1) | 244 (23.9) |
過去に行ったことがある | 59 (18.9) | 175 (17.2) |
行ったことがない | 119 (38.1) | 558 (54.7) |
不詳 | 9 (2.9) | 43 (4.2) |
面会交流についても養育費ほど顕著ではないものの、取決めがあれば面会持続率(「現在行っている」割合)は増加する傾向が見られます(23.9%→40.1%)(養育費の場合は、1.2%→50.4%)。親子断絶率(「行ったことがない」割合)も、取り決めによってやや減少する傾向(54.7%→38.1%)が見られますが、これも養育費ほど顕著ではありません(養育費の場合は、86.0%→18.7%)。
協議離婚以外(調停・裁判)の場合
面会交流取決有無 | あり | なし |
---|---|---|
総数 | 109 (100.0) | 117 (100.0) |
現在行っている | 30 (27.5) | 18 (15.4) |
過去に行ったことがある | 25 (22.9) | 20 (17.1) |
行ったことがない | 48 (44.0) | 75 (64.1) |
不詳 | 6 (5.5) | 4 (3.4) |
協議離婚の場合
面会交流取決有無 | あり | なし |
---|---|---|
総数 | 203 (100.0) | 903 (100.0) |
現在行っている | 95 (46.8) | 226 (25.0) |
過去に行ったことがある | 34 (16.7) | 155 (17.2) |
行ったことがない | 71 (35.0) | 483 (53.5) |
不詳 | 3 (1.5) | 39 (4.3) |
養育費の場合と違って協議離婚かそれ以外かによって面会持続率も親子断絶率も異なっており、協議離婚以外では取り決めの有無に関わらず面会持続率は低く、親子断絶率は高い傾向にあります。取り決めによって、いずれも若干改善(10〜20%)はしていますが、養育費ほどの劇的な改善(50〜60%)は見られません。
特異な点としては、協議離婚以外の場合で「過去に行ったことがある」割合が、取り決めの有無によって10%程度の差があることです。これは協議離婚では見られません(養育費では見られます)。
これは、協議離婚以外では父母間で高葛藤である傾向が強く、取り決めが履行されにくいことを示唆していると言えるでしょう。
これを改善するためには養育費の場合と異なり、面会交流の取り決めを行うだけでは不十分であり、父母間の高葛藤を改善する必要性があります。しかしながら、こういった高葛藤の父母をカウンセリングなどで改善させる機能を持つ機関が日本には存在しません。強いて言えば夫婦間の「円満調整」も行う家庭裁判所の調停委員会が、その機能を持っていると言えなくもありませんが、充分に機能してるとは言えないでしょう。
そこで親子断絶防止法案の第10〜12条あたりが意味を持ってきます。
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20161022/1477161464(人材の育成)
http://nacwc.net/files/houbun.pdf
第十条 国及び地方公共団体は、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に寄与する人材の確保及び資質の向上のため、必要な研修その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
(調査研究の推進等)
第十一条 国及び地方公共団体は、父又は母と子との面会及びその他の交流の実施状況等に関する調査及び研究を推進するとともに、その結果を踏まえて、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策の在り方について検討するよう努めなければならない。
(国の地方公共団体に対する援助)
第十二条 国は、地方公共団体が行う父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策に関し、必要な助言、指導その他の援助をすることができる。
反対派の方でこういうことを言っている人がいるんですが。
法律で面会交流を強制する前に、その問題に向き合うためのカウンセリング制度だったり、間に入ってきちんと仲介するしくみだったりを確立していくことのほうが先なのではないかと思っています。
http://ameblo.jp/terueshinkawa/entry-12213589179.html
そういう制度・仕組みを作るための根拠法になりうるという視点は無いみたいで残念です*1。
*1:そもそもいかなる場合でも面会交流を強制するというような条文でもないのに・・・