この件。
不当な養育費不払い、氏名公表する新条例 明石市が検討(9/18(水) 20:29配信 朝日新聞デジタル)
「養育費不払いなら名前公表」 全国初の制度検討 兵庫 明石(2019年9月18日 14時20分 NHK)
私は事件報道の被害者・加害者の氏名公表にも基本的に反対*1ですので、氏名公表がどのような形で行われるのかにもよりますが、基本的には、相当悪質な不払いケースについては賛成です。
ちなみに許容できる公表の仕方は、役所の掲示板に紙で貼られる形式くらいで、ネット上で検索できるような形式ならば反対です。
また、相当悪質なケースというのは「裁判などで養育費の金額が確定しているケースで」あることはもちろん、病気や失職などで収入が減少している場合は当然対象から除外、面会交流を不当に妨害するなど債権者側の言動に相当問題があるケースも除外、公務員や会社員など強制執行が可能なケースも基本的に除外した上で、残る、自営業などで十分な収入があり面会交流などで特に妨害も制限もなく養育費を拒否するその他の特段の理由がないケースくらいと考えています。
この場合、氏名公表が実行されるケースは極めて限定的になるでしょうが、要するに、棚村政行教授の言うような心理的効果として有用であろうという考えです。
一方で氏名を公表したことで、社会的なレッテルを貼られてしまい、結果的に養育費の支払いが途切れてしまう可能性もあると指摘し、「強制力やペナルティーが1人歩きしてはいけない。よほど悪質でないかぎり、心理的に支払いを促す程度に運用されるのが望ましい」と述べました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190918/k10012087311000.html
「子どもの成長を考えるうえでは『養育費』と『面会交流』は車の両輪」
とは棚村教授の言葉です。
そのうえで、「そもそも子どもの成長を考えるうえでは『養育費』と『面会交流』は車の両輪でどちらかだけではなく、バランスの取れた取り組みが欠かせない。養育費を受け取る側が子どもの状況を丁寧に伝えるなどすることで、支払う側も安心できるのではないか」と述べ、社会全体で取り組んでいくことが大事だと強調しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190918/k10012087311000.html
家裁では間接的な面会交流として月に3枚程度の写真の送付でよしとする判断が下されることもあります。“面会交流”という言葉の意味からも逸脱している写真送付が、日本では面会交流の一つとして認められています。欧米ではまず考えられません。
代理人弁護士の氏名公表もすべきでは?
で、悪質な養育費不払いで氏名公表するならば当然、悪質な面会交流妨害についても氏名公表するべきかなと思います。といってもこれも相当悪質なケースに限定すべきでしょうが。
ただ、それに加えて、養育費不払いにせよ、面会交流妨害にせよ、代理人弁護士がついている場合は、当事者の氏名公表よりも積極的に代理人弁護士の氏名公表をすべきではないかな、とも思います。
裁判で確定した養育費や面会交流を守らない当事者の代理人弁護士には、それ相応の責任があるでしょうし、そもそも一般人よりも法を尊重することが求められる立場でもありますから。
悪質な裁判所命令不履行の場合、代理人弁護士が実質的に指南していることもありますから*2、当事者よりも悪質性は高く、氏名公表も役所の掲示板に紙で公表とかではなくネット上で公表して構わないと思います。
そういったところも含めて条例化できれば良さそうに思います。
おそらく、集団として見た場合の効果は限定的
対象となった当事者に対する心理的効果としては機能するでしょうが、この施策によって養育費支払い率が改善するかというと、それは疑問です。
家族法に詳しい早稲田大学法学学術院の棚村政行教授は、「日本では養育費を支払っている人が全体のおよそ4分の1と、養育費を払えるのに払わないという人が多く、先進国の中では割合が低い。こうした状況の中で、明石市が氏名公表の措置を打ち出したのは画期的で評価できる」と述べました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190918/k10012087311000.html
記事では、養育費支払い率が「全体のおよそ4分の1」と書かれていますが、これ分母が「裁判などで養育費の金額が確定しているケース」ではありません。
以前、「「書面による取決め」は養育費の支払い率を向上させる 」という記事でも書きましたが、その後の平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告でも同様の傾向が見られます。
「表17-(2)-1 母子世帯の母の養育費の取り決め状況等」では、対象1817件に対して、養育費の取り決めをしているのは780件(42.9%)、さらに書面にて取り決めをしているケースとなるとわずか572件(31.5%)、さらに強制執行可能な文書となると455件(25.0%)にすぎません。
「表17-(3)-7 母子世帯の母の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)」を見ると、養育費の取り決めをしている780件中、養育費を現在も受け取っているのは416件(53.3%)、過去に受けたことがある場合も含めると616件(79.0%)に上ります。
明石市の想定しているケースは、養育費の取り決めをしていて「養育費を現在も受け取っている」ケースを除いた364件(「不詳」を含む)で、全体1817件のうちの20.0%程度にすぎません。
一方で、養育費の取り決めがそもそもないケースは1037件で、そのうち養育費を現在も受け取っているケースは26件(2.5%)に過ぎません。「不詳」を含めて受け取っていないケースは1011件に上り、全体1817件のうちの55.6%を占めます。この55.6%のケースは、明石市の想定しているケースの対象外です。
離婚後単親家庭の貧困という全体で見た場合、明石市の悪質な養育費不払い者の氏名公表という手段の効果が非常に限定的といわざるを得ません。
ちなみに上記は母子家庭の統計ですが、父子家庭の場合だと、全体308件中、養育費の取り決めをしていないのは244件、そのうち現在も養育費を受け取っているケースは0件です(「表17-(3)-8 父子世帯の父の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)」)。
ペナルティよりも取り決め率の向上が重要
これに尽きると思います。
子のいる夫婦の離婚の場合、離婚届に養育費や面会交流に関して取り決めた文書を添付しなければ受理しないという感じに民法改正すれば、それだけで取り決め率が100%に出来、養育費の支払い率も50%程度に向上することが期待できるんですけどね。