「「親子断絶防止法」はどう修正すべきなのか? 弁護士・打越さく良さんに聞く(1)(大塚玲子 | ライター、編集者、ジャーナリスト 、2016年11月22日 15時0分配信 )」の件。
打越弁護士の話は当初の親子断絶防止法反対派に見られたような全否定の態度ではないようですし、少なくとも冒頭に連れ去られ親に対する配慮を示している点は好感持てます。
とは言え、気になる点もいくつかありましたので、その辺書いておきます。
指摘していることは正しい面もあり賛同もできるのですが
現状の法案では、国がやることは情報提供くらいにとどまっています。ホームページやしおりを作って、「面会交流は大切ですよ、取り決めなさいよ」といった情報提供をするだけでは、あまりに無責任。面会交流が現時点ではとてもとてもできない子どもにもお仕着せがましいことにもなりかねません。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
勘ぐってしまうと、予算的な部分で、財務省を巻き込んでの折衝などが難しいから、あらかじめそういうところをあきらめちゃっていのるかもしれない。しかし、やるならもうちょっと、本気になってほしい。
家庭裁判所も、面会交流の事案がこれだけ増えて大変な状況というのに、ソフト面もハード面も脆弱な態勢のままです。
そんな事態なので、家裁も弁護士も一生懸命やっていても、試行面会がなかなかできなくてずっと先になっちゃったり。調査官もとても忙しいことは承知していますが、「調査、これだけで終わり?」と思うこともあります。
そこはもっと、調査官を増やすとか、各地に家庭裁判所を設けるとか、面会施設をそれこそ各市役所などアクセスしやすいところに作るとか。あとは、今の民間の第三者機関は全国津々浦々にあるわけでもないので、各市役所レベルで面会交流を仲介する部署や公的な機関を設けるとか。その利用は、無償ないし低廉にするとか。
いろんなことが構想されていいと思うんですけれど、そういう「お金がかかる・人もいる」ようなことは、具体的に考えられているようにはみえません。
という指摘はまあ、わかります。ただ「現状の法案では、国がやることは情報提供くらい」というわけではなく、例えば7条3,4や8条1,2で国や地方公共団体に対して「必要な情報の提供、助言その他の援助を行う」努力義務を課してもいます。まあ「その他の援助」の中身がわからないという批判はあるでしょうが、この条文を根拠としてさらに「その他の援助」の中身を法令などで具体化していくことで特に問題は生じないと思います。
「調査官を増やすとか」という指摘に対しては、法案第10条(人材の育成)で「人材の確保及び資質の向上のため、必要な研修その他の措置を講ずる」という努力義務がありますので、その点が打越弁護士に見落とされているようです。
また「「お金がかかる・人もいる」ようなこと」が具体的に考えられていない(から反対)的な批判が何箇所かありますが、例えばDV防止法でも第3条で「都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとする」とあるだけで、親子断絶防止法案と大差あるようには見えませんので、法案への反対理由としては弱いように思います。
家裁に「事実関係が否認され」たなら面会交流を求められるのは当然です
サポート以前に、スクリーニング(ふるいわけ)も必要です。子どもへの性的虐待があった場合にも面会交流しろ、とは誰も思わないでしょう。しかし実際には深刻な性的虐待のケースでも、事実関係が否認され、面会交流を求められる場合があります。丁寧なスクリーニングがないまま、当事者に取り決めを義務づけするのは、賛成できません。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
この手の主張はいくつか見かけましたが、「実際には深刻な性的虐待のケース」であるならば同居親側代理人弁護士がやるべきことはまず第一に、その事実の立証ですよね。
立証できなければ、面会交流をさせる方向で調整するのは当然としか言いようがありません。
犯罪行為が立証されないのに刑罰を科すのが間違ってるのと同様に、子に対する虐待の事実が立証できないなら子との面会交流が制限されるべきではありません。なぜ、この考えを弁護士が理解できないのかが不思議です。
言うまでもなく児童虐待は立証が難しいとかは理由になりません。疑わしきは罰せよ、などと近代国家としてはありえない判断は下されるべきではありませんし、そもそも“疑わしきは罰せよ”が、子を連れ去られた親に対してだけ適用されることも差別としか言いようがないんですよね。連れ去った側の親が虐待していないことも立証されていないわけですから。
スクリーニングの思考も、子を連れ去られた別居親に対してだけスクリーニングを行い、子を連れ去った同居親に対してはスクリーニングを行わないという点で差別です。
配偶者からの妨害なしに子に対する性的虐待を行うために連れ去った親が、別居親を虐待加害者として主張した場合、別居親だけをスクリーニングすればいいんですか?違いますよね?
あるべきスクリーニングとは本来、子の連れ去りが正当だったのか、という点でまず行われるべきでしょう。
平成23年に民法766条が改正されて、離婚時の協議事項に例示として面会交流や養育費があげられた上、協議にあたっては「子の利益を優先して」考慮しなければならない、ことになりました。(*1)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
ざっくりとした規定で、それまでの実務を踏襲するだけだと思っていたのですけれど、それでもわたしの感覚では、裁判所はものすごく「面会させろ」というようになってきた。「例外中の例外である」と立証しない限り、「面会させろ」と言ってくる。DVによりPTSDになっていて心身の状態がひどく悪い親にも、「それでもとにかく会わせろ」の一点張り、という感じなんですよ。夫婦間のDVが子どもにも深刻な影響を与えていることが知られ、児童虐待防止法上も虐待であると規定されているのに、実際にお子さんが痛々しい状況にあっても「それとこれとは因果関係が不明」といったふうに、重視していただけない。
現状、ものすごく強硬に「面会交流しろ」と言われているように見えます。
子に対する虐待が無ければ面会交流させるのは当たり前で、配偶者に対する虐待が懸念されるならば第三者を仲介させるなどの対応をとれば虐待の懸念は解消されます。「夫婦間のDVが」「児童虐待防止法上も虐待であると規定されている」のですから、夫婦間のDVが発生しないように配偶者と直接会わないような対応をとれば、子への虐待は生じません。
第三者仲介に対する国のサポートが少ないという点ならば、指摘として正当なんですけど、面会させない以外に対策が無いかのような主張はおかしいですよね。
指摘は正しいと思いますけど・・・
国が何をするか、地方公共団体が何をするか、ということも、きちんと法案に書いて欲しいですね。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
いまの案は「面会交流のサポートは、第三者機関を使えばいいんじゃない」みたいな感じなので、それもどうかと思います。全然自分たち(国や地方公共団体)でやろうとしていなくて、民間の団体にやらせて安く済ませようとしている(苦笑)。
そういう仕組みを公的にちゃんとつくろうとすると、すごくお金がかかっちゃうから、いまがんばっている人たちでやっといてね、みたいな感じです。
面会交流支援団体もいろいろありますけれど、そういった機関について、公的に「品質保証」するわけでもないし、助成するのかも定かではない。単に「連携」するとだけ。ときどき集まって会議するくらいでお茶を濁すのではないか、それでは足りないと思います。
上述しましたが、DV防止法も同じなんですよね。DV防止法3条5には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体との連携に努める」と描いてありますが、「公的に「品質保証」するわけでも」ありません。ですが「ときどき集まって会議するくらいでお茶を濁すのではないか」なんて懸念をDV防止法に対して抱いてますか?
抱かないなら、なぜ親子断絶防止法案の場合だけ、それが気になるんですかね?
どうも選択的懐疑主義に思えてならないんですよね。
養育費に関しては親子断絶防止法で突出して踏み込むのはおかしいと思う
あとは、養育費のことも、もっと踏み込んでほしい。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
実務上、いまだに「算定表」がベースにされているのも問題です。あれは裁判所の裁判官たちがつくったものですが、それが全国一律、13年以上にわたって、ずっと法律みたいに君臨し続けています。日弁連は、2012年に算定表に対する問題点を指摘する意見書を公表しましたが、残念ながら見直しされていません。
養育費に関して現状、問題があるというのは理解できますが、民法上に法的根拠を有し取立て強化の方向で民事執行法改正が進められている現状で、本法案で突出して踏み込むべき話題でもないと思います。個人的には民法877条を養育費の根拠とする考え方を改め、親権者の義務の一つとして明確化し、親権は深刻な虐待など特別の事情が無い限り喪失しないことに変更(つまり離婚しただけでは親権を失わない共同親権という形式)すべきだと考えていますが。
「子どもの意思」は難しい
子どもの意思も、きまぐれがあったり、一緒に住んでいる親に影響されているものもあったりするので、難しいですけれどね。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
と言ってますので、その点は評価できます。この点に関しては、大塚氏が「子どもたちは基本的に、同居の親に対してものすごく気をつかっていると思います。別居親に会いたくても言いだせないでいる子もいますし」などと適格にフォローしていますのでさほど気になる点はなかったのですが、一点だけ。
せめて、家事事件手続き法「子の意思の把握」の条文(65条)程度のことは、入れて欲しい。「子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない」くらいのことはね。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/otsukareiko/20161122-00064709
一見もっともらしいのですが、元の家事事件手続法の条文は家裁の義務として書かれているんですよね、これ。
第六十五条 家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H23/H23HO052.html
実際に面会交流事件になった場合はこの条文は現状でも適用されますから、打越弁護士が親子断絶防止法にどう入れ込むことを考えているのかがよく分かりません。国や地方自治体レベルで家裁の調査官が行うような「適切な方法」「子の意思を把握する」ことができるかと言えば、ほぼ不可能でしょう*1。
実際問題として、子の意思として面会交流を避けたいのならば、家裁に申し立てて面会交流停止を認めてもらうのが妥当でしょうし、その場合、家事事件手続法65条がそのまま適用されますから、親子断絶防止法に書き込む必要性が無いように思えます。
*1:家裁調査官レベルでも、子の意思が適格に把握できているとは言えない事例が結構ありますので、特別の訓練・研修も受けていない自治体職員などが他業務の片手間に判断できるはずもなく、せいぜい同居親同伴で来た子の発言がそのまま子の意思とみなされる可能性が高いでしょうね。