23年間何の進展もないのに「我が国の決議が核兵器のない世界に向けた現実的な道筋を示した」とか何とか

日本政府によるいつもの空疎なスローガンです。

国連総会、核廃絶決議案を採択 日本主導で提出

朝日新聞デジタル 12/6(火) 12:36配信
 日本政府が主導して国連総会に提出した核廃絶などを求める決議案が5日の本会議で、米国など167カ国の賛成多数で採択された。反対は、ロシアや中国、北朝鮮、シリアの4カ国だった。英仏など16カ国は棄権した。この決議案には、今年5月のオバマ米大統領や主要7カ国(G7)外相の広島訪問を「歓迎する」との文言が含まれている。今回は米国も共同提案国に加わった。日本政府は同様の決議案を例年提出しており、今回で23年連続の採択となった。
 岸田文雄外相は6日、閣議後記者会見で「核保有国と非核保有国の対立がますます強まるなか、昨年を超える支持を得て決議が採択されたことは、我が国の決議が核兵器のない世界に向けた現実的な道筋を示したものであることを表している」と述べた。(松尾一郎)
朝日新聞社

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161206-00000047-asahi-int

国連総会、23年連続で核軍縮決議…日本提出

読売新聞 12/6(火) 11:00配信
 国連総会は5日、日本が提出した核軍縮決議案「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」を、賛成167、反対4、棄権16の賛成多数で採択した。
 同様の決議の採択は23年連続。5大核保有国では、ロシアと中国は反対し、英国とフランスは棄権した。昨年の決議の際はオバマ政権下で初めて棄権した米国は今回、賛成に回った。決議案は、オバマ米大統領による広島訪問を歓迎。世界の指導者や若者に、被爆地訪問や被爆者らとの交流などの取り組みを奨励している。(ニューヨーク支局 水野哲也

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161206-00050056-yom-int

岸田外相は「昨年を超える支持を得て決議が採択された」と言ってますけど、確かに賛成国が1カ国増えてますが反対国も1カ国増えてますのでニュアンス的には微妙。

2015年 2016年
全体 185 187
賛成 166 167
棄権 16 16
反対 3 4
共同提案国 107 109
アメリカ   棄権 賛成
英国     棄権 棄権
フランス   棄権 棄権
ロシア    反対 反対
中国     反対 反対
北朝鮮    反対 反対
シリア    棄権 反対
キューバ   棄権 棄権
エクアドル  棄権 棄権
エジプト   棄権 棄権
インド    棄権 棄権
イラン    棄権 棄権
イスラエル  棄権 棄権
キルギスタン -- 棄権
モーリシャス 棄権 棄権
ミャンマー  棄権 棄権
ナミビア   -- 棄権
パキスタン  棄権 棄権
韓国     棄権 棄権
南スーダン  -- 棄権
ジンバブエ  棄権 棄権
南アフリカ  棄権 --

*1

23年連続を強調してもいますが、23年間何ら具体的成果を伴なっていない空疎なスローガンだということもできます。
ちなみに過去の採決状況はこんな感じ。

年度 全数 賛成国数 棄権国数 反対国数 共同提案国数 政権   反対国
2001年 161  139    19     3     --      小泉政権 米・印・ミクロネシア
2002年 171  156    13     2     9      小泉政権 米・印
2003年 180  164    14     2     19      小泉政権 米・印
2004年 --  --    --     --     31      小泉政権 --  
2005年 177  168    7     2     34      小泉政権 米・印
2006年 178  167    8     3     47      安倍政権 米・印・朝
2007年 182  170    9     3     49      福田政権 米・印・朝
2008年 183  173    6     4     58      麻生政権 米・印・朝・イスラエル
2009年 181  171    8     2     87      鳩山政権 印・朝
2010年 185  173    11     1     90      菅政権 
2011年 181  169    11     1     99      野田政権
2012年 188  174    13     1     99      野田政権
2013年 184  169    14     1     102      安倍政権
2014年 185  170    14     1     116      安倍政権
2015年 185  166    16     3     107      安倍政権 中・露・朝
2016年 187  167    16     4     109      安倍政権 中・露・朝・シリア

過去賛成国数が最も多かったのは野田政権だった2012年で、反対国数が最も少なかったのは、菅政権・野田政権・安倍政権(2014年まで)です*2。反対国数が最も多かったのは麻生政権・安倍政権(2016年)です。
反対国の傾向は、2000年代前半は米国・インドが反対している状況で、2000年代後半からは北朝鮮が加わります。オバマ政権になってアメリカは反対しなくなり、北朝鮮のみが反対し続ける状態となりましたが、2010年代後半になると、日本による中国敵視、欧米によるロシア警戒の影響からか中国・ロシアが反対するようになります。
旧東西対立構造が再構築されつつあるような印象を受けますが、この辺りは安倍政権やその支持者の狙い通りという感じでしょうね。

NPT5カ国の採択推移(2005年以降)

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
アメリカ 反対 反対 反対 反対 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 棄権 賛成
英国   賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 棄権 棄権
フランス 賛成 賛成 棄権 賛成 棄権 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 棄権 棄権
ロシア  欠席 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 賛成 棄権 棄権 反対 反対
中国   棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 棄権 反対 反対

オバマ政権成立によるアメリカの賛成への転換(2009年)の他、2015年に5大国が一気に態度を変えた件が目立ちます。この時から被爆地への訪問を求めるなど“日本は被害者”的立場を前面に打ち出すようになり、これがきっかけであろうと思われます。アメリカはオバマ大統領が広島に訪問したことなどを踏まえ、2016年には再び賛成に転じていますが、他の4国の態度はそのままです。

我が国核兵器廃絶決議案の国連総会本会議での採択

平成28年12月6日
1 本6日(現地時間5日),ニューヨークの国連総会本会議において,我が国が米国を含む109か国の共同提案国を代表して提出した核兵器廃絶決議案(「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動(骨子(PDF)別ウィンドウで開く)」)が,賛成167,反対4,棄権16の圧倒的賛成多数で採択されました。
2 この決議には,(1)核兵器不拡散条約(NPT)体制の強化,(2)包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効,核兵器用分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期の交渉開始の呼びかけ,(3)核戦力の透明性向上,(4)核兵器の非人道性への深い懸念が全ての取組の基本にあること,(5)各国指導者・若者等による被爆者を含むコミュニティ等への訪問等を通じ,被爆実相に関する認識を向上させるあらゆる取組を奨励すること,(6)北朝鮮による最近の核実験及び弾道ミサイル技術を使用した発射に対する最も強い表現での非難,(7)北朝鮮に対し更なる核実験の実施を自制し,直ちに全ての核活動を完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で放棄するよう強く要求すること,等が含まれています。
3 我が国としては,このような取組等を通じて「核兵器のない世界」の実現に向け,引き続き国際社会の取組を主導していく考えです。
(参考)今回の決議案に対する採択結果
賛成 : 167
反対 : 4(中国,北朝鮮,ロシア,シリア)
棄権 : 16(キューバエクアドル,エジプト,フランス,インド,イラン,イスラエルキルギスタンモーリシャスミャンマーナミビアパキスタン,韓国,南スーダン,英国,ジンバブエ

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_004008.html

*1:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20151208/1449592166

*2:2004年については採択状況の資料が見当たらないため除外。