韓国駆逐艦が日本哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる事件ですが、初期の時点では公式発表の内容に乏しく、関係者情報に頼った報道も多く、中には関係者情報と公式発表を混同したと思われるものもあります。
韓国国防部が定例ブリーフィングでこの事件について報じたのは2018年12月24日です。この時、報道官がこう述べています。
<답변> 저희가 금요일 저녁에 입장문자를 드린바 있습니다만, 거듭 밝힌 바와 같이 우리 군은 인도주의적 구조를 위해서 정상적인 작전활동을 한 것이며, 일본 측이 위협을 느낄 만한 어떠한 조치도 없었음을 다시 한번 강조하는 바입니다. 일본 측이 오해하고 있는 부분이 있다면 통상적인 절차대로 양국 당사 간에 소통과 협의를 통해서 해소하면 될 것입니다. 이를 위해서 오늘 개최되는 외교부 국장급회의를 포함해서 국방 외교당국 간에 긴밀히 협의를 해 나가겠습니다.
http://ebrief.korea.kr/briefing/briefingDetailPopup.do?brpId=51308&gubun=G
(機械翻訳:<返事>私どもが金曜日夕方に立場文字を差し上げたことがありますが、繰り返し明らかにした通りわが軍は人道主義的構造のために正常な作戦活動をしたことであり、日本側が威嚇を感じるほどのいかなる措置もなかったことをもう一度強調するところです。 日本側が誤解している部分があるならば通常の手続きのとおり両国当社間に疎通と協議を通じて解消すれば良いでしょう。 これのために今日開催される外交部局長級会議を含んで国防外交当局間に緊密に協議をしていきます。 )
機械翻訳で「文字」なっている문자は携帯電話でのSMS(ショートメッセージ)のことです。
つまり金曜日(2018年12月21日)の夕方に報道関係者に対してこの事件に関する立場をSMSで送信したと言っているわけで、このSMSの内容が韓国国防部による最初の公式発表と思われます。
そのSMSの内容ですが、東亜日報が2018年12月21日夜に報じたのは以下の内容です。
국방부는 21일 일본 방위성 발표와 관련한 입장문을 통해 “작전활동간 레이더를 운용했으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다”고 말했다.
http://news.donga.com/List/InterJapan/3/0213/20181221/93409224/1
NEWSISはこうです。
국방부는 출입기자단에 "(당시) 우리 군은 정상적인 작전활동 중이었으며, 작전활동간 레이더를 운용하였으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다"고 밝혔다.
http://www.newsis.com/view/?id=NISX20181221_0000510376
コリア・デイリーはこうです。
국방부도 출입기자단에 휴대전화 문자를 보내 “우리 군은 정상적인 작전 활동 중이었으며, 작전 활동 간 레이더를 운용하였으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다”고 밝혔다. 국방부는 또 “우리 측은 위 사항에 관해 (일본 측에) 설명한 바 있으나, 추후 일본 측에 오해가 없도록 충분히 설명하겠다”고 덧붙였다.
http://m.sf.koreadaily.com/news/read.asp?art_id=6840110
いずれも「작전활동간 레이더를 운용했으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다」の部分は同じですので、国防部のSMSから引用したものと思われます。
改めてSMS部分を見るとこうなります。
우리 군은 정상적인 작전활동 중이었으며, 작전활동간 레이더를 운용하였으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다
(機械翻訳:わが軍は正常な作戦活動中であり、作戦活動間レーダーを運用したが日本海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない)
これがSMSの全文かどうかはわかりませんが、この内容が事実関係部分の全てだとすれば、韓国政府の公式発表は最初の発表から一貫した主張を維持していることがわかります。
ちなみに、12月24日の東亜日報日本語版ではこう報じています。
韓国国防部が日本側の抗議を受け、21日に「韓国海軍の駆逐艦が北朝鮮船舶を探索するために火器レーダーを含む全てのレーダーを総動員した。通常の作戦活動だった」と経緯を説明したが、日本防衛省は22日、韓国側の説明に反論する文書まで追加公表した。
http://japanese.donga.com/List/3/05/27/1588063/1
ここでは、「火器レーダーを含む全てのレーダーを」使ったと国防部が公表したような記載になっています。しかし、この内容は12月21日のハンギョレ日本語版でも同趣旨のものが報じられていて、そこでは「韓国軍関係者」情報となっています。
韓国軍関係者は「当時、波が高く気象条件が良くなく、駆逐艦のすべてのレーダーを総動員していた」として「この過程で射撃統制レーダーについた探索レーダーが360度回転し撃った信号が日本海上自衛隊のP1哨戒機に探知されたものと理解する」と話した。日本が主張するように射撃統制レーダーがP1哨戒機を直接狙ったわけではないということだ。
http://japan.hani.co.kr/arti/international/32409.html
東亜日報の24日記事にある「韓国海軍の駆逐艦が北朝鮮船舶を探索するために火器レーダーを含む全てのレーダーを総動員した。通常の作戦活動だった」は韓国語版*1では「우리 구축함이 북한 선박을 탐색하기 위해 화기 레이더를 포함한 전 레이더를 총동원한 것으로 통상적인 작전활동이었다」と書かれてますが、この文章は他のメディアでは検索にひっかかりませんでしたので、東亜日報が関係者情報を混同したか、関係者情報の確度が高いと判断して韓国国防部の公式発表と同じような扱いで報じたかしたもののように思えます。
いずれにせよ、24日時点では韓国国防部の定例ブリーフィングでかなり詳細な公式見解が示されてます。専門的な部分については報道官ではなく合同参謀本部員が回答しています。すなわち、日本側が問題視していると思われるSTIR-180は使用していない、MW-08については使用していた、というものです。これは21日時点の「우리 군은 정상적인 작전활동 중이었으며, 작전활동간 레이더를 운용하였으나 일본 해상초계기를 추적할 목적으로 운용한 사실은 없다(機械翻訳:わが軍は正常な作戦活動中であり、作戦活動間レーダーを運用したが日本海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない)」と特に矛盾しません。
12月22日・23日が土日であったため、この間に韓国側が出ているのはメディア取材に基づく情報で公式発表とは言えないものが多かった感があります。
実際、12月22日時点で日本防衛省が公表した内容も「種々の報道」に対する反応です。
本件について、種々の報道がなされていますが、防衛省としては、20日(木)のレーダー照射事案の発生後、海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断しています。その上で、火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/22a.html
韓国国防部は12月21日時点で日本側に対して事実関係について説明をしているようです。
韓国国防部が定例ブリーフィング(2018年12月24日)<답변> 네, 저희가 당일에도 충분한 외교경로를 통해서 충분히 사실관계와 우리의 입장을 전달한 것으로 알고 있고요. 앞으로 이러한 소통과 협의를 통해서 대화를 해 나간다면 충분히 그런 오해는 풀릴 것으로 판단합니다.
http://ebrief.korea.kr/briefing/briefingDetailPopup.do?brpId=51308&gubun=G
(<返事>はい、私どもが当日にも十分な外交経路を通じて十分に事実関係と私たちの立場を伝達したと理解していてよ。 今後このような疎通と協議を通じて対話をしていくならば十分にそのような誤解は解けることと判断します。 )
12月22日の日本防衛省の公表内容は「種々の報道」に対する反応であって、21日に伝えられているはずの韓国国防部による回答に対する反応ではありません。土日に防衛省がお知らせを出すことはあまり無い*2にも関わらず、「種々の報道」に対する反応を22日土曜日に出しているのは少し不思議な感じがします。
また、韓国国防部が21日に日本側に伝えた内容が、仮にSTIR-180を含む火器管制レーダーの使用を認めるものであるなら、日本防衛省の22日のお知らせでもそれに言及して報道内容を否定したはずです。日本側がそれに言及しなかったということは、韓国国防部は21日時点で公式にSTIR-180を含むような表現(全てのレーダーといった表現)でのレーダー使用を認めてはいないと考えてよいと思います。
日本防衛省側が12月22日に「種々の報道」に対する反応として公表した内容に韓国国防部からの連絡内容が言及されていないことが、韓国国防部がSTIR-180の使用を当初から一貫して否定していることの傍証になっていると言えます。土曜日である12月22日に日本側がお知らせを出していたことが、韓国国防部の主張が一貫していることの証明になっているのは何とも皮肉なものです。