「中国浙江省の歴史研究家の著書」ではなく「イギリスの歴史研究者」ではないのかなぁ。

【外信コラム】戦争スペクタクル映画「ミッドウェー」に中国の影(2019.11.15 11:42)」の件。

産経の黒瀬悦成記者は、ミッドウェイ海戦の映画が「1942年4月の米軍による日本本土初空襲「ドゥーリットル空襲」で、中国本土に不時着した米軍爆撃機搭乗員を中国民衆が救出したことの報復として、日本軍が25万人の中国人を殺害した」ことに言及したのは、「中国の制作会社が資金提供したことから、中国政府の意に沿った内容が盛り込まれ」たからだと決めつけているようです。

Midway (2019 Movie) Teaser Trailer — Ed Skrein, Patrick Wilson, Nick Jonas


で「「25万人殺害説」は、中国浙江省の歴史研究家の著書に基づいているようだ。」と言っています。

調べてみると、「浙江党史和文献網」にこういう記載があります。

侵华日军罪行研究
金延锋
时间:2015-08-31
(抜粋)
据英国学者约翰科斯特罗写的《太平洋战争》一书记载,在浙赣战役时,“几个星期中,约有25万中国农民被屠杀,10万日本兵在乡村烧、杀、奸、掳,野蛮和凶残不亚于南京大屠杀。”日军屠杀平民时,手段极其残忍,除了枪杀、刺杀外,还有活埋、活烧、抛海、“三缚一”(三人捆一起,押到悬崖边,刺倒一个,另外两人也连带跌下悬崖)、“一弹打数人”(把人排成纵队,用一颗子弹从背后打过去,可直穿5人),等等。

http://www.zjds.org.cn/dsyj/zhyj/201508/t20150831_6290.shtml

このサイトが拠っているのは、「英国学者约翰科斯特罗」の「《太平洋战争》」ですが、これはイギリスの歴史研究者ジョン・コステロ(John Edward Costello (1943-1995) )のことで、コステロは1981年に“The Pacific War”という書を著しています。
というわけで、「中国浙江省の歴史研究家の著書」ではなく「イギリスの歴史研究者」ではないのかなと思うんですよね。


ちなみに、浙贛作戦(浙赣战役)がドゥーリットル空襲に起因して発動されたのは有名な話ですし、浙贛作戦で日本軍731部隊等がペスト菌などの生物兵器を使用し中国人住民に多くの感染被害者を出したのも有名な話です。
日本軍の作戦目的であった飛行場の破壊では、捕虜や苦力を使役していますし、破壊にあたって氾濫を起こさせてもいます。

例えば衢州飛行場の破壊では、日本側資料にこう書かれています。

(戦史叢書 第055巻 昭和十七・八年の支那派遣軍 P252-253 ウェブ上では140枚目)
衢州飛行場 衢州飛行場は第百十六師団の実施した破壊作業並びに軍工兵隊の実施した氾濫により、満二ヵ月を費やし八月二十五日覆滅を完成した。
 その破壊程度は徹底的で、広範囲にわたる交通網の破壊並びに地上及び空中からのわが進攻脅威と相俟ち、その復旧は至難なるものと認められた。
 その細部は次のとおりである。
 (略)
 四 作業延人員
 工兵四、七二三名、歩兵等三四、四六一名、苦力一七、〇七二名、俘虜三九、九九三名
 五 氾濫は軍工兵隊が構成し、飛行場から八粁離隔せる烏渓江から河水を導入した。敵が氾濫を完全に排水しようとしても、地雷の敷設、排水施設の破壊及び場外貯水と相俟ち相当の困難を伴うものと思われた。

http://www.nids.mod.go.jp/military_history_search/SoshoView?kanno=055#

4万人の捕虜、1.7万人の苦力を使って、河川を氾濫させ飛行場を水没させたわけですが、当然周辺の村々にも甚大な被害を与えたでしょうね。
また、衢州飛行場破壊作業では延4万人の捕虜を使役したとありますが、第13軍の浙贛作戦中の総合戦果に記載された俘虜の数は8,564人に過ぎません。第11軍の俘虜も2,283人に過ぎず、飛行場破壊に使役した捕虜はどこから集められたのか、いぶかしまざるを得ない点もあります。