日本軍の軍紀が厳正だったという幻想

1944年6月時点の陸軍内の認識です。

「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C12120518000、陸密綴 昭和20年(防衛省防衛研究所)」
陸密第二五二五号
将校等ノ廉潔心昂揚ニ関スル件陸軍一般ヘ通牒
 昭和十九年六月十九日 陸軍次官 富永恭次
最近将校(陸軍文官ヲ含ム)ニシテ職務上ノ地位ヲ利用シ恣ニ会社其ノ他ヨリ工作費、寄附、献金等ノ名義ノ下多額ノ金銭ヲ収受シテ之ヲ機密費的ニ濫用シ私腹ヲ肥ササルノ故ヲ以テ敢テ不当不正ナラスト誤断盲信シ恬トシテ恥チサル者アリ
然レトモ此ノ如キハ*職*1収賄ノ因ヲナスノミナラス軍ノ威信ヲ失墜シ其ノ波及スル所甚大ナルニ恩ヲ效シ此ノ種悪風ノ一掃ニ就キ厳ニ監督指導相成度依命通牒ス

  事例
一、在支某軍ニ於テ上級将校及憲兵将校数名ハ阿片密輸ヲ黙許シタル代償トシテ会社員ヨリ多額ノ工作費ヲ軍ニ寄附セシメ之ヲ機密費的ニ濫用シ甚シキハ慰安所ヲ設置セリ
二、軍報道部員某中佐ハ調査及情報費トシテ在留邦人ヨリ金銭ヲ収受シタルヲ始メトシ長年月ニ亘リ華人等ニ対シ各種ノ便宜ヲ供与シタル代償トシテ莫大ノ額ニ上ル金品ヲ収賄シテ之ヲ総テ生活費及遊興費ニ使用シタル外悪徳極マル犯行ヲナシタリ
三、特務機関長某中佐ハ特務機関開設*、工作費等トシテ華人等ヨリ多額ノ金品ノ寄附ヲ受ケタリ
四、在支警備隊某中隊長ハ警備地区内住民ヨリ金品ヲ収受シ之ヲ以テ中隊附将校ノ遊興費及慰安費等に使用シタリ

http://www.jacar.go.jp/DAS/meta/image_C12120518000

私腹を肥やすわけじゃないんだから企業や占領地区から金品を取上げてもいいじゃないか、的な認識の将校が多いことを指摘する通牒です。

事例が興味深いですね。
(1)は中国に駐留する日本軍の上級将校や憲兵将校らが阿片密輸を黙認する代わりに金品を受取り、軍の機密費として流用、それも慰安所設置の費用に使うといった有様。
(2)はどう見ても私腹を肥やしている事例ですが、軍報道部員の中佐が在留邦人や中国人に便宜を供与した見返りに金品を受取り、生活費や遊興費に充てていたという事例。
(3)は特務機関長の中佐が工作費等を中国人から寄附させていたという事例。
(4)は中国駐留の警備隊中隊長が警備している地域住民から金品を巻き上げ、遊興費や買春費用に充てていたという事例。

これが日本軍の軍紀の実態でした。

*1:汚職