激甚災害指定に関して
遅いという指摘が多いですが、以前の記事に書いたように、東日本大震災を例外とすれば過去の激甚災害と比べて指定時期に大した差はありません。
最初の地震(2016年4月14日21時26分頃 震度7)の後、安倍首相は河野防災担当大臣を本部長とする非常災害対策本部を立ち上げています。
平成28年4月14日
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201604/14saigai.html平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震非常災害対策本部会議
平成28年4月14日、安倍総理は、総理大臣官邸で「平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震非常災害対策本部会議」(第1回)に出席しました。
翌15日の時点でも「関係機関が一体となって、被災者支援に先手先手で取り組んでいただきたいと思います。」*1と述べてはいるものの非常災害対策本部のまま継続しています。同15日に行われた第3回会議では「明日、私自身が被災地を訪問し、『現場』を自らの目で確かめ、被災された方々の生の声に接し、今後の対策に十分生かしていきたいと考えています。」*2などと被災地訪問の意向を示していますが、その後2016年4月16日1時25分頃、再び震度7の本震が被災地を襲いました。
その後の非常災害対策本部会議(第4回)では、次のように述べています。
「本日、午前1時25分、熊本地方を中心に、14日の地震の規模を大きく上回る新たな地震が発生し、その後も余震が相次いでいる。被災地域が広範にわたっており、今後、被害が更に拡大する恐れもある。そこで、以下3点を改めて指示する。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201604/16saigai.html
引き続き、関係機関・被災自治体が一体となって情報を共有し、早急に正確な被害状況を集約・把握すること。
自衛隊を始め、対応に当たる実動部隊を大幅に増強し、住民の安全確保を最優先に、被災者の救命・救助、避難誘導、医療行為の提供などの災害応急対策に政府の総力を結集し取り組むこと。
不安を感じている住民に対し、避難に当たって必要な余震や被害状況等に関する最新の情報をわかりやすく、タイムリーに提供すること。
各位にあっては、それぞれの持ち場で強いリーダーシップを発揮し、特に以上3点について、全力を挙げてください。」
この時点で被害が広範に拡大したことを認識していますが、安倍政権は河野大臣を本部長とする非常災害対策本部から自らを本部長とする緊急災害対策本部への移行は行いませんでした。
2度目の震度7の地震が発生する前、菅官房長官は記者会見で以下のように「今回のような大規模災害が発生したような緊急時」と述べていました。
http://www.asahi.com/articles/ASJ4J674GJ4JULFA00T.html緊急事態条項「極めて重い課題」 熊本地震受け官房長官
2016年4月16日20時31分
菅義偉官房長官は15日の記者会見で「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民がどのような役割を果たすべきかを、憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と述べた。
「今回のような大規模災害が発生したような緊急時」と呼んだ1回目の震度7の地震(前震)に加えて、さらに2回目の震度7の本震が来てもなお、緊急災害対策本部への移行をしなかったのはいささか不可解に思えます。2度の震度7でも、非常災害対策本部で足りるのなら、現行法で十分対処できるということでしょう。「憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題」などではなく、現行憲法で問題ないという結論しか出てくるはずがありません。
安倍政権下での熊本地震の激甚災害指定は結局2016年4月25日となりました。緊急災害対策本部を立ち上げた東日本大震災より遅かったことを指摘されましたが、安倍擁護のネトウヨは東日本大震災での菅政権の対応をデマで侮辱し不当に貶めています。今もって、復旧にかかる費用が現場から上がってくるまで激甚災害に指定してはいけないと信じ込んでいるバカもいます。
ちなみに、熊本地震では4月20日時点で以下のような見積もりが出ています。
http://www.bousai.go.jp/kohou/oshirase/pdf/20160425_01kisya.pdf平成28年熊本地震による災害復旧事業費の査定見込額等と激甚災害指定基準について
1 公共土木施設等 ※4月20日時点
<本激>
○全国の災害復旧事業費の査定見込額 2,811億円(参考:激甚災害指定基準)
本激A基準 全国の災害復旧事業費の査定見込額1,785億円以上
激甚災害指定の規準額(公共土木施設関連)1785億円を1000億円以上上回る2811億円が災害復旧事業費の査定見込額として挙げられています。これなら4月20日時点で余裕で激甚災害指定ができたように思えますが、それでも閣議決定は4月25日となっています。
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2016/kakugi-2016042501.html平成28年4月25日(月)持ち回り閣議案件
土日(4月23日・24日)を挟んだとは言っても、対応が遅い観は否めません。
いずれにせよ、安倍政権は東日本大震災時の菅政権のような緊急災害対策本部の設置も迅速な激甚災害の指定も行わなかったわけです。
なぜか急いで行われた即応予備自衛官の招集
東日本大震災時、震災発生から5日後の3月16日に予備自衛官と即応予備自衛官の招集が閣議決定されています。
平成23年3月16日(水)持ち回り閣議案件
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2011/kakugi-2011031601.html
一般案件
予備自衛官の災害招集命令及び即応予備自衛官の災害等招集命令に係る内閣総理大臣の承認について
(防衛省)
熊本地震では、1回目の地震のわずか3日後の4月17日には即応予備自衛官の招集を閣議決定しています。
平成28年4月17日(日)持ち回り閣議案件
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2016/Kakugi-2016041701.html
一般案件
即応予備自衛官の災害等招集命令に係る内閣総理大臣の承認について(決定)
(防衛省)
即応予備自衛官の招集は東日本大震災以来で、災害等招集がされたのは東日本大震災と熊本地震の2回だけです。
首相を本部長とする緊急災害対策本部の設置を行わず、河野防災担当大臣を本部長とする非常災害対策本部での震災対応を継続し、激甚災害指定も東日本大震災を除く他の災害と同レベルの対応に終始していた安倍政権ですが、即応予備自衛官の招集だけは前のめりに行っているわけです。
熊本地震に投入した自衛隊の規模は東日本大震災時の4分の1から3分の1程度ですから、即応予備自衛官の招集自体必要だったのかどうかも不明です。この辺の対応を見ていると安倍政権の震災対応は色々とちぐはぐに思えますね。
結局、大震災なのかそうじゃないのか、はっきりしない
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160427/k10010500501000.html官房長官 大震災に当たるか「判断する余裕ない」
4月27日 15時46分
菅官房長官は衆議院内閣委員会で、今回の熊本地震が、安倍総理大臣が来年4月の消費税率の引き上げを見送る場合の判断材料として例示している「大震災」に当たるかどうかについて、「復旧、捜索に全力で取り組んでおり、判断する余裕はない」と述べ、言及を避けました。
この中で菅官房長官は、熊本地震を受けて、来年4月の消費税率の引き上げに関する政府の方針に変わりがないか質問されたのに対し、「安倍総理大臣が答弁しているが、リーマンショックや大震災のような重大な事態が発生しないかぎり、予定どおり実施する方針は変わりない」と述べました。
一方で菅官房長官は、熊本地震が「大震災」に当たるかどうか質問されたのに対し、「今まさに復旧、救助、捜索に全力で取り組んでいるので、『当たる』『当たらない』という判断をする余裕は全くない」と述べ、言及を避けました。
菅官房長官は今月20日の記者会見で、同様の質問をされた際に「経済の好循環を力強く回していくということに全力で取り組んでいるわけで、そうした状況ではないと判断している」と述べ、「大震災」には当たらないという認識を示していました。
緊急事態条項という改憲の文脈や即応予備自衛官招集の文脈では大震災扱いし、激甚災害指定や消費増税に関わる文脈では大震災ではない、判断する余裕がないといった扱いをしているわけです。
結局、安倍政権は熊本地震を政治利用することしか考えていないのでしょうね。