激甚災害指定の政令の制定にあたって事前に中央防災会議にかける必要はありません

こういうコメント。

その2条3項に「政令の制定にあたっては中央防災会議にかけろ」って項があるんですが・・・。
migrant777のコメント 2016/04/28 09:37

http://b.hatena.ne.jp/entry/286218259/comment/migrant777

この条文についてですね。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定)
第二条  国民経済に著しい影響を及ぼし、かつ、当該災害による地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行なうことが特に必要と認められる災害が発生した場合には、当該災害を激甚災害として政令で指定するものとする。
2  前項の指定を行なう場合には、次章以下に定める措置のうち、当該激甚災害に対して適用すべき措置を当該政令で指定しなければならない。
3  前二項の政令の制定又は改正の立案については、内閣総理大臣は、あらかじめ中央防災会議の意見をきかなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO150.html

条文を表面的に読めば、激甚災害指定の政令の制定にあたって「あらかじめ中央防災会議」に諮らなければならないように思えますが、そもそも中央防災会議の会長は首相本人ですよね。

災害対策基本法

(中央防災会議の組織)
第十二条  2  会長は、内閣総理大臣をもつて充てる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO223.html

そして、中央防災会議運営要領第5の3には、次のように書かれています。

第5 会長は、次の事項について専決することができるものとする。
3 激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第2条第3項の規定に基づき激甚災害の指定及びこれに対し適用すべき措置について内閣総理大臣から意見を求められたとき、中央防災会議があらかじめ定める基準に適合する場合に限り応諾回答を行うこと。

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/29/pdf/29_siryo2.pdf

つまり、激甚災害法第2条に基づく激甚災害の指定にあたって首相は、“中央防災会議の会長”である首相に対して意見を求め、“首相”である中央防災会議の会長は専決して回答することができるわけです。まあ、一人芝居みたいなものですが、これでずっと運営されています。

要するに、中央防災会議運営要領が会長の専決を認めている限り、激甚災害法第2条第3項は実質的な意味を持たない条文ということになります。

会長の専決後は?

中央防災会議運営要領第7に次の通り記載されています(以下の条文は2011年12月27日の改訂で、報告のみで承認不要となっています)。

第7 会長は、第5、第6により専決した事項については、次回の中央防災会議においてこれを報告し、承認を求めるものとする。ただし軽微な事項は除く。

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/29/pdf/29_siryo2.pdf

簡単に言えば、激甚災害の指定にあたっては“中央防災会議の会長”である首相が指定の政令を公布した後、次の中央防災会議で事後報告・事後承認を求めればいいということです。実際、どの内閣もこれをやっています。
東日本大震災に対する激甚災害指定に関しては、2011年12月27日の中央防災会議で「会長専決事項の処理について(pdf)」という議題で報告し承認を求めています。これは厳密に言えば、2011年3月13日の激甚災害指定から「次回の中央防災会議」ではありませんので、中央防災会議運営要領第7に反するとも解釈できますが、もともと中央防災会議の開催は不定期ですので「次回」というのが実質的な意味を持つかどうかは微妙です。

ちなみに、2011年12月27日の中央防災会議(第29回)以前の第27回(2011年4月27日)、第28回(2011年10月11日)の議題はこれです。

(1)「東北地方太平洋沖地震東日本大震災−の特徴と課題」
  説明:阿部 勝征(中央防災会議委員:東京大学名誉教授)
(2)これまでの地震津波対策について

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/27/index.html

(1)「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震津波対策に関する専門調査会」報告
  説明:河田 惠昭(同専門調査会座長:関西大学教授)
(2)今後の防災対策に関する各府省庁の取組状況について
(3)「防災対策推進検討会議」の設置について

http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/28/index.html

もし菅政権の手続を批判するのであれば、専決事項の報告・承認を2011年4月27日の第27回中央防災会議で行っておくべきだった、ということになるでしょうね。ただし、法律ではなく中央防災会議自体が決定する中央防災会議運営要領の違反ということになりますが*1

*1:中央防災会議運営要領の法的拘束力に関してはよくわからない