今回の災害に対する非常災害対策本部の設置が過去の事例と比べて遅くないという説が流れていますので、一応指摘しておきます。
まず基本的な事実として非常災害対策本部は災害時に必ず設置されるものではありません。
例えば、長野県北部地震(2014年11月)とか2015年台風18号による災害(2015年9月)とかでは非常災害対策本部は設置されていません。
つまり、非常災害対策本部(あるいは緊急災害対策本部)が設置される災害は、それなりの被災規模であるということになります。
その辺を踏まえた上で、東日本大震災以降の設置状況を見てみましょう。
本部名称 | 設置日 | 廃止日 | 災害発生日 | 災害タイプ |
---|---|---|---|---|
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震緊急災害対策本部 | 2011/3/11 | 2011/3/11 | 地震・津波 | |
平成23年(2011年)台風第12号非常災害対策本部 | 2011/9/4 | 2014/12/26 | 2011/8/30 | 台風 |
平成26年(2014年)豪雪非常災害対策本部 | 2014/2/18 | 2014/5/30 | 2014/2/14 | 豪雪 |
平成26年(2014年)8月豪雨非常災害対策本部 | 2014/8/22 | 2015/1/9 | 2014/8/19 | 豪雨 |
平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部 | 2014/9/28 | 2015/11/9 | 2014/9/27 | 噴火 |
平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震非常災害対策本部 | 2016/4/14 | 2016/4/14 | 地震 |
パッと見、地震や噴火では本部の設置が早いというように見えます。
東日本大震災や熊本地震では発生当日、御嶽山噴火では翌日に設置していますので、確かに早いのですが、地震や噴火は規模のカテゴリ化が明確で被災範囲もわかりやすいというのが大きいと言えるでしょう。
台風・豪雨・雪害では災害規模が地震や噴火のようなカテゴリ化が一般的ではありませんから、その意味で判断が難しいといえるかもしてませんが、それでも判断の基準となる事象がないわけではありません。
台風・豪雨の災害規模については土砂崩れや河川の氾濫といった事象の規模と範囲を把握することで概ね判断することができます。
2011年台風12号では大雨は2011年8月30日から始まっていますが、大規模災害となった奈良・和歌山での土砂崩れの発生は2011年9月4日です。そして、非常災害対策本部は土砂崩れ発生後、即日設置されています。
2014年8月豪雨も広島に限定すれば雨の発生は2014年8月19日ですが、先行する福知山市での大雨洪水警報は8月16日に出ています。しかし、この2014年8月豪雨の災害規模を決定的にした広島土砂災害の発生は2014年8月20日です。これに対して安倍政権が非常災害対策本部を設置したのは2日後の8月22日でした。
2014年豪雪の場合は非常災害対策本部の設置のきっかけが積雪による集落の孤立状態が3日を越えたことのようで、2014年2月14日の降り始めから4日後の2014年2月18日に設置されています。孤立状態3日を目安とすることの是非は検討の余地がありそうですが。
その辺を考慮して、今回の豪雨も含めるとこんな感じになります。
災害 | 発生日 | 対策本部設置日 | 設置までの期間 |
---|---|---|---|
東日本大震災 | 2011/3/11 14:46 | 2011/3/11 15:14 | 30分後 |
2011年台風12号 | (土)2011/9/4 00:00 | 2011/9/4 20:00 | 20時間後 |
2014年豪雪 | (集落孤立)2014/2/14 | 2014/2/18 10:30 | 4日後 |
2014年8月豪雨 | (土)2014/8/20 03:00 | 2014/8/22 09:00 | 54時間後 |
2014御嶽山噴火 | 2014/9/27 11:52 | 2014/9/28 17:00 | 29時間後 |
熊本地震 | 2016/4/14 21:26 | 2016/4/14 22:10 | 1時間後 |
西日本豪雨 | (土・河)2018/7/7 00:00 | 2018/7/8 08:00 | 32時間後 |
(※ 土:土砂崩れ発生、河:河川氾濫発生)
なお、今回の豪雨災害では2018年7月6日19時時点で広島で車30台ほどが巻き込まれる土砂崩れをはじめ何件かの土砂崩れが発生していますが、2011年台風14号災害でも9月3日に奈良で河川氾濫が起きていることも考慮して、累積的な規模・広域性を踏まえて一応、今回の豪雨災害では小田川が氾濫した7月7日0時頃を起点に、2011年台風12号災害では奈良・和歌山の土砂災害が発生した9月4日0時頃を起点としました。
災害対策本部設置までにかかった時間を見ると地震災害で早いことが改めてわかりますが、それでも東日本大震災時の30分に比べ、熊本地震では1時間と差がありますね。豪雪・噴火を例外として、台風・豪雨で見ると、大規模な土砂災害発生から20時間で非常災害対策本部を設置した2011年台風12号災害に比べ、2014年8月豪雨では54時間もかかっています。今回の豪雨災害でも32時間かかっており、安倍政権下での災害における災害対策本部設置は概して遅い傾向にあるとは言えそうです。
今回の西日本豪雨災害における非常災害対策本部設置に対する評価
手続的には東日本大震災や熊本地震の例からわかる通り、30分~1時間もあれば災害対策本部の設置はできるわけです。もちろん災害が発生した時刻によっては閣議の召集に時間を要することもあるでしょうが、それを考慮しても災害規模を把握してから24時間を超えるのはちょっと考えられません。2011年台風12号の際の災害対策本部設置は、野田内閣成立直後(2011年9月2日発足)ですが、それでも奈良・和歌山の土砂災害発生当日中に設置しています。
それを考慮すると、今回の災害でも遅くとも2018年7月7日中には非常災害対策本部の設置ができたはずですし、すべきだったと思います。
そしてその7月7日を安倍首相がどう過ごしたかというと、こんな感じだったらしいです。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018070700281&g=pol首相動静(7月7日)
午前8時現在、公邸。朝の来客なし。
午前9時43分、公邸発。同44分、官邸着。
午前10時1分から同16分まで「7月5日からの大雨に関する関係閣僚会議」。
午前11時35分、官邸発。
午前11時49分、東京・富ケ谷の私邸着。
午後は来客なく、私邸で過ごす。
8日午前0時現在、私邸。来客なし。(2018/07/08-00:20)
https://digital.asahi.com/articles/ASL775GMLL77UTFK003.html首相動静―7月7日
2018年7月7日18時58分
【午前】9時44分、官邸。10時1分、7月5日からの大雨に関する関係閣僚会議。11時49分、東京・富ケ谷の自宅。
【午後】自宅で過ごす。
2018年7月7日 土曜日の首相動静
https://www.nhk.or.jp/politics/souri/2018/07/07.html
9時43分 公邸発
9時44分 官邸着。左手をあげて「おはようございます」とあいさつ
10時0分 西日本を中心とした記録的な大雨による被害の拡大を受けた関係閣僚会議に出席し「事態は極めて深刻な状況だ」と述べる(~10:16)
11時35分 官邸発
11時49分 東京・富ヶ谷の私邸着
いやホントに何してたんだよ?