“若者に自民党が人気な理由”の考察

“若者は自民党支持が多い”という言説は結構あります。
おおまかに言って理由は3つあると考えています。

1.自民党政権時代しか知らない

2009年の政権交代はそれ以前の自民党政権があまりにもひどかったから起こったわけですが、2017年現在18~25歳の若者は当時まだ、10~17歳でした。小渕・森政権時代はもちろん、小泉改革による格差拡大や安倍・福田・麻生政権での失政、世界金融危機に対する対応の失敗、強行採決の連発によるデタラメな政権運営とかを知らない世代です。
民主党政権時代(2009年~2012年)も2010年の参院選以降はねじれ国会となり、野党自民党による何でも反対攻撃で混乱し、東日本大震災という大災害に対応している時でさえ自民党妨害工作と倒閣運動を優先してました。2012年当時、13~20歳の少年少女の目には、野党自民党やマスコミによって総攻撃されている民主党政権の姿しか印象に残っていないでしょう。
その後成立した第二次安倍政権は二言目には“民主党時代はひどかった”と繰り返し、自身の政策を自画自賛し続け、産経新聞のような御用マスコミは安倍政権を賛美し続けました。*1

いわく、“民主党政権時は株価が低迷してた”*2とか“民主党政権時は失業率が高かった”*3とか“民主党政権時の自殺率は高かった”*4とか、そういうデマも含めて、民主党政権時代を暗黒時代であったかのように印象付ける情報が大量に流布された結果、それに触れた若者は、自民党以外の選択肢を排除する思考に陥りやすくなったということでしょう。
就職率云々という話も実際には、2011年3月卒の就職内定率が底でそれ以降は回復に転じています*5ので、実体験に伴う認識というより、“民主党政権は暗黒時代”というイメージに後付けで付加された“根拠”という方が適切でしょう。

2.情報収集手段の特性

2017年現在18~25歳の若者の情報収集の手段は基本的にネットが主ですよね。それも新聞などの報道機関のサイトを見るなら、それがたとえ産経であってもまだマシですが、多くは2ちゃんねるまとめサイトなどの面白さを付加した代わりに劣化した情報でしょう。さらに言えば、そういう劣化情報でさえ、中身をしっかり読んで全体像を把握するのではなく、タイトルや冒頭部分のみでわかった気になって次の情報へと移る収集法ですよね。
さらにさらにネットでの情報収集の特徴として、話題になってる情報を選択的に収集するという傾向もあります。広範な基礎知識を前提とした情報を理解する能力が育たないという問題もありますが、2000年前後からネット上であふれていたネトウヨ的解釈や捏造・曲解された情報にアクセスが集中するという流れになり、全てを鵜呑みにしないまでもネトウヨ的な空気に感染し、カジュアルな差別意識を育てる土壌となったという問題もあります。
2000年代前半には韓国や中国に対する差別サイトは山ほどあり、対抗言論がほとんどありませんでした。政治や歴史に関係ない話題でも、差別用語や在日認定などが蔓延していましたが、2017年現在18~25歳の若者はその環境のネットで育った世代にあたります。
貧困層や外国人に対する明確な差別意識や明確な右翼的思考を必ずしも持っているわけではないでしょうが、彼らにとっては差別用語や在日認定はハゲやゲイを茶化すのと同じくらいの“ネタ”という扱いになっています。ハゲやゲイだってそういう扱いを必ずしも受け入れているわけではないでしょうが、ハゲやゲイを茶化す人にとっては、ハゲやゲイを売りにしている芸人の存在がそれを“ネタ”として構わない免罪符になっています。貧困層や外国人に対する態度も、彼らにとっては“ネタ”であって罪悪感自体ほとんど持っていないのが現状です。
その原因は当然、公的空間における差別的言質の許容、とりわけ社会的影響力の強い層から差別反対の明確なメッセージが出ない・出ても鈍いことに起因しています。その結果私的な空間ではよりタガが外れた言動がまかり通っているといえるでしょう。
野党に関する様々なデマはこういった土壌に深く浸透しています。その結果、ありとあらゆる与党の不正・不当行為は、現実的にはやむをえない、きれいごとで政治は出来ないと許容されてしまい、逆に不正を指摘する側に対しては、異常なほど“お前に不正を追及する資格があるのか”と言わんばかりの難癖がつけられる心理的な傾向が生じてしまう。
こうして、不正を繰り返す自民党に対しては親近感が生じ、不正を追及する野党には反感を感じるようになってしまう流れが出来上がっているように思えますね。

3.現代の交友関係における処世術

もちろん差別言論にあふれている環境に育ったからと言って、必ず差別主義者になるというわけでもありません。そういうのに嫌悪感を抱くまともな感性を持つ場合も少なくないでしょう。
ですが政府批判を反日扱いして侮辱して構わないという言論環境に触れているため、突出した政治批判を躊躇する心理的障壁が発生します。同じように周囲も政治批判や政治への疑問を控えてしまうと、言っていい発言かどうかを互いの顔色を見ながら判断することになります。こうして発言する機会が少なくなると、他社とのやり取りを通じて、その知識を深める機会も失ってしまいます。
政治への疑問、野党への批判内容への疑問を感じても、それを発言し他者との建設的な議論を通じて知識を深める機会がないと、そのうち疑問は消滅します。そして疑問が解消されていないのに、その状況を受け入れてしまう。
こうしてカルト集団の行う洗脳に近い状態が形成されてしまいます(参考:統一協会系と思しき学生団体による洗脳合宿について )。

「2」とかぶりますが、これも公的空間における差別的言質の許容が大きな原因になっています。理想論だろうが、きれいごとだろうが、本来、公的空間ではそれを重視しなければならないのに、それを切り捨てる言動がもてはやされるのが現状です。
公的空間の議論で守られるべき規範が揺らいでしまうと、私的な空間で守られるべき規範を守ることが難しくなります。あるべき規範に基づいて自分の意見を示しても、公的空間でそれがバカにされていれば、私的空間でも同様にバカにする者が現れます。そういう状況では、自分の意見はなるべく周囲の言論状況にあわせていく方が衝突が回避できて楽になります。
安倍一強の状況で自民党批判なんかしても交友関係の中で自分が浮くリスクが高いわけですから、言わない方が得策になります。そういう言論空間では、自民を許容し野党に批判的な言説をわずかずつでも浴び続けることになります。そういう情報が蓄積していくと低層の情報を疑うような機会も減ります。

結果として、民主党政権は最悪だったという認識が形成され、それを形成した土台の部分の情報が間違っていてももうそれに気づかない、という状況に陥ってしまいます。個々の情報を否定する論証が示されても、凝り固まった認識はなかなか変えられなくなるわけです。

1~3が連動してインプリンティングされた結果が若者に自民党が人気な原因

自民を許容し野党に批判的な認識というのは、小さな情報を何百何千と積み重ねた結果でしょうが、それらの多くはデマや捏造、曲解であったりします。しかし、個々にそれを指摘しても無駄なことがほとんどです。

例えば経済指標のいくつかは民主党政権期に改善に転じていますが、それを指摘されると民主政権期暗黒説を正当化できそうな別のデータを持ってきたりします。問題はそれが民主政権期暗黒説を信じたきっかけの情報ではなく、民主政権期暗黒説を否定する情報に反論するために探した情報だということです。
つまり、データを根拠として民主政権期暗黒説を信じるのではなく、一度信じてしまった民主政権期暗黒説に固執するためにそれを正当化できるデータを集めている状態なわけです。

こういう状態で安定してしまうと、なかなか治療するのは困難なんですよね。

若者に自民党が人気な理由は世代が違うから」について

この増田の見解はちょっとずれてるかな、という感じ。

まず、太平洋戦争への時代感覚
30,40歳以上の世代だと爺ちゃんが戦争行ってたりするから、少しだけあの戦争へのリアリティがまだある。
ましてや50,60歳世代は親が行ってる訳でしょ。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

多分、爺さんが戦争行ってたくらいで「戦争へのリアリティ」があったりはしないと思います。
戦争体験が戦争責任につながるか、ということ自体、それほど影響あるとは思わないんですよね。

むしろ50~60歳世代はベトナム戦争中の1970年代に10~20歳代ですから、ベトナム戦争での残虐行為などを報道や映画などから知って反戦意識を強めたという方がしっくり来ます。
40~50歳世代も「地獄の黙示録」(1979年)、「プラトーン」(1986年)、「ハンバーガー・ヒル」(1987年)、「フルメタル・ジャケット」(1987年)の影響は受けているでしょう。報道で言えば、戦後も枯葉剤の影響での奇形になった子どもの報道などがあり、同時期に公害病を抱えていた日本にとっても他人事ではありませんでしたよね。
親世代の戦争経験はどちらといえば、空襲体験という被害意識を醸成する影響の方が強かったんじゃないですかね。

日の丸を掲げる群衆に対する嫌悪感の教育も浸透してる。日教組が圧倒的な力を持っていた時代。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

“日の丸に対する嫌悪感”というのは日教組の影響というより、1970年代・80年代に活発だった街宣右翼団体や暴力団の影響だと思うんですけどね。街宣右翼暴力団はやたらと日の丸を強調してまわっていたので、そりゃ、日の丸=右翼・暴力団というイメージが生じるのは当然で、日教組関係ないでしょう。だいたい、ほとんどの学校で学校行事、祝日に日の丸を掲揚してたでしょうし、体育館・講堂とかには普通にありましたよね*6

今の10代・20代だと、日の丸掲げる右翼団体暴力団のイメージが30~40年前に比べて圧倒的に希薄で、その大きな要因は暴力団が弱体化していったことでしょう。

日の丸を振って一体となって応援するという経験とともに育っている
日の丸への忌避感がゼロなので、日の丸を悪者扱いしてくるリベラルな人たちの価値観がうざいだけ。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

というのもちょっと違う。「日の丸を振って一体となって応援するという経験」は東京オリンピック(1964年)の時だって経験してるでしょ。東京に限らず、オリンピックになれば日の丸は普通に掲げられて応援してきましたよね。今の10代・20代だけの特殊な体験ではないんですよね。
暴力団が弱体化し反社会的組織の寄る辺としての日の丸というイメージが希薄化した環境で育った今の10代・20代には、日の丸に対する批判がピンとこない、という方が適切でしょう。
ただ、ヘイトスピーチを行う排外差別団体が掲げていることで、今後は日の丸にそういうイメージが強化されていくかも知れませんけどね。

あとアジアの国への感覚ね。
日本の戦争責任と贖罪を訴えるオールドリベラルな人たちには
うっすら「貧しいアジアの国」への哀れみの感覚があったんだと思う。本人たちは絶対認めないだろうけど。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

「哀れみの感覚」というのは別にリベラルに限らず、高度成長後の日本社会全体が優越感と共に抱いていた感覚でしょうね。

侵略をして未だ豊かな我々は、か弱い貧しいアジアの国に謝罪し続けなければならない。
その感覚がオールドリベラル的な、9条的な価値観を支えてきたのだと思う。

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この辺は全然違うかな。多分、朝鮮戦争ベトナム戦争といった日本以外のアジア諸国での戦争で日本が儲けた、という意味での贖罪意識の方が強いんじゃないですかね。だから戦争犯罪に対する謝罪とは直接はつながらないはずです。
「9条的な価値観」が何を意味するのか明らかではないですけど、非武装不戦という意味ならば、戦後直後の自衛隊創設以前からの軍隊・戦争に対する忌避感が基礎にあり、9条との矛盾を抱えながら、なし崩しに軍拡と米国との軍事同盟が進められ、自民党政権が9条放棄を匂わせ続けたことが、「9条的な価値観」を延命させてきたという方が多分、実態に近いでしょう。

日本の周りの国ではなく、日本こそが侵犯する可能性のある悪を秘めた国だから憲法で軍備を縛るべきだと考えるのも無理はない。

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現実問題として、1960年代・70年代にはソ連以外に日本に侵攻できる能力を持つ国が周囲に存在しない*7状況にも拘らず、防衛費は毎年10%以上の増額が続きましたから、そういう懸念は割と現実的なものでした。特にベトナム戦争には、韓国からも軍隊が派遣されましたが、日本の自衛隊だって派遣される可能性はあり、それを憲法9条を盾に断ることができたわけですよね。
あと「憲法で軍備を縛るべき」だというのは立憲民主主義の国なら当然の話で、軍備を縛れない憲法なんて欠陥品ですから、「侵犯する可能性のある悪を秘めた国だから」だとかは全く関係ありません。

今の10代・20代は、アジア太平洋戦争(1931年~1945年)はもちろんベトナム戦争(1964年~1975年)も知りません。湾岸戦争(1990年~1991年)も怪しく、せいぜいイラク戦争(2003年)くらいでしょうが、湾岸戦争イラク戦争も日本国内生活に直結する印象がなく、報道自体もベトナム戦争のような反戦意識を喚起するような報道が抑制されましたから、反戦意識を刺激するような機会に乏しかったと言えるでしょう。

中国に対しては経済成長している国という認識なのはその通りで、韓国についても日本と同様の先進国といった認識でしょうね。加えて言えば、今の10代・20代は民主化した後の韓国しか知りません。
一方で冷戦終結後、日本では仮想敵を北朝鮮や中国にシフトしその脅威を煽る報道が続きました。今の10代・20代はそのような情報の中で育っていますから、中国に対しては軍拡を続ける脅威、北朝鮮に対して核開発を続ける脅威という認識が根付いています。韓国に対してはネット上で差別意識を煽る情報が2000年代を通じて広範に流布され、その影響を受けています。
なぜそのような状況に至ったのか、中国や北朝鮮、韓国からは周囲がどのように見えていて、どう対応しようとしているのか、そういうことを考えるための情報は極めて乏しい状況が続いた結果、“北朝鮮は何をしでかすかわからない”とか“中国は日本を侵略する意図をもっている”とか“韓国は日本を貶めようとしている”とか、日本の視点だけで世界を見ようとする自己中心的な世界観が形成され、今の10代・20代はその影響をもろに受けています。

だから、危機に備えて憲法を改正すべきだと彼らは思う。だけどクラスにいるネトウヨみたいなのはちょっとやりすぎでダサいし、K-POPは聞くよねという感じ。
それくらいが今の10代のリアリティだと思う。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

こういう認識はそうやって育ったわけです。

まぁ、あと今就職率は高いし、失業率と自殺率は毎年低くなってるし。だから入れるなら自民じゃね。そんな感じ。

https://anond.hatelabo.jp/20171023233302

これはまあ、歪んだ知識が溢れているネットと安倍政権に忖度するメディア情報の影響が大きいでしょうね。

失業率も自殺率も民主党政権時代に下がり始めていて、それ以前の小泉・安倍・福田・麻生政権時はもっとひどかったわけですから。



*1:2009年の政権交代の際、産経新聞が「下野なう」とツイートしてたこと、つまり、自民党政権側に立って報道していることを自認していたことを、どれほどの若者が知っているんでしょうか。朝日新聞民主党を擁護している的な言説は今も流れていますが、実際には朝日新聞民主党政権に対しても強く批判していました。でも、今の自民党支持の若者から見れば、朝日の民主党支持は産経の自民党支持と同程度かそれ以上、くらいの認識でしょう。一旦流布されて共同幻想と化したデマはなかなか抜けないんですよね。

*2:実際は、麻生政権時の方が株価は低かった

*3:実際は、麻生政権時に失業率は5%を超え、民主党政権時に減少に転じている

*4:これも麻生政権時までの自民党政権で自殺率が高く、民主党政権時に減少に転じている

*5:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11652000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Jakunenshakoyoutaisakushitsu/0000124605.pdf

*6:少なくとも、自分の学校では「日の丸を掲げる群衆に対する嫌悪感の教育」なんてのは無かったと思う。

*7:ソ連だって日本に上陸侵攻できる能力があったかと言えば怪しいと思いますが。