完全失業率の悪化は麻生政権時に生じ、民主党政権期はほぼ一貫して失業率は低下している

ごく単純に言うなら、(1)麻生政権がリーマンショックに対応できず日本経済がボロボロになって完全失業率が急速に上昇し、その結果、自民党は政権を投げ出し、民主党政権が誕生、(2)麻生政権の負の遺産を引き継いだ民主党政権東日本大震災などの災害を受けながらも完全失業率を下げていったが、震災対応時も足を引っ張り続けた自民党の政局によって退陣、(3)安倍政権はアベノミクスと称する経済政策を行ったものの失業率の低下速度は民主党政権期と変わらず、と言う状態です。

はっきり言って、失業率に関しては、悪化したのは麻生政権期で民主党政権下ではほぼ一貫して低下しているんですよね。例外的なのが15~24歳の2012年4月頃の失業率の上昇ですが、これ明らかに東日本大震災の影響ですからねぇ。その後の第二次安倍政権でも劇的に減ったわけでもなく、民主党政権時代の低下傾向をほぼなぞっている状態です。
にもかかわらず、それ以前の自民党政権がいかに駄目だったかという話にはならず、民主党政権に対する恨みつらみばかりが膨らんでいるわけで端的に言って、認知の歪みというべきでしょう。

民主党政権時代は大変だったと聞いています」

地方の国立大3年の女子大生(21)も、今回自民党に投票するという。「政権交代以降、売り手市場になっていて、先輩たちの就活も安定している。失敗している人はあまり聞いたことがない」と語るなど、アベノミクスへの評価は高い。
実際、9月29日に発表された平成29年版厚生労働省労働経済の分析」によると、全ての年代で失業率は低下傾向にあるが、中でも15〜24歳の若年層の失業率は第2次安倍政権誕生以降、大きく低下している。
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総務省統計局「労働力調査」をもとにBusiness Insiderが作成

https://www.businessinsider.jp/post-105617

「15〜24歳の若年層の失業率は第2次安倍政権誕生以降、大きく低下している」という評価は示してくるグラフから読み取った結果としては違和感がありますね。15〜24歳の若年層の失業率は麻生政権期の最悪値から、民主党政権期に2%程度低下しており、第二次安倍政権期の低下分(2%)と比べて特に「大きく低下」したわけでもありません。

ではなぜ、若年層が民主党を忌避しているのでしょうか。
2017年現在「15〜24歳の若年層」にあたる層は、麻生政権(2009年)当時には、7~16歳でした。彼らにとって肌感覚で知っている政権は現在の安倍政権以外には民主党政権しかないと言っていい状況です。彼らのほとんどは麻生政権時代の経済の混乱を肌感覚として知らないわけです。
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(※月別データを参照しているため、細かい増減がありますが概ねの傾向はわかるでしょう。)
そして、第二次安倍政権が成立すると、安倍政権や御用メディアが“民主党政権時代はひどかった”というプロパガンダをはじめます*1。そして当の民主党自身は、内部の権力争いからそのプロパガンダに有効に対処するどころか、それを利用して執行部批判する有様でした。
こうした状況の中で、民主党政権時代は暗黒時代であったかのようなイメージが拡大されていきました。

民主党政権にも問題や課題があったことは確かですが、それが実態以上に脚色され、あるいはデマが付け加えられ、民主党政権に対する悪イメージが形成されていったわけです。

デマの事例としては、例えば「民主党政権時代に日経平均株価が7000円台に落ち込んだ」と言う都市伝説があります。
実際に日経平均株価が7000円台に落ち込んだのは麻生政権時代です。
民主党政権は、年間自殺者数を3000人以上も安倍政権より増やし」た、というデマもあります(高橋洋一氏によるデマです)。これも実際には民主党政権期を通じて一貫して自殺者数は減っています*2
民主党政権の対中外交・安保を批判する者もいます。ですが、スクランブル回数は第二次安倍政権以降で圧倒的に増えてます*3

ところが既に、デマや脚色の上にさらにデマが積み重なっている状況になっているため、“民主党政権時代は暗黒時代”だと信じ込んでいる人たちには個々の誤りを指摘しても無駄だったりします。麻生政権時代の経済の混乱を指摘されると、リーマンショックの影響だからと正当化しますが、民主党政権時代に生じた東日本大震災の経済への影響については考慮すらしない、そんな感じです。
震災対応について民主党を非難している人たちは、当時、参院過半数割れのねじれ国会になっており、野党自民党が何かにつけて反対していたことを知りません。震災対応の予算に対してすら自民党は妨害を繰り返し、民主党強行採決せざるを得なかったわけですが、そうすると今度は、民主党強行採決ばかりだと非難する有様です。
消費税増税については、2010年7月の参院選民主党自民党増税を訴えていた*4ことを考慮せず、消費増税の決定も2012年の民主党自民党公明党による三党合意で決まったことを無視しています。

民主党マニフェストに明示しなかった消費増税をやったことを批判する人もいますけど、2010年7月の参院選で消費増税を公約に掲げた自民党が勝っていることを何故か無視しています。2010年7月の参院選前後に消費増税に言及した菅首相に対して、自民党議員が自民党の公約を盗んだかのように主張までした*5こともありますが、それも都合よく無視されます。

40代~50代くらいになると、第一次安倍政権~福田政権~麻生政権時の混乱を覚えている人もいますし、小泉政権の“改革”に格差が開いたことを肌感覚で知っている人もいますから、若年層ほど安倍自民に夢を見たりはしないということでしょうね。

自民党内の擬似政権交代で良しとする有様

「本当は若者や弱者を重視したリベラルな政党に投票したい。けれど日本の野党は現実的な対案を示さず、無意味な揚げ足取りも多い。二大政党制ができるべきだと思うけど、現状では自民党内で"政権交代"した方が日本にとってはいい」(27歳男性会社員)

https://www.businessinsider.jp/post-105617

「日本の野党は現実的な対案を示さず」というのも野党が示している提案をどれほどを知ってるのか疑問です。例えば安倍政権が強行採決した違憲の戦争法に対して、民主党は海上警備法案という対案を出していました。ところがほとんど報道されないばかりか、当の民主党議員(細野氏)が“民主党は対案を示していない”と主張する始末でした。
単純に報道だけしか見ないと、政局絡みの話ばかりしかわからず、実際に野党がどんな提案をしているかは知ることが出来ません。

「無意味な揚げ足取り」とか言ってるのも、例えば山尾志桜里議員による「保育園落ちた、日本死ね」ブログの取り上げとかを指すのでしょうが、これメディアがその件ばかりを取り上げて報道していただけ*6で、実際にはデータを示して待機児童問題について具体的に何度も訴えているんですよね。報道しか見ていないと、まるで「保育園落ちた、日本死ね」ブログしか取り上げていないかのように思うかもしれませんが、国会議事録を読めば、それ以外に具体的な指摘・質疑が山ほどあることがわかるはずです。
でも、ほとんどの人は報道だけ見て、質疑内容はそれが全てだと思い込んでしまう。だから「日本の野党は現実的な対案を示さず、無意味な揚げ足取りも多い」とかいう知ったかぶりになってしまう。

その結果、「自民党内で"政権交代"した方が日本にとってはいい」なんて、民主主義の否定がまかり通ってしまう。有権者ではなく、自民党員という限られた、しかも思想傾向を共有する一部の人たちで決められる総裁を首相として良し、と考えること自体、民主主義の放棄に他なりませんが、それに疑問すら感じない。

党内の“政権交代”で民主主義を自認できるのなら、中国共産党に支配されている中華人民共和国だって民主主義になってしまいます。

自民党固執し続けて経済がボロボロになってから野党に政権を渡し、短期間で劇的に改善しなかったという理由で野党を否定し、自民党に回帰する、その繰り返し。

それを批判するのはたやすいが、「上の世代は一度政権交代して失敗したら戻せばいいと言うけど、私たち20代前半にとってはその数年が大きい」(21歳女子学生)の言葉は重い。

https://www.businessinsider.jp/post-105617

1980年代後半に自民党政権固執した結果、バブル崩壊による経済混乱を招き、2000年代後半にもやはり自民党政権固執した結果、リーマンショックによる経済混乱を招き、いずれの場合もその後に成立した非自民政権はその後始末からはじめざるを得ませんでした*7
しかし、自民党への盲従が何を生んだかを理解するには若すぎるかも知れませんねぇ。


*1:実質的には民主党政権時代からはじめていますけどね

*2:http://scopedog.hatenablog.com/entry/20150804/1438617739

*3:対中スクランブル件数は、2009年度38、2010年度96、2011年度156、2012年度306ですが、2013年度以降は、415、464、571、851 と増加の一途を辿っています。

*4:2010年の自民党公約は「消費税10%に引き上げ」でした。

*5:第174国会衆議院本会議 平成22年06月16日 赤澤亮正発言 http://scopedog.hatenablog.com/entry/20141120/1416499699

*6:まあ、それは安倍首相がアホな答弁した結果でもありますが

*7:麻生政権が強行採決した予算案では明らかに歳入が足りなくなるため、鳩山政権は補正予算赤字国債を発行せざるを得なかったのは象徴的。その時も産経新聞などは“民主党埋蔵金があると言ったくせに赤字国債を発行している”と散々叩いています。放漫な当初予算を強行採決した麻生政権に対しては一切批判していません。