広開土大王艦事件について日本側の公開映像に関する件

さて、日本哨戒機が韓国駆逐艦・広開土大王から火器管制レーダーを照射されたとされる事件について、日本側は映像を一部公開しました。
韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(平成30年12月28日 防衛省)

この映像で、韓国駆逐艦のすぐ近くに漁船が映っていたことから、日本のメディアでは、以下のような報じ方がされています。

 政府関係者によると、20日に日本海でレーダー照射を受けた際に撮影された映像には、韓国海駆逐艦の近くに北朝鮮籍とみられる漁船が映っており、すでに救助後とみられるという。韓国側は、駆逐艦は遭難船舶の捜索をしていたと説明しており、韓国側の説明は矛盾することになる。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20181228-OYT1T50040.html

すなわち、“レーダー照射時には既に漁船は救助済みで捜索のための照射の必要はなかった”ということで、“韓国側による日本に対する意図的な嫌がらせに違いない”と日本の読者を印象操作する内容です。

しかしながら、防衛省が公開した映像に移っていた漁船が遭難した北朝鮮漁船だとすると少し気になる点がいくつかあります。

映像に映っている漁船は1トン未満にして大きすぎない?

遭難した漁船については、こう報じられています。

日本哨戒機接近し撮影用光学カメラ稼働 ビーム放射はせず=韓国軍

12/23(日) 17:14配信
 一方、韓国の艦艇が救助した北朝鮮漁船は1トン未満の木船で、韓国政府は21日、乗組員3人と遺体1体を北朝鮮側に引き渡した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181223-00000027-yonh-kr

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防衛省公開映像
映像には韓国海警察庁所属5001号(삼봉호; 三峰号)と漁船が映っていますが、三峰号は全長145m *1ですので、漁船は少なくとも10m以上はありそうです。
「1トン未満の木船」で10m以上というのは少し大きすぎる気がします。

漁船救助後にレーダー照射されたと日本側が認識していたなら12月22日の防衛省発表に違和感が生じる

12月22日の防衛省発表です。

韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について

平成30年12月22日
防衛省
 12月20日(木)午後3時頃、能登半島沖において、韓国海軍「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から、海上自衛隊第4航空群所属P-1(厚木)が、火器管制レーダーを照射された旨、21日(金)、防衛省から公表を実施しました。
 本件について、種々の報道がなされていますが、防衛省としては、20日(木)のレーダー照射事案の発生後、海自哨戒機の機材が収集したデータについて、慎重かつ詳細な分析を行い、当該照射が火器管制レーダーによるものと判断しています。その上で、火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です。
 加えて、火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において、非常に危険な行為です。なお、韓国も採択しているCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)において、火器管制レーダーの照射は、船舶又は航空機に遭遇した場合には控えるべき動作として挙げられています。
 以上の理由から、今回このような事案が発生したことは極めて遺憾であり、韓国側に再発防止を強く求めてまいります。

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/22a.html

ここでは火器管制レーダーは捜索に不適だとか仮に捜索のためであっても控えるべきだとかは主張していますが、既に遭難漁船救助後にレーダーを使ったとは主張していません。既に遭難漁船が救助された後にレーダー照射されたのならば、そう主張する方がレーダーの性質についてどうこう言うよりも遥かに説得力がありますし、軍事機密に触れる情報でもありません。
ところが、防衛省は21日、22日、25日、28日と4回も公表しているのに、一度もそのようには主張していません。これはかなり不自然です。

映像に映っている漁船は、漂流していた北朝鮮漁船を見つけて通報した韓国漁船ではないの?

日本の報道では北朝鮮漁船が救助されるまでの経緯について報じられているのを見かけませんでしたが、東亜日報では以下のように報じています。

광개토대왕함 사건은 일본의 기획도발?

이정훈 기자 입력 2018-12-29 14:52수정 2018-12-29 14:59
(略)
북한 어선은 티가 난다. 색깔이 죄다 벗겨진 ‘고철 배’이기 때문이다. 겨울철 동해는 북서풍의 영향으로 황천(荒天)이 되는 경우가 많다. 2018년 12월 20일 대화퇴 어장에서 돌아가던 한국 어선이 북한 어선으로 보이는 배가 조난된 것을 발견하고, ‘누구나 들을 수 있는’ 주파수로 한국 해경을 불러 그 사실을 알렸다.
(略)

機械翻訳
北朝鮮漁船はティーがある。色がことごとく除去」スクラップ金属倍」だからだ。冬場東海は北西風の影響で黄泉(荒天)となる場合が多い。2018年12月20日大和堆漁場で帰った韓国漁船北朝鮮漁船に見える船遭難されたことを発見し、「誰聞くことができる「周波数で韓国海洋警察を呼んで、その事実を知らせた。

http://news.donga.com/East/MainNews/3/all/20181229/93486073/1

北朝鮮漁船は荒天で遭難し長期間漂流していたようで、それを付近の韓国漁船が発見し、韓国海洋警察に通報したという経緯です。だから、韓国海洋警察に所属する三峰号が現場にいたのでしょう。
したがって映像に映っていた三峰号の付近の漁船は通報した韓国漁船の可能性が否定できません。
駆逐艦・広開土大王は通報時に現場附近にいたため救援に参加したとのことです。

さて、映像に映っているのが通報した韓国漁船であったとしたら、韓国海洋警察は当然、漁船船長から漂流していた北朝鮮漁船をどこで見たのかなどを聴取したでしょう。そこで得た方角などの情報を元に駆逐艦のレーダーを使って捜索したとすれば、何の矛盾も生じません。

海洋警察主体の救助作戦中に「KOREA SOUTH NAVAL SHIP」と呼びかけられたら・・・。

こういう報道がありました。
[https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181226-00000060-jij-pol:title=レーダー照射「証拠に自信」=韓国側否定に、公表どこまで―長期化懸念も・防衛省
(12/26(水) 16:46配信 時事通信)]

 P1側は無線で駆逐艦に対し、「韓国海軍艦艇 艦番号971」と3回英語で呼び掛けたが、応答はなかった。韓国側は、認知したのは「『コリア コースト』という言葉だけであった」とするが、岩屋毅防衛相は「(P1が)そのような用語を用いた事実はない」と否定した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181226-00000060-jij-pol

防衛省が公開した映像中で哨戒機乗員が韓国駆逐艦に対して「KOREA SOUTH NAVAL SHIP」と呼びかけるシーンがありますが、あまり発音が良いとは思えず、どうも「コリア ソース ネーバル シップ」と聞こえます(「サウス」とは聞こえなかった)。通信状態が悪ければ、「コリア ソース・・・」のように聞こえたでしょうが、それが「認知したのは「『コリア コースト』という言葉だけ」になった可能性はありそうですね。

この救助作戦自体の主体はあくまでも海洋警察であって海軍は協力しているに過ぎませんから、駆逐艦側では日本哨戒機から海洋警察向けに何らかの通信を行っていると認識した可能性が一番高いように思われます。
まあ、通信に関しては、自衛隊でも韓国軍でもない第三者が傍受したかどうかを調べた方が適切でしょう。