韓国政府による韓国人元従軍慰安婦に対する支援の状況について

日韓政府間合意に基づいて設立した和解・癒し財団を解散させたら元慰安婦らが困るだろ、的なコメントが散見されたので。

和解・癒し財団を大事なものだと思っている人は当然、そのサイトも見ていると思いますけど、その中に「정부 등록 피해자 현황(政府登録被害者の現状)というページがあります。その中のサブセクションに「생활안정 및 특별지원금 지원 현황(生活の安定と特別支援金サポートの現状)」というのがあります。
これは韓国の法律である「日帝下日本軍「慰安婦」被害者の生活安定支援と記念事業等に関する法律」に基づいて、登録された元慰安婦らに支給される支援金の内容を示しています。これは和解・癒し財団経由の日本政府の資金とは無関係の韓国政府による元慰安婦支援のための施策です。

一時金

1993年~1998年までに認定された元慰安婦に支給された一時金は500万ウォン。1999年以降は、4300万ウォンに引き上げ(1998年以前に一時金を支給された元慰安婦には差額が支給)。

月ごと支援金

この額は、年度によって変わっています。

金額(千ウォン)
1993 150
1994 150
1995 200
1996 250
1997 500
1998 500
1999 500
2000 500
2001 500
2002 535
2003 600
2004 640
2005 700
2006 740
2007 780
2008 800
2009 824
2010 865
2011 908
2012 953
2013 982
2014 1012
2015 1043
2016 1260
2017 1298
2018 1337

(※2018年の金額は韓国女性家族部サイトより*1

つまり、元慰安婦らは韓国政府から韓国の法律に基づき一時金400万円相当、月額13万円相当の支援を受けているわけです。この他に生計給与や医療給与、年金などがあるわけですから*2、韓国の社会保障制度に詳しいわけではありませんが、かなり手厚い支援を受けていると思います。というか例えば、日本政府がシベリア抑留被害者に対して行なった支援などより遥かに充実していますよね*3

ですから、別に和解・癒し財団経由で日本政府からの資金を支給されなくても、元慰安婦らが生活に困ったりするわけでもないでしょう。
その意味では、元慰安婦らが“金の問題ではない。誠意ある謝罪を”というのは、安定した経済状況という背景を踏まえると当然の要求ともいえるわけです。

財団が解散・清算されるという報道に“元慰安婦らには時間が無い”という理由で怒っている人は、“時間があるうちにお金を押し付けろ”ではなく“時間があるうちに、元慰安婦らに受け入れられる誠意ある謝罪を”と訴えるべきでしょう。



和解・癒し財団の解散を懸念する人たちは何故、財団の見解を支持して活動しやすくしてあげなかったのだろう?

正直、和解・癒し財団を解散する旨の報道が出た*1ことについて、日本社会は“ざまあみろ”とかいう感じで喜ぶのかと思っていましたが、解散を懸念する声が多いのは意外でした。

で、その和解・癒し財団(화해·치유재단)ですが、こういう記事を自サイトに掲載していました(2016年8月7日)。

(160807 한반도포커스-이원덕) 위안부 합의에 대한 오해와 진실

(略)
첫째, 이번 합의가 10억엔에 소녀상을 판 것인가? 이야말로 합의를 심각하게 곡해하고 폄훼하는 일본 우익의 악의적인 선전이다. 합의의 본질은 (1)일본정부의 가해사실 및 책임 인정, (2)아베 신조 총리의 사죄반성 표명, (3)이의 징표로 일본정부의 예산으로 10억엔을 거출하기로 한 것에 있다. 한마디로 이번 합의는 위안부 진실을 외면하려는 역사 수정주의자 아베 총리를 꿇어앉힌 것으로 이해하는 것이 합당하다. 소녀상의 철거나 이전은 합의문 그 어디에도 없다. 결단코 소녀상에 대한 이면합의는 존재하지 않을 뿐 아니라 정부가 이래라 저래라 할 수 있는 사안도 아니다.

まず、今回の合意は10億円で少女像を売ったものか? これこそ合意を故意に曲解して蔑視する日本右翼の悪質な宣伝だ。 合意の本質は(1)日本政府の加害事実および責任認定、(2)安倍晋三首相の謝罪反省表明、(3)その証として日本政府の予算で10億円を拠出することにある。一言で言えば、今回の合意は慰安婦の事実を希薄化しようとする歴史修正主義者安倍首相に膝をつかせたと解することが適切だ。少女像の撤去や移転については合意文のどこにもない。もちろん少女像に関する裏合意も存在しないし、そもそも政府がどうこうすることができる事案でもない。

(略)
(※:引用にあたって丸付き数字をカッコ書きに改めた)

http://www.rhf.or.kr/main_sub/sub.php?id=4&folder_idx=13&folder_page_idx=52

一言で言えば、少女像の撤去・移転など合意されていない、という主張ですね。記事を書いたのはイウォンドク(이원덕)国民大教授ですが、この人は財団理事の一人ですから、和解・癒し財団の見解と言ってもいいでしょう。
和解・癒し財団の活動が頓挫した原因の一つは、和解・癒し財団から支給されるお金が、少女像撤去とバーターになっていると韓国社会が認識したからです。実際には合意の公開部分にも非公開の裏合意にもそのような条件は無かったわけで、その意味でイウォンドク氏の説明は正しかったわけですが。

では、韓国社会はなぜ、和解・癒し財団を通じた日本政府からのお金が少女像撤去とバーターになっていると認識したのでしょうか?

言うまでもなく、日本政府・マスコミがそのように報じたからですね*2

要するに、“少女像撤去は合意内容に含まれている”“韓国は少女像を撤去しろ”という日本政府と日本社会の追加要求が、最終的に和解・癒し財団を活動停止に追い込んだわけです。

そのくせ、今になって、財団の解散について懸念を示しているわけで。

何でしょうねぇ。
私には、今回の日本社会の言動が、自分で生卵を床に叩きつけておきながら卵が割れたことに怒っているようにしか見えないんですが。

ちなみに上記のイウォンドク氏の記事ですが、他にも色々興味深い主張をしています。慰安婦問題に関する研究・調査や、歴史的教訓としての教育、追悼などは今回の合意とは無関係に継続されるべきだとか、10億円は事実上の賠償金(사실상의 배상금이다)だとか言っているんですよね。
10億円の性質については、日本政府が合意直後から「賠償ではない」*3と否定する発言を出しています。曖昧に表現するという知恵も無いのか、韓国を侮辱したいというレイシズムに染まっているのか、慰安婦問題が解決しないことを望んでいるのか、マウンティングしないと気が済まない本能に忠実なのか、ともかく日本政府の対応は呆れたものでしたね。



*1:韓国女性家族部長官が「望んでいる」とのインタビュー記事が出ていましたが、文政権として確定しているわけではないようです。

*2:合意直後に岸田外相が「在韓国日本大使館前の慰安婦像について適切に移転されるものと認識しています」等という発言が出ています。他にも多数同様の発言が自民党から出ていますね。稲田朋美とか佐藤正久とか山東昭子とか。http://scopedog.hatenablog.com/entry/20160102/1451667329

*3:岸田外相。 http://www.huffingtonpost.jp/2015/12/28/japan-korea-agreement_n_8882714.html

鄭鉉栢女性家族部長官に対する京郷新聞インタビュー(2018年1月22日)の内容について

今回の慰安婦問題関連では日本側の報道はまるっきり当てにならないと思ってますので、インタビュー内容についても実際に京郷新聞記事を見ないと判断できないな、ということで探していました。で、京郷新聞のWeb上にアップされているのを見つけた次第。ただし韓国語のみ。
[인터뷰 전문]정현백 여가부 장관 "화해·치유재단 올해 안에 청산"

慰安婦問題のみに関するインタビューかと思ってたんですが、後半は女性問題に関する内容です。“女性家族部”というのは日本には無い省庁ですから、それにまつわる話と言う意味では興味深いのですけどね。
それはさておき。

和解・癒し財団(화해·치유재단)の解散に関するやり取りはこの辺です。

  • 여가부 점검반이 지난해 말 화해·치유재단의 설립과 운영 과정에서 벌어진 문제들을 점검하고 발표했다. 화해·치유재단은 어떻게 되나.

“2015년의 한·일 위안부 합의는 ‘조약’이 아니다. 지금 남은 문제는 화해·치유재단이고, 정관 상으로는 외교부와 논의해 함께 처리하게 돼 있다. 재단을 어떻게 할 것인지는 주로 여가부의 몫이다. 대통령께서 피해자 중심으로 접근하겠다고 했다. 외교부 장관도 피해자 할머니들을 만나고 있으나 피해자 분들과 직접 접촉하고 관련 단체들과 논의하는 것은 주로 여가부가 한다. 피해자들과 관련 단체들은 계속 재단 해산을 요구하고 있다. 재단에서 이미 다섯 분의 이사가 사퇴했고 남은 이사들은 외교부 파견, 여가부 파견, 그리고 사무처장 세 분이다. 이미 (현금을) 지급받은 분도 있고, 지급신청을 했으나 못 받은 분도 있다. 실무적인 절차를 마무리하는 데에 조금 시간이 걸리겠지만 사실상 재단의 기능은 중단됐다. 피해자 분들이 해산을 요구하고 있기 때문에 대통령께서 표방하신 피해자 중심주의에 토대를 둔다면 새로 이사를 선임하는 것은 불가능하고 결국은 청산으로 가는 절차를 밟을 수밖에 없다. 1년은 걸릴 것으로 본다. 법적인 절차를 거쳐 연내에는 청산하게 되기를 바라고 있다.”

  • 일본이 제공한 10억엔은 어떻게 할 것인가.

“피해자나 관련 단체들이 전액 국고 환수를 주장하고 있어서, 정부로서는 그분들의 견해를 존중하면서 일을 처리할 수밖에 없을 것 같다. 2주 전에도 김복동 할머니, 길원옥 할머니 등 피해자 분들을 만나뵈었다. 당장 재단을 해산하고 10억엔을 환수하라고 하시면서도, 대통령님을 비롯해 국내 여러 분들이 신경 쓰고 도와주시는 것에 대해서 감사하게 생각하시는 마음을 표현하더라. 일 처리하는 속도가 늦어지는 사이에 할머님들이 돌아가실 수도 있어서, 그러면 우리도 마음이 많이 힘들 것 같다. 가능하면 빨리 하려고 노력을 하겠다.”

http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?artid=201801230005001&code=940100

鄭長官は財団の定款上、外交部と議論して処理することになっているが、主たる責任は女性家族部にあると主張しています。元慰安婦や関連団体はずっと財団の解散を要求していると語り、半数の理事が辞任し財団の機能は停止状態にあるが、被害者中心主義を掲げる以上、新しく理事を選任するのは不可能で最終的には精算するしかない、と述べています。実務的な手続きに1年はかかるという見通しを示していますが、精算については「願っている(바라고 있다)」という表現で、文政権の方針として確定しているわけではなさそうです。

個人的に重要だと思っているのは「이미 (현금을) 지급받은 분도 있고, 지급신청을 했으나 못 받은 분도 있다」という部分。「すでに(現金を)支給された方もいて、支給申請をしたが受けられなかった方もいる」という内容です。既に支給を受けた元慰安婦や遺族らは良いとして、支給申請をしているのにまだ受け取っていない元慰安婦あるいは遺族らに対しては早急に対応すべきでしょうね。
支給が滞っている原因は理事の欠員により決済できないという事務的な問題でしょうが、財団の規程を改訂するか韓国政府の予算で代替支給するかを早急に決めて実施しないと、それこそ時間がありません。

個人的には、財団の存在自体は残しておけばいいのにとも思いますが、一時金を支給する以外の機能がありませんので解散しても特に問題は無いと思っています。ただし、支給申請をしているのにまだ受け取っていない元慰安婦あるいは遺族らに対しては、速やかかつ適切に対応されることが大前提で、これはちょっと外さない条件です。まあ、それに対応しないことはなかろうと思ってはいますけどね。



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統一関連の問題の方が韓国にとっては重大事だということ

北朝鮮の絡む統一問題が韓国政治ではセンシティブな話題であることがわかるなぁ。

文氏支持率、初の50%台=北朝鮮五輪参加で下落―韓国調査機関

1/25(木) 14:06配信 時事通信
 【ソウル時事】韓国の調査機関リアルメーターは25日、文在寅大統領の支持率が前週比6.2ポイント下落して59.8%となり、昨年5月の就任以降、初めて50%台を記録したと発表した。
 不支持率は6.3ポイント上昇、35.6%になった。
 平昌冬季五輪への北朝鮮参加やアイスホッケー女子の南北合同チームなどへの不満が徐々に広がりつつある表れとみられる。
 支持率を世代別にみると、20代が4.2ポイント減の67.0%で、30代は6.2ポイント減の66.9%。40代では9.4ポイント減と世代別で最も大きい下落幅を記録し、68.8%に低下した。
 一方、支持率が最も低かったのは60代以上の47.0%。下落幅は4.8ポイントだった。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180125-00000065-jij-kr

現実問題として、慰安婦問題に関連しての支持率変動なんかよりもこういった問題での変動の方が圧倒的に大きい印象です。“韓国は慰安婦問題を反日に利用している”とかいう論調が、日本側の幻想なんだろうなぁと感じますね。

ところで、時事通信記事は「平昌冬季五輪への北朝鮮参加やアイスホッケー女子の南北合同チームなどへの不満が徐々に広がりつつある表れとみられる」と書いていますが、リアルメーターでは、野党・自由韓国党による「平壌オリンピック」というネガティブ・キャンペーンや、北朝鮮視察団に対する否定的報道の影響を指摘しています。そして、文大統領が超党派での平昌オリンピック協力を要請したり、「平壌オリンピックではなく平和オリンピック」との報道官発表などで、24日には支持率下落傾向が下げ止まったという評価もしています*1

문 대통령의 지지율은 지난주 금요일(19일)에 64.4%를 기록했고, 자유한국당의 ‘평양올림픽’ 공세와 북측 현송월 점검단장 관련 부정적 보도가 확대된 22일(월)에는 60.8%로 내린 데 이어, 청와대 대변인의 ‘평창올림픽은 평양올림픽 아닌 평화올림픽’ 입장문 발표가 있었던 23일(화)에도 59.9%로 하락, 취임 후 처음으로 50%대로 떨어지며 조사일 기준 8일 연속 내렸다가, 북한의 2·8건군절 열병식 논란이 확산된 가운데, 문 대통령의 ‘초당적 평창 협력 요청’ 참모회의 발언 등 청와대가 나흘 연속 ‘평창올림픽 협조 요청’ 메시지를 발표했던 24일(수)에는 60.3%로 소폭 반등하며 하락세가 멈춘 것으로 나타났다.

http://www.realmeter.net/2018/01/%EB%A6%AC%EC%96%BC%EB%AF%B8%ED%84%B0-1%EC%9B%94-4%EC%A3%BC%EC%B0%A8-%EC%A3%BC%EC%A4%91%EB%8F%99%ED%96%A5%EB%AC%B8%EC%9E%AC%EC%9D%B8-%EB%8C%80%ED%86%B5%EB%A0%B9-%EA%B5%AD%EC%A0%95%EC%88%98%ED%96%89/

ちなみに今回のリアルメーターの調査は、24826人を対象として最終的に1509人の回答を得たもので、回答率は6.1%です。

이번 주중집계는 2018년 1월 22일(월)부터 24일(수)까지 사흘 동안 전국 19세 이상 유권자 24,826명에 통화를 시도해 최종 1,509명이 응답을 완료, 6.1%의 응답률을 나타냈고, 무선 전화면접(10%), 무선(70%)·유선(20%) 자동응답 혼용 방식, 무선전화(80%)와 유선전화(20%) 병행 무작위생성 표집틀을 통한 임의 전화걸기 방법으로 실시했다. 통계보정은 2017년 8월말 행정안전부 주민등록 인구통계 기준 성, 연령, 권역별 가중치 부여 방식으로 이루어졌고, 표본오차는 95% 신뢰수준에서 ±2.5%p이다.

http://www.realmeter.net/2018/01/%EB%A6%AC%EC%96%BC%EB%AF%B8%ED%84%B0-1%EC%9B%94-4%EC%A3%BC%EC%B0%A8-%EC%A3%BC%EC%A4%91%EB%8F%99%ED%96%A5%EB%AC%B8%EC%9E%AC%EC%9D%B8-%EB%8C%80%ED%86%B5%EB%A0%B9-%EA%B5%AD%EC%A0%95%EC%88%98%ED%96%89/

そういえば、リアルメーターの別の調査結果に対して「ただ、1万人余りへの調査で回答したのは501人。回答率はわずか4・7%だった。無回答が95%以上だった背景は不明だが、回答者の多くは文在寅政権の支持層の可能性が高い」とか論評していた新聞がありましたね。
と思いましたが調べてみたら産経新聞というまとめサイトの記事だったので、ならしゃーない、って感じ。



*1:ただ、この下げ止まったという評価は統計的誤差を考慮すると点推定値が反発したとしても微妙だなと個人的には思いますが。

安倍日本の愛国教育の拠点完成

この件。

領土展示館が開館=尖閣竹島、日本の立場発信―政府

1/25(木) 9:17配信 時事通信
 沖縄県尖閣諸島島根県竹島に関する資料を展示する「領土・主権展示館」の開館式典が25日午前、設置場所の東京都千代田区市政会館で行われた。
 尖閣諸島竹島がわが国固有の領土であることを裏付ける公文書や写真などを展示、日本の立場を発信する。オープンは同日午後1時。
 政府が領土関連の資料を展示する施設を設置したのは初めて。資料では、1919年に尖閣諸島付近で遭難した中国漁民を日本人が救助した際、中華民国駐長崎領事から贈られた「感謝状」の中に、尖閣が日本の領土だと認める記述が残っていることなどが確認できる。
 開館時間は土日祝日、年末年始を除き午前10時から午後6時まで。入館は無料。 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180125-00000035-jij-pol

暇が出来たら行ってみようかな。
独島(竹島)関連で太政官指令があるかどうかは興味がありますし。

参考:「外務省サイトが「竹島外一島ノ義本邦関係無之義」(太政官指令 1877年3月29日)に触れないのはよほど都合が悪いからなんだろうね
(※:文書標題中の「竹島」は現在の欝陵島、「外一島」が現在の独島(竹島)を指している)

台湾が日本領だった当時に、尖閣が日本領だと書かれた文書に何の価値があるのかな。

「1919年に尖閣諸島付近で遭難した中国漁民を日本人が救助した際、中華民国駐長崎領事から贈られた「感謝状」の中に、尖閣が日本の領土だと認める記述が残っていること」とのことですが、1919年と言ったら、台湾が日本領だった時ですからねぇ。

尖閣が台湾に付属すると主張する中華人民共和国中華民国(台湾)にとって、台湾全体が日本の植民地になっていた時期の尖閣を「日本の領土だと認める記述」を示されても何の意味もなく、「わが国固有の領土であることを裏付ける公文書」にはならないんですけどね。
それにその時期の日本国内での行政区分で、尖閣が植民地台湾だろうが沖縄県だろうが、あるいは仮に東京都であったとしても、台湾が植民地でなくなって以降の中国にとっては何の関係もないでしょうに。



法律上の合意のシビアさの事例

例えば、安倍(仮)さんと朴(仮)さんが裁判所で、次のような合意を結んだとします。

朴(仮)さんは、安倍(仮)さん宅前に設置した銅像を撤去することを約束する。

でも、いつまで経っても朴(仮)さんは撤去してくれません。業を煮やした安倍(仮)さんは裁判所に強制執行を申し立てました。しかし、裁判所はこの文言では強制執行できません、と回答しました。
弁護士に言わせれば、上記の内容では給付義務が明示されておらず、単に「約束する」という意思を示したものとなるようです。

つまり、安倍(仮)さんの希望通りに撤去してほしかったのなら、本来こういう内容で合意すべきでした。

朴(仮)さんは、安倍(仮)さん宅前に設置した銅像を〇〇年〇〇月〇〇日までに撤去する。

参考:調停調書の「支払うことを約束する」を根拠に強制執行をしたい

では、合意の内容がこうだったらどうでしょうか。

朴(仮)さんは、安倍(仮)さん宅前に設置された銅像に安倍(仮)さんが懸念していることを認知し、適切に解決されるよう努力する。

各自考えてみましょう。

それはそれとして、外交の世界は国内法の世界よりもシビアだと思いますよ。



バカにはわからなかった国際司法裁判所の話

このバカの話。

韓国に徴用工像阻止へ働き掛け 政府「国際条約順守を」 - 共同通信

提訴しろというコメがあるがどこに提訴しろと?(笑)韓国は選択条項を受諾してないので国際司法裁への提訴を拒否できる。もっとも韓国が選択条項を受諾すれば日本が真っ先に提訴するのは「竹島問題」だろうけどね。

2018/01/18 08:35
b.hatena.ne.jp

どこに提訴するか?と言えば、国際司法裁判所ですね。

「韓国は選択条項を受諾してないので国際司法裁への提訴を拒否できる」というのは間違いで、ウィーン大使館条約の選択議定書に韓国は署名していますので、日本がウィーン大使館条約違反として提訴すれば、韓国は拒否できず、紛争は国際司法裁判所に付託できます。

そのあたりの話を以下の記事で述べました。

バカでもわかる国際司法裁判所

しかし残念ながらバカにはわからなかったようで、こんなコメがつきました。

バカでもわかる国際司法裁判所 - 誰かの妄想・はてなブログ版

この選択議定書だけを根拠に一方的にICJに付託し裁判を開始した事例はない。そもそも多国間条約で決めた管轄権は争いが多く事実上根拠は複数必要(https://goo.gl/3Xe6p5)。ブログ主は不可能な事を示し日本を誹謗しているだけ

2018/01/20 11:08
b.hatena.ne.jp

「この選択議定書だけを根拠に一方的にICJに付託し裁判を開始した事例はない」というのも、まあ間違いですね。ウィーン大使館条約に関する選択議定書に基づく提訴としては、1979年のテヘラン人質事件でアメリカがイランを提訴した事例がありますので。まあ、おそらくこの事例では国家代表等に対する犯罪防止条約違反も管轄権の根拠としているため、「この選択議定書“だけ”」という留保で逃げているつもりなんでしょうけどね。

で「そもそも多国間条約で決めた管轄権は争いが多く事実上根拠は複数必要」とか言い出しているわけですが、これは完全に嘘ですね。
ウィーン大使館条約に類似するウィーン領事館条約というのがありますが*1、この領事館条約の選択議定書を根拠に一方的に提訴した事例に、ブレアード事件(パラグアイが米国を提訴)、ラグラン事件(ドイツが米国を提訴)、アヴェナ他メキシコ国民事件(メキシコが米国を提訴)があります。
ブレアード事件は外交交渉で解決したため、管轄権審理に至りませんでしたが、他の2件は管轄権が審理され、認められ、米国の義務違反(訴因はウィーン領事館条約第36条)が認定されています。ちなみに米国はアヴェナ他メキシコ国民事件以降、領事館条約の選択議定書から脱退しています。

これらの事件は、ウィーン領事館条約の選択議定書以外に特に根拠が無いはずです。「事実上根拠は複数必要」という暗黒太陽の虚言をこれらの事実が否定しています。

参考資料は「多数国間条約の裁判条項にもとづく国際司法裁判所の管轄権 : 裁判所の司法政策と当事国の訴訟戦略の連関に着目して」です。

これ、そもそも暗黒太陽自身が挙げている「事実上根拠は複数必要(https://goo.gl/3Xe6p5)」の資料なんですけどね。相変わらず、ろくに読みもせずURLを張り付けてこけおどしに使う芸は健在のようですね。



*1:ウィーン大使館条約第22条に相当するのが、ウィーン領事館条約第31条